岸本聡子・杉並区長「公約の達成状況」を公表 「48%という数字をどう見るかは、区民の判断」
東京都杉並区の岸本聡子区長が、2年前の選挙のときに掲げた公約「さとこビジョン」の達成状況を公表した。区の独自の集計によると、今年6月末の時点の達成率は、48.5%。この数値をどう評価すべきか? 9月3日の記者会見で問われると、岸本区長は「どう見るかは、区民のみなさんの判断」と答えた。
公約の達成状況を「Notionデータベース」で独自に整理した
区長公約の達成状況をまとめた資料(PDF)は、杉並区のウェブサイトで公開されている。ただ、それだけでは情報の解釈が難しいため、記者がデータを整理して、インターネットの情報管理ツール「Notion」のデータベースにまとめた。
※岸本聡子・杉並区長の公約「さとこビジョン」の達成状況(データベース)
このデータベースによって、公約を達成した政策だけを抽出して表示したり、「子ども」や「透明性のある区政」などのジャンルごとに公約を一覧したりすることができる。個々の関心にしたがって、さまざまな角度から、岸本区長の公約の内容や達成状況を確認していただければと思う。
区長就任からの2年間は「平坦ではなかった」
岸本区長は2022年6月の区長選で、わずか187票差で前職を破って当選した。杉並区初の女性区長として注目され、選挙戦の模様を記録したドキュメンタリー映画は異例の大ヒットとなった。
だが、議会に行けば、区長に反対する議員が少なくなく、すべての公約を押し通せる環境ではない。また、どんな政策も実現までには時間と労力がかかる。岸本区長自身も記者会見で「これまでの取り組みは平坦ではなかった」と振り返った。
区長に就任して2年。任期の半分が経過したのにあわせて、公約の達成状況をまとめて公表した。
公約の達成状況を「8つの基準」で判定
この公表資料(PDF)では、岸本区長の公約を「基本姿勢・主要施策」や「対話を大切にしたまちづくり」など、7つのカテゴリーに分類。それぞれのカテゴリーに6〜39の項目があり、合計で101の項目が公約として掲げられている。
たとえば、「区長に公用車はいりません」や「学校給食の無償化を目指して〜」などの具体的な政策がある一方で、「区立施設と区の職員は、コストではなく、杉並の財産です」といった抽象的な宣言もある。
それぞれの項目について、次の「ア」から「ク」まで8つの基準で進捗状況が判定されている。
(ア)岸本区長就任(令和4年(2022年)7月)以前にすでに実現しているもの
(イ)令和5年度(2023年度)までに実現したもの
(ウ)令和6年(2024年)6月末までに実現したもの
(エ)令和6年(2024年)6月末までに一部実現したもの
(オ)令和6年度(2024年度)末までに実現が見込まれるもの
(カ)令和6年度(2024年度)末までに一部実現が見込まれるもの
(キ)実現に向けて引き続き検討するべきもの
(ク)公約どおりの実現は難しいものの代替方法により実施するもの
学校給食費の無償化は「実現」 インボイス中止は「困難」
たとえば、「学校給食の無償化をめざして〜」という政策については、2023年9月の杉並区議会で「学校給食費の無償化」が可決され、実際に導入されたことから、「(イ)令和5年度(2023年度)までに実現したもの」と判定されている。
一方で、「中小事業者やフリーランサーに過大な負担を課するインボイス制度の導入中止を国に働き掛けます」という政策は、「(ク)公約どおりの実現は難しい〜」という評価になった。
その理由について、「制度は既に令和5年10月に開始されているため」としている。その上で、今後は「問題点があれば、特別区長会を通じて国に要望するよう提案していく」という方針を示した。
また、「駅前再開発、大規模道路拡幅計画など、住民の合意が得られていないものはいったん停止し、抜本的に見直します」という政策は、「(キ)実現に向けて引き続き検討するべきもの」とされた。
具体的な内容をみると、近くの住民から反対意見があった「JR阿佐ケ谷駅・北東地区の再開発計画」が当初の予定通り、実施されることに決まったことが記されていた。
このケースからも分かるように、「キ」に分類されている政策は、実際には岸本区長の任期内の実現が難しそうなものが多いといえる。
「公約が実現できなくても、区民と話し合うことが大切」
他の政策についても、それぞれの進捗状況は、杉並区のウェブサイトや記者が作成したデータベースで確認することができる。
岸本区長は就任してからの2年間を振り返って、「対話から始まる、みんなの杉並」をスローガンに実践を重ねてきたと説明した。
達成できていない公約があることを認めながら、「もし実現できない公約があった場合でも、区民としっかり話し合いをしていくことが大切だと思う」と述べた。