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デマも飛んだ緊急事態宣言 発令前に政府が取り組むべき課題とは

安積明子政治ジャーナリスト
安倍首相はいつ緊急事態宣言を行うのか(写真:ロイター/アフロ)

緊急事態宣言が発令されるには

「安倍晋三首相が緊急事態宣言を出すと言われているが、本当か」

 3月28日の首相会見の前から、筆者の元に数々の問い合わせが相次いだ。総理大臣が緊急事態宣言を出すには、要件が必要だ。まずは新型インフルエンザ等対策特別措置法第15条に基づいて政府対策本部が設置され、国内で新型インフルエンザ等感染症の患者等、また新感染症の所見のある者の報告が必要になる。

 そして基本的対処方針等諮問委員会で重症例が通常のインフルエンザよりも相当多く見られ、かつ感染ルートが判明しないか判明していてもさらなる拡大の可能性が否定できないと判断された場合、総理大臣により緊急事態が宣言される。

 その準備は確かに進められている。26日に特措法に基づく政府対策本部が設置され、27日午後4時から第1回目の基本的対処方針等諮問委員会(尾身茂会長)が開かれた。

「引き続き、東京都内について、極めて強い危機感を共有した」

 諮問委員会の後に西村康稔経済再生担当大臣がこのように述べたのは、都内の新規感染者数が急増しているという現状だ。3月24日は17名だったのが、25日には41名に急増。26日には47名、27日には40名が報告された。(さらに28日には63名、29日には68名、30日には13名、31日には78名で執筆時点で最多)

疑心暗鬼がデマを呼んだ

 東京五輪の延長決定が発表されてから、感染者数が一気に増加したことで、「実態はより深刻ではないか」と不安視する声も出ている。また3月25日の小池百合子東京都知事の会見も影響した。週末の外出自粛を呼びかけた小池都知事は、「ロックダウン(都市封鎖)」「オーバーシュート(感染爆発)」と過激な言葉を連発。都知事による事実上の緊急事態宣言に、「権限もないのに、安倍首相の先を行こうとした」「7月に予定されている都知事選対策だろう」などと、批判の声も多かった。

 こうした疑心暗鬼がデマを生み出したのだろう。まことしやかに「4月1日に緊急事態宣言・4月2日にロックダウン」という情報が流れた。菅義偉官房長官は3月30日の会見で「現状ではまだ緊急事態宣言が必要な状態ではない」と述べたが、鎮静効果は薄かった。実際に筆者への問い合わせはこの後も続いている。

 しかしその内容がこの上なく陳腐なのだ。「安倍首相が緊急事態宣言を行うと官邸から大手広告代理店(実名)を通じて各テレビ・新聞社に流れている」というものだったが、通常の総理会見は官邸報道室が直接仕切る。だいたいなぜ緊急事態宣言を行うのに、「1億円以上の仕事しかしない」と言われる大手広告代理店をわざわざ介在させる必要があるのか。緊急事態宣言は五輪ではない。

 おそらく愉快犯的な創作だろうが、政治に少しでも関係がある人なら、すぐさま「デマだ」と気づくはずだ。だがそれでも止められず、チェーンメールのように回ったのは、ある意味で人々がパニックに陥っている証拠だろう。ちょっと前に「25度のお湯を飲んだり生姜を食べると新型コロナウイルス感染症に罹患しない」というチェーンメールが流れたことがある。25度のお湯(?)でウイルスが死滅するなら、なぜ36度の人間の体温で死滅しないのか。

緊急事態宣言発令を政府は否定するが……

 4月1日の参議院決算委員会で安倍首相は「最悪を想定し、すでに様々な可能性などについて準備をすすめている」と述べ、即時の緊急事態宣言の発令は否定した。だが日本医師会の横倉義武会長は同日、「医療現場としては、危機的状況宣言をしてもいいのではないか」と医療崩壊の危機を宣言。これは同日午後に開かれた政府の専門家会議でも指摘されている。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は同日の会見で、「すでに要件は満たしているので、事前に国民に知らせた上で緊急事態宣言は出すべきだ」と述べた。さらに経済活動の低迷による減収補償を明確に示すべきとして、「自粛と補償のセット」を提案している。

 しかし事前に国民に知らせるといっても、食料品や日常品の買い占めなどの混乱の発生は避けられない。実際に3月25日に小池知事が会見を行うことが報道されただけで、都内ではスーパーのレジの前には長蛇の列が発生した。

最たる「敵」に打ち勝つために

 いま政府がやるべきことは、ワクチン開発の促進や医療体制の充実に加え、国民生活の安心を保障することだ。4月1日に公表された日銀短観によれば、3月の業況判断指数(業況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いたもの)は大企業も中小企業もいずれも12月より悪化しており、製造業では「コロナショック」によるサプライチェーンの切断、非製造業ではインバウンドの落ち込みが影響していることが明らかだ。

 自民党は3月31日に「令和2年度緊急対策第一弾への提言」を政府に提出。事業規模60兆円(財政措置20兆円)の景気対策などを含む経済政策を提案。公明党も同日、収入減の人を対象とした10万円の現金支給を含む提言を提出した。政府は来週末の成立を目途に、経済対策を策定する予定だ。

 加えて、たとえ緊急事態宣言が発令されても、日々の食料や必要品が不足なく手に入り、生活に不安がないことを安倍首相自身が国民に直接保障することも必要になる。

 4月1日の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は東京都内で66名、全国で237名にのぼった。専門家会議は「2~3日で累積患者数が倍増し、そのスピードが継続してみられるなら、オーバーシュート」と定義した。いま最たる敵は恐怖である。それを除去する努力を政府は怠ってはならない。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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