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「舞いあがれ!」大事なテスト前なのに。舞と柏木の揺れる心理を描くわけ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「舞いあがれ!」より飛行する柏木(目黒蓮) 写真提供:NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「舞いあがれ!」(NHK)の第9〜11週はパイロットを目指すヒロイン・舞(福原遥)がプロフェッショナルの世界で飛行機を飛ばすことがいかに過酷か痛感する一方で、柏木(目黒蓮)と急接近していく。夢と恋、どちらにも情熱を燃やす瑞々しい二十代の主人公たちの姿を熊野律時チーフプロデューサーはどう捉えているのか話を聞いた。

――とても真面目にパイロットを目指している印象のあった柏木が合格する前から恋にのめりこんでいくように見えることを意外に思いました(ただし第46回の時点では「俺はお前のことを……」の先は言わずむしろ舞の心がざわついている)。熊野さんはどう解釈されていますか。

熊野「第9週後半の柏木の体験が彼のなかに大きく作用したと思っています。彼は父がパイロット、母が元CAというある種の航空エリートの家庭に育ち、父の影響もあってか、高い理想でガチガチに固められてここまでやって来ました。自分は絶対にできるはずという自信と、できる人間でなければならないというプレッシャーを抱えた彼が第9週の後半、ロストポジションをして手も足も出なくなります。自分は完璧だし、努力も怠らないから絶対にできると思っていた自信がガラガラと音を立て崩れて、必死に自分で立て直そうとしても立て直せず、挫折を味わいます。そういうことで挫折するようだったらパイロットにはなれません。そんなとき、舞を中心にして仲間たちが協力してくれる。最初はふわふわして見えて馬鹿にしていた舞が苦悩からの脱出に大きく関わってきたことで、一気に彼女への思いが募っていく。そのくらいダイナミックに転換する柏木が人間的に面白いと作っていて感じました。目黒さんがそんな柏木を魅力的に演じてくれました」

「舞いあがれ!」より飛行する舞(福原遥) 写真提供:NHK
「舞いあがれ!」より飛行する舞(福原遥) 写真提供:NHK

――舞たちがフライト課程に進むとすぐに飛行機に乗り込み、ソロフライトまで行うとあって驚きながら見ています。実際、あんなふうにすぐ飛行機を飛ばせるものなのでしょうか。

熊野「航空大学校のカリキュラムに則って描いています。何度も教官と一緒に乗り、中間審査をクリアした上でようやく一人で飛ぶことになります。取材で印象的だったのは、学生さんに、初めて自分一人で飛んだ時に感激したのかと尋ねると、『嬉しいという気持ちもありますが、自分で離陸から着陸までできるのか、ちゃんと飛べるのか不安の方が大きかった』という答えが多かったことです。フライト課程をはじめて数週間くらいの学生さんはみなさん疲れきっていますが、帯広のフライト課程をクリアした宮崎校の学生さんは一様に楽しそうで『飛ぶことっていいですよ』と快活に話してくれました。その落差が印象的で、ドラマに取り入れたいと思い、舞たちが元気なく不安になっている様子を第9週の最初に描きました。学生の操縦が下手なので気持ち悪くなることや、着陸がうまくいかないことはリアルな描写です。映像的に工夫してどこまで飛んでるのかどこまでそうじゃないのかわからないくらい、臨場感と迫力ある映像になっていると思っています」

――ほんとうに乗っているのですか? スタジオにコックピットの模型を作っているのかと思いました!

熊野「スタジオ撮影もありますが、実際に帯広で実機に乗っての撮影もしています。福原さんはあらかじめ身体検査や講習を受けて“航空機操縦練習許可書”を取得したうえで撮影に臨んでいます。そうしないとコックピットに乗って操縦桿を触ることができないんです。もちろん訓練機で、基本的に操縦しているのはプロのパイロットです」

――訓練生の取材をして感じたことを教えてください。

熊野「パイロットに向いている人は操縦技術に優れた特別な人かと思っていたら、航空大学校のどなたに聞いても、特別な能力は要りませんと言われました。突出した能力よりも、コミュニケーション能力が高く、不測の事態が起きたときの判断力のある人が向いているようです。フライトの状況は毎回違うので、刻々と変わっていく状況のなかで、すみやかに様々な情報を分析し、適切な行動を選択できるひとがパイロットにふさわしいそうです。その点、舞はこれまでも、常に人をよく見ていて相手の気持ちを受け止め、よりよいやり方を考え、皆と力を合わせて進んできました。慎重になって時間がかかるというところが課題ですが、パイロットの資質はあるのかなと思っています」

連続テレビ小説「舞いあがれ!」

総合:月~土 午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00 ※土曜は1週間の振り返り

BSプレミアム・BS4K:月~土 7:30〜7:45、出演:福原遥、横山裕、目黒蓮、山下美月、山崎紘菜、濱正悟、醍醐虎汰朗、佐野弘樹/永作博美、高橋克典、吉川晃司

作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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