50メートル下の海水温が異常に高い。台風11号発達の理由
台風が発達する条件の一つは海水温が高いことです。海水温が高いと、それだけ蒸発する水蒸気の量が多くなり、その水蒸気が熱(潜熱)を周囲に出し、その熱がまた台風を発達させるという循環によって、台風はどんどん発達することになります。
しかし台風自体が強くなりすぎると、その風によって海の水がかき混ぜられ、海の少し深いところ(50~60メートル)から、冷たい水が表面に出てきて台風を弱める働きをします。こうして台風が強くなればなるほど、やがて台風は弱まるという見事な自然のバランスが保たれます。
ところがもし、海の深いところの水温も高かったらどうなるでしょう。台風が海をかき混ぜても、下から再び暖かい海水が昇ってくるのですから、台風はなかなか衰えないということになります。
過去最も高かった海水温
図の左は、31日の表面海水温と、右は50メートル下の海水温です。これをみると、台風11号付近は30度以上のピンクのゾーンが大きく広がっています。沖縄気象台の報道発表では東シナ海(南部)の今年8月の海水温は30.1度(速報値)で、過去40年で最も高い記録になりました。
そして問題は右の図です。沖縄近海ではなんと、50メートル下の海水温も30度前後の場所があり、平年より2度以上も高くなっています。
この海の深いところの海水温の高さが、今回の台風11号を猛烈な勢力にした原因であることは間違いありません。
さらに言うと、過去2番目に海水温の高かった年は2016年でした。そしてその2016年にも、複雑に動く台風がありました。
2016年台風10号“ブーメラン台風”との類似
東北地方に統計史上、初めて上陸した台風として衝撃を与えたのが、2016年台風10号です。昨年のNHK朝ドラ「おかえりモネ」でも、この台風がモデルに描かれてたので、記憶に残っている人もいるでしょう。
この台風は今回の11号のように西へ進んで、そのあと北上するという大変珍しいコースをとりました。この複雑なコースをとったのは、実は同じ時期に房総半島に上陸した台風9号があったからです。
その9号によって進路が複雑に変化したのです。
千数百キロ以内に複数の台風や熱帯低気圧があると、相互に影響し合うというのは今から100年くらい前から知られています。明治の気象学者、北尾次郎が理論的に考え、これを第5代中央気象台長・藤原咲平が発展させたことから“藤原の効果”と言われています。
動画は、今年8月30日からの台風11号の雲の様子です。11号の南にある雲の塊が熱帯低気圧で、今回も藤原の効果によって、台風11号はいったん南に下がりました。
しかし、熱帯低気圧は台風11号に取り込まれるような形で消滅してしまったので、このあとは台風自身が北上する性質(地球の自転による)や、太平洋高気圧の影響で、北に上がってくると予想されます。
進路に当たる地方が気をつけること
沖縄の農業関連の知人によると、台風接近時に重要なことは農場周辺にある“飛ばされやすいモノを片付けること”だそうです。特にビニール類のシート状のモノは飛ばされて電線を切ったりするので、必ず屋内にしまったりしなければなりません。そうでないと、自分が加害者になる可能性もあるからです。
これは農場に限らず、普通の家屋やマンションのベランダにも言えるでしょう。
また本州などでは、台風接近時に用水路に詰まりが無いかを確認するために田んぼに見回りに行く人が居ることもあるようです。
これも大変危険なことで、暴風雨になったら腹を決めて、安全な場所でじっとしているほかありません。
今回の台風は強い勢力を保ちながら沖縄近海をウロウロし、週明けには九州方面に接近する可能性があります。つねに新しい情報を手に入れて、早めの対策をお願いします。
参考
沖縄気象台ホームページ
2021年8月2日Yahoo!ニュース記事 「おかえりモネ」ドラマの中の台風8号は実在していた 台風コースに異変があるのか
2013年10月23日Yahoo!ニュース記事 「藤原の効果」のルーツは