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学校給食費「無償化」実現するか? 賛否が拮抗「自民は反対、公明は賛成」杉並区議会

亀松太郎記者/編集者
学校給食費の無償化を含む補正予算案を提案した岸本聡子・杉並区長(撮影・亀松太郎)

東京都の杉並区議会で「学校給食費の無償化」をめぐって、議員の意見が対立している。公明・立憲・共産・維新などの会派が賛成する一方で、自民・都民ファーストなどの会派は反対している。

9月25日に開かれた総務財政委員会では、学校給食費の無償化を含む補正予算案に対する賛否が「5対4」と拮抗した。26日の本会議で議決がおこなわれるが、態度が不明の議員もおり、否決される可能性もある。

区立学校に通う約3万人の「給食費」を無償化

学校給食費の無償化は、9月11日から開催されている杉並区議会・第3回定例会の目玉といえるテーマだ。区立の小・中学校と特別支援学校64校に通う約2万9500人の児童・生徒を対象に、今年10月から給食費を無料にするという施策である。

導入の目的について、区は「少子化が加速する中で、子育てを社会全体で支える視点から、子育てにおける経済的負担の軽減を図るため」と説明している。

来年3月までの半年間の予算として、9億4449万円を補正予算案に計上。区議会に提案した。財源は、決算剰余金の一部をあてるとしている。

杉並区の区立学校の給食費は学年によって異なるが、小学3、4年生の通常給食は1食あたり約284円(今年2月時点)。半年間の負担額は1人あたり約3万円という。

もし補正予算案が可決されれば、区立の小・中学校と特別支援学校に通う子どもはこの給食費を負担しなくてもよくなる。

学校給食費の無償化のため、約10億円が補正予算案に計上された(出典・杉並区の配布資料から)
学校給食費の無償化のため、約10億円が補正予算案に計上された(出典・杉並区の配布資料から)

区長選の「公約」だった給食費無償化

学校給食費の無償化は、昨年7月に就任した岸本聡子区長にとっても大きな意味を持つ。前区長を接戦で破って当選したときの「公約」の一つだからだ。

就任1年を迎えた今年7月の記者会見でも、給食費の無償化について「子どもたちを支援していくという社会全体の合意を国にきちんと伝えていくためにも、基礎自治体が一歩を踏み出すことが非常に重要」という考えを述べている。

杉並区以外に目を転じると、この1年の間に、台東区や葛飾区、世田谷区など多くの区が学校給食費の無償化に踏み切った。

そんな流れの中で、岸本区長は満を持して「給食費の無償化」を提案したが、賛成する議員ばかりではなかった。

杉並区議会の総務財政委員会で答弁に立つ岸本聡子区長(撮影・亀松太郎)
杉並区議会の総務財政委員会で答弁に立つ岸本聡子区長(撮影・亀松太郎)

自民は「私立や国立の児童・生徒も対象とすべき」と反対

9月25日の総務財政委員会。岸本区長の提案に反対する会派の議員から、厳しい意見が相次いだ。

自民党・無所属の渡辺(わたなべ)友貴議員は「今回の給食費無償化の対象は、区立学校に通う世帯のみ。私立や国立、都立の児童・生徒を対象としないのは不当な差別だ」と批判した。

また、無所属・都民ファーストの安斉昭(あきら)議員は「給食費無償化の導入の参考にするために実施したアンケートが、公立小・中学校の保護者のみに限定しているのは乱暴な対応」と、政策決定のプロセスに問題があると非難した。

さらに、無所属の堀部康(やすし)議員は、給食費が校長らの個人口座で管理される「私費会計」となっている現状を批判。「給食費を全額公費で負担するのに、私費会計のままなのは納得できない」と反対した。

共産・立憲・公明・維新は「給食費無償化」に賛成

一方で、岸本区政を支持している共産党と立憲民主党のほか、是々非々の立場の公明党や維新の会の議員が、学校給食費の無償化に賛成した。

「憲法で義務教育は無償とされている。その趣旨からすれば、学校給食も無償とされるべき」<共産・富田琢(たく)議員>

「昨今の物価高の中で、少子化対策や貧困対策のため、保護者の負担を軽減することは非常に重要」<立憲民主・松本浩一議員>

「他の22区が給食費無償化を実施したり、実施の意向を示したりしている中で、少子化対策の観点から、重要かつ必要な政策」<維新・松本光博(みつひろ)議員>

「これまで教育に関する負担軽減策を推進してきた立場から、国に先行して給食費を無償化することに賛成」<公明・中村康弘議員>

杉並区議会・総務財政委員会の採決シーン。学校給食費の無償化は、5対4で承認された(撮影・亀松太郎)
杉並区議会・総務財政委員会の採決シーン。学校給食費の無償化は、5対4で承認された(撮影・亀松太郎)

委員会は1票差で「給食費無償化」承認

総務財政委員会のメンバーは、委員長をのぞいて9人。約7時間に及んだ補正予算案の審議の末、採決がおこなわれた。その結果は、賛成5人、反対4人だった。

杉並区の学校給食費の無償化は、わずか1票差で承認された。

※上記の議員のほか、杉並みらいの会の田中朝子議員が賛成、自民・無所属の吉田愛(あい)議員が反対した。

杉並区議会の各会派の人数は拮抗した状態となっている(作成・亀松太郎/野村徳子)
杉並区議会の各会派の人数は拮抗した状態となっている(作成・亀松太郎/野村徳子)

本会議の議決の行方は?

現在の杉並区議会(定数48人)は、各会派の勢力が伯仲している。総務財政委員会の賛否をもとに、本会議での議決を推測すると、次のようになる。

【賛成】

公明(6人)+立憲民主(6人)+共産(6人)+維新(2人)+杉並みらいの会(1人)=21人

【反対】

自民・無所属(10人)+無所属・都民ファースト(4人)+無所属(1人)=15人

各会派の人数からすると、学校給食費の無償化は本会議で承認される可能性が大きいとみられるが、上記の会派に属していない議員が11人いる(議長をのぞく)。その賛否は明らかではないので、否決される可能性もある。

議案は、9月26日午後の本会議で議決される予定だ。その模様は、インターネットで中継される。

(追記)9月26日午後、杉並区議会の本会議で、学校給食費の無償化を含む補正予算案が賛成多数で可決された。

議長をのぞく47人の議員の賛否の人数は次の通り。賛成28人、反対17人、欠席2人。

記者/編集者

大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者を経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長として報道・言論コンテンツを制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースを配信。さらに、朝日新聞運営「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを買い取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営。在住する東京都杉並区のニュースを取材している。

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