珍しく西進した台風12号のトロコイダル運動
西進した台風12号
珍しく本州南岸を西進した台風12号は、三重県に上陸後、中国の山陽地方、九州北部を通って九州の西海上を南下、種子島付近で一回転しています(図1)。複雑な動きをしながら種子島近海で動きが遅くなり、九州南部から四国地方の南東斜面を中心に大雨が続きました。
これは、渦がほかの渦と影響しあうときによく見られる、トロコイド曲線を描くような動きであるトロコイダル運動です。
台風12号は、8月1日以降、西へ進みだしましたが、2日頃に一旦南下してから中国大陸に向かう予報です。ここでも小さく一回転するのではないかと考えられます。
これは、台風12号が上層の冷たい低気圧(下層には現れない低気圧)と相互作用をしたためでと考えられますが、上層の冷たい低気圧は次第に弱まりましたので、次第に回転半径が小さくなるトロコイド曲線です(図2)。
台風が同じ場所で2回転したことも
台風が、ほかの台風または上層の低気圧と相互作用をおこして回転する(反時計回りに回転する)ということは、希ではありますが、過去にはいくつも事例があります。
例えば、昭和39年(1964年)の台風14号は、8月16日から20日にかけて一回転したあと、21日から22日にも一回転してから九州に上陸しています(図3)。つまり、同じ場所で2回転からの上陸です。
夏期は、日本上空には台風を動かす強い風がなく、台風の動きは遅くて複雑なため、昔からトロコダイル運動はあったと思いますが、気象衛星や気象レーダーが登場するまでは、台風の位置を推定するのがやっとで、詳しい動きなどはわかりませんでした。
台風の眼もトロコイダル運動
台風が、ほかの台風または上層の低気圧との相互作用でトロコイダル運動をするだけでなく、台風システム全体と目の中心付近との間でもトロコダイル運動をしています。
図4は宮古島レーダーを用いた1時間ごとの台風の眼の動きです。昭和55年(1980年)の台風19号についてのものですが、全振幅で約50キロ、周期は6から8時間というトロコイダル運動をしています。
ただ、気象庁の発表する台風の位置や進行方向、進行速度は、急激な変化にならないよう、トロコイダル運動を意識して行っていますので、図4のような観測をそのまま使っているわけではありません。
もう少し滑らかにしたものが発表となっています。
台風12号は、太平洋高気圧の張り出しとともに西進して中国大陸に上陸の見込みです。
台風通過によって西日本や東日本では気温があがり、こまめに水分を補給するなどの熱中症対策が必要です。また、東日本を中心に大気が不安定となりますので、落雷や突風、激しい雨に備え、時折空を見上げて黒い雲がでていないかなどの積乱雲監視も必要です。
タイトル画像、図1の出典:ウエザーマップ提供。
図2の出典:著者作成のイメージ図。
図3の出典:気象庁資料をもとに著者作成。
図4の出典:気象庁予報部(平成2年)、予報作業指針・台風予報。