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「安倍首相の下、日本が世界的指導力を発揮した時代は終わった」自公大敗を海外メディアはどう見たか

木村正人在英国際ジャーナリスト
総選挙で大敗を喫した石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■自公は15年ぶりの過半数割れ

[ロンドン発]10月27日投開票の衆議院選(定数465)で連立与党の自民党は56議席減の191議席、公明党は8議席減の24議席となり、15年ぶりに過半数割れを喫した。石破茂首相(自民党総裁)は「国政は一時たりとも停滞は許されない」と続投の意向を示した。

米紙ニューヨーク・タイムズ(10月28日付)は「自民党党首が交代するのも時間の問題かもしれない。日本は不安定な新時代に入った」と指摘する安倍晋三元首相(故人)の元スピーチライターで、元内閣官房参与の谷口智彦氏の寄稿を掲載した。

中国やロシア、核武装した独裁国家・北朝鮮の脅威に対応するため日本は防衛費を引き上げなければならない。しかし日本経済は昨年末、景気後退に陥り、高齢化で年金・医療・介護の社会保障費は膨れ上がる。「防衛費をどのように捻出するのかさえ未知数だ」と谷口氏は嘆く。

■「自民党は道を失いつつある」

「長らく日本にとって欠かせない政治勢力であった自民党は道を失いつつある。現状に対する国民の嫌悪感を増大させるスキャンダルによって自民党は混乱し、弱体化している。安倍首相が退陣して以来、自民党の掌握力と国民を鼓舞する能力は弱まっている」(谷口氏)

日本がアジアでどんな役割を果たすのか、明確な青写真が求められている。しかし「日本は不確実な新時代を迎えようとしている。有権者の多くは日本の野党を有力な選択肢とは見ていない。日本にとって最も重要な政党が最も必要とされている時に失速している」(谷口氏)。

米紙ウォールストリート・ジャーナルの社説(10月28日付)は「与党・自民党は日本の有権者にソッポを向かれた。防衛が後退するリスクがある」との危機感を示した。「多くの国で起きているように有権者は政権交代が起きない範囲で不満のメッセージを送った」という。

■「成長と防衛を同時に成立させることは可能」

「有権者が自民党を非難した理由は簡単だ。自民党は政治資金スキャンダルに巻き込まれ、その前には統一教会との関係をめぐる騒動があった。デフレからインフレに転じたものの、賃金の伸びは続かない。改革をどのように引き継ぎ、成長を促すのか、誰も知らなかった」

WSJ紙の社説が最も重要視するのは「防衛」だ。日本は米国の同盟国としてアジアの安全保障の錨の役割を求められている。岸田文雄首相(当時)は5年間で総額2806億ドルをつぎ込んで防衛費を国内総生産(GDP)の1%から北大西洋条約機構(NATO)目標の2%に引き上げる。

「日本の有権者は防衛力の強化を望んでいるが、それと引き換えに経済に悪い影響を与えることを望んでいない。成長と防衛を同時に成立させることは可能であり、その方法を見つけ出した政治指導者が選挙で勝つだろう」と予測する。

■「政権交代を見る準備はまだできていない」

英誌エコノミスト(10月28日付)は「有権者が連立与党に歴史的な一撃を与える。しかし自民党は政権にしがみつく可能性がある」と指摘している。今回の選挙結果は「自民党には少し負けてほしいが、政権交代を見る準備はまだできていない」という年金生活者の一言に尽きる。

有権者は連立与党の自民党と公明党を懲らしめたいものの、乱立してまとまりのない野党には決定的な権力を握らせたくない。しかも、民主党政権下で起きた2011年の東日本大震災と原発メルトダウンの悪夢は有権者の記憶に生々しく残っている。

「選挙後の混乱からどんな政権が誕生しても、構造改革や防衛力増強のための増税など不人気な課題に取り組む可能性は低いだろう。安倍首相の下、日本が世界的なリーダーシップを発揮していた時期も終わりを告げるだろう。日本政治の次の段階は波乱に満ちたものになる」という。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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