シティハンターの実写版がフランスで撮影中。フランスでの反応は?
シティハンターの実写版がフランスで製作されることになり、撮影が始まった。
フランスでは、来年2019年2月6日公開予定である。タイトルは「ニッキー・ラルソン キューピッドの香り(パルファム)」。
フランスではなぜか、冴羽リョウは「Nicky Larson」という名前になっていて、作品のタイトルにもなっている。フランスのオリジナルのタイトルのようだ。
監督と主演はPhilippe Lacheau(フィリップ・ラショー)、槇村 香はElodie Fontan(エロディ・フォンタン)である。
ファンからは「アジアで撮影するのか」という質問があったが、主にパリとコートダジュールで撮影するという。
フィリップ・ラショーは、役作りに当たって一番最初にしたことは「筋肉づくり」だったそうだ。
これがフランス版の海坊主だ
8月15日、監督のツイッターで、海坊主の写真が公開された。
ゲーム・アニメ世代向けのサイトGAMERGEN.comは、このツイートを報じる記事で「ほっとした」とタイトルにつけた。写真の海坊主が、オリジナルにかなり忠実だからだという。
「はげているし、筋肉が盛り上がっているし、黒いサングラスをかけている。そうだよ、ロケットランチャーもこのシーンで使われるに違いないさ。ただ、猫が苦手かどうかは、まだわからないね」と書いている。
なぜか評判が悪かった
このように、映画の製作が発表された瞬間から、「俺のニッキーに触るな!」とか「白人がリョウを演じるのか?」などのように、ファンの反応はかなりネガティブだった。
オリジナルのイメージを損なって欲しくない!オリジナルこそ絶対!という気持ちは、洋の東西を問わず世界共通のファンの心理のようだ。
熱烈なファンの中には、「ニッキー・ラルソン」というフランス語タイトルを決して使わず、必ず「シティ・ハンター」と呼ぶ一群さえいるのだ。
上述のサイトでも、初めて実写版のイメージがビジュアル化された物↓↓↓下のポスターが公開されたときの記事は、かなりシビアだった。
「あまり美しくはない。ヒーローの描き方はちょっと失敗しているけど、そうでもない。ポスターの一番上にある有名なカラスを含めて、アニメの雰囲気は出ている。 ちょっと希望はあるかな? ファンは、映画館のドアを開けるかどうかを決めるために、最初の予告編を心待ちにしているかどうかは、言うのが難しい」などと書いていたのだ。
コアなファンの最初の反応が、ネット上であまりにも否定的だったせいか、逆に「日本のファンは楽しみにしてくれているぞ!」ということで、日本人の反応が逆輸入された。
『20minutes』という、よく駅に置かれている無料新聞では、以下のように日本人のツイートを翻訳付きで紹介している。
監督はドロテ世代
監督・主演のフィリップ・ラショーは、「なぜ実写版をつくるのか」と聞かれて「私はドロテ世代で、シティハンターとドラゴンボールZが大好きだったから」と答えている。
ドロテ世代というのは、「クラブ・ドロテ」(1987−97)というエンタメ番組を観て育った世代のことだ。ラショーは1980年生まれの38歳で、小学生から高校生のときに、この番組を観ていたことになる。
ドロテというのは番組名であり、ドロテさんという番組の女性司会者&歌手の名前であり、番組が放映された民放局における当時の一大勢力であり、ムーブメントを代表する名前である(民営化に伴って、大量に日本のアニメとアメリカのドラマが輸入されて放映された)。
ドロテさんは現在65歳。彼女がチョイ役で実写版に出演するというので、ドロテ世代の人は盛り上がっている。
「クラブ・ドロテ」と、日本のアニメと、フランスのテレビの民営化は、極めて密接につながっている。
フランスでテレビが民営化されたのは、なんと1987年である。日本で初の民放放送が誕生したのは1953年。34年も遅い。(この遅れのせいなのか、フランスのエンタメ番組は、ドキュメンタリーやルポをベースにしたもの以外、とてもダサい。すみません)。
民営化の際に、日本のアニメとアメリカのテレビ番組シリーズが、大量流入したのだ。シティハンターも北斗の拳もセーラームーンもめぞん一刻も、この中にあった。
ちなみに、ちょい役といえば、モデルで女優のパメラ・アンダーソンも出演するということだ。役はまだわからない(しかし・・・年を取った女優は、本当にみんなフランス映画が好きだわねえ)。
なぜフランスで人気があるのか
それにしても、なぜそんなにシティハンターがフランスで人気があるのか。真面目な文化的考察をしてみたい。
もともとフランスは、人口比で言うと、日本の漫画が世界で一番売れている国ではあるのだけど。(よろしかったら拙著「ニッポンの評判」を読んでみてください)。
まず、冴羽リョウというキャラ。とてもラテン的で、始終女性を追い回し、明るく、それでいてキメる時はキメる。
女好きで、女性に対して博愛的というか誰でもいい(?)というか、そして女性を守る。これはフランス人男が伝統的に尊ぶ騎士道精神(?)につながると言ってもいいだろう(日本の武士道精神と同じでかなり崩壊しているが・・・)。これがウケる要素の一つだと思う。
こういうキャラは、ハリウッド映画ではあまりみかけない。カッコいい男はどこまでもカッコよく、コメディーの要素はほとんどないものだ。女好きだけなら、昔のジェームズ・ボンドのように存在するが、ずっこけるギャグの要素はない。
戦後、世界に最も強い影響を与えた文化は、間違いなくアメリカ文化だが、冴羽リョウのようなキャラはアメリカに存在しなかったのが、日本の漫画やアニメが爆発的に世界に普及した原因の一つだと思う。
それから、遠慮なく冴羽リョウを100トンハンマーで打ちつける槇村 香も、フランス人になじみやすいだろう。
監督自身も、100トンハンマーが大好きなようだ。「撮影開始まであと3日」のとき、ツイートに使ったのは例のハンマーだった(笑)。
セクハラの話題になったとき、あるフランス人女性は言った。「そういう男は張り倒してしまえ」。いかにもフランス女だなーと思ったものだ。強いのだ。実際、フランス製映画やドラマにも、そんなシーンがよく出てくる。香っぽいのである(ただし香のほうが愛嬌がある)。
そしてフランス男のほうも、「おーいて〜、そんなに嫌なの? じゃー仕方ないなー」と引き下がるべきものなのだ。ついこの前も、引き下がらずに腹いせに女に向かって物を投げ飛ばした男の映像がSNSで出回り、問題になったばっかりだ。
ストーカーとか陰湿な話にならずに、冴羽リョウのカラッとしているところが、フランス人の求めるノリに合うのだろう。
冴羽リョウはただのスケベかセクハラか
ただ、「スケベ」というのは、一つ間違えるとセクハラで痴漢になってしまう。
果たして今どき、こういうシーン↑↑↑の公開は許されるのか(苦笑)。
愛すべき冴羽リョウは、今どきはどこまで地をメディアにさらすことができるのか。
フランスは、アメリカと違って、かなり甘いところがある。
アメリカは、男の上司が女の部下を食事に誘うだけで、セクハラやパワハラで訴えられかねないピューリタン文化(清教徒的な潔癖主義)の国である。
でもそこはフランス。最近の#MeTooから始まった反セクハラ運動に対し、女優のカトリーヌ・ドヌーブが女性100人の連名で反論したのは有名な話だ。
「レイプは犯罪だが、誰かを口説こうとするのは犯罪ではない」「(多少はしつこくても)口説く自由は認められるべきだ」。セクハラ告発により、「『ピューリタニズム』の波が起きている」と主張した。
一方で、このような文化のために、フランスではセクハラに対する意識が鈍く、フランス女性がセクハラの被害にあって心から嫌がっている面があるのも事実である。政府はセクハラ対策に力を入れ、バスの中にも広告が出ているくらいだ。
当時のアニメ版「シティハンター」でも、フランスでの検閲で、暴力シーンや性的すぎると思われるようなシーンは、かなりの部分がカットされていたという。それでもパンティによだれはOKだったわけだ。今はどうかな?
またもっこりの描写は、たとえフランスやラテンと言えども、根がキリスト教文化なので、かなり異質に映ったようだ。今でさえ(今だから、か?)「セックスにとりつかれていてボッキを見せびらかす男」などと書かれてしまうのだ。
スケベとセクハラの線引きは難しい。オリジナルの漫画は80年代で、現代とは時代も意識も異なってきている。
冴羽リョウのどこまでがスケベキャラで、どこまでがセクハラ認定=描写カットになるのか、そんなところも観察してみたい。
日本でもアニメ版が製作
偶然にも、日本でもシティハンターのアニメ版が製作されている。こちらの日本公開予定は2月8日で、実写版のフランス公開と2日しか差がない。
どちらも楽しみ。フランスの実写版も日本のアニメも、どちらの国でもほぼ同時くらいに公開してほしい。話題になって動員数も増えるでしょうから、関係者の方々、よろしくお願いしますね!