ハリウッド業界紙が伝統を破りクリントン支持を表明。「今さら」と冷ややかな反応も
ハリウッドで最古の映画/テレビ業界紙「Variety」(現在はオンライン中心)が、111年の伝統を打ち破った。特定の大統領候補者への支持を表明しないという創刊以来のポリシーに背き、米西海岸時間1日(火)、ヒラリー・クリントンへの支持を表明したのだ。
「Variety」は、記事の中で、「編集長で発行人のミシェル・ソブリノ=スティームスは、伝統に背いてでも、公に対してこの選挙における自分たちの立ち位置を示すべきだと確信しました。ただ傍観したままでいて、歴史を振り返った時、自分たちが間違った側に立っていることにはなりたくなかったのです」と、理由を述べている。さらに、「クリントンは最高の候補者であるだけでなく、唯一の候補者。経験豊かで、真に有益な大統領を務めるにふさわしい性格を兼ね備えています。実際のところ、彼女ほどの深い知識と市民のための活動してきた実績をもつ大統領候補者は、ほかに思いつきません」と、クリントンを絶賛。「この国で初の女性の大統領を選ぶ時が、ついにやって来たのです。老いも若きも、女性たちは、自分たちの権利を守り、自分たちの目的のために尽力し、これからの世代のお手本となってくれる人に、大統領になってほしいと思っています」と宣言した。
一方でドナルド・トランプについては、「クリントンの正反対で、知識も経験もない」とし、彼にセクハラを受けた女性が多数名乗りを上げている事実や、彼が何度となく堂々と言い放ってきた人種差別発言などについて触れた。業界紙らしいことに、今年前半、ハリウッドで「白すぎるオスカー」批判が起こったことにも結びつけ、「ハリウッドやほかの世界がこの問題に直面している時、彼は、変化を奨励するモラル上のリーダーになる人ではありません」と批判もしている。選挙運動中、トランプがレポーターやメディア媒体に脅しをかけたことも挙げ、彼は言論の自由を尊重しない、大統領にまるでふさわしくない人物であるとも述べた。
「Variety」は、この日、この記事をトップに持ってきて、自らの大胆な行動を誇らしげに世間に示したが、人々の反応は、どちらかというと冷ややかだ。そもそも、ハリウッドでは昔から民主党支持者が多数派で、この選挙でも、ジェフリー・カッツェンバーグ、ジョージ・クルーニー、レオナルド・ディカプリオなど大物から、クロエ・グレース・モレッツ、レナ・ダナムなど若手まで、大勢の業界人が早くからクリントン支持を表明しており、「Variety」を含む業界紙は、それらのニュースをまめに報道してきた。「Variety」自体もクリントンを支持していると明かしたところで驚きはなく、むしろ、たとえば昔から共和党が強いテキサス州の「Fort Worth Star」が2月、アリゾナ州の「The Arizona Republic」が3月にクリントン支持を表明していることを考えると、「何を今さら」という気もする。
ソーシャルメディアには、「『Variety』が大胆にもクリントンを支持したことに感心しました。ブラボー!」などという賞賛のコメントもあるが、「『Variety』はショービジネスのバイブルとして知られてきたすばらしい媒体。でも、ヒラリーへの支持を表明したことで、愚か者に見えてしまった。彼らは自分たちのやるべきことに集中すべき。政治に関わらないほうがいい」「『Variety』の次はテレビ情報誌かい?それとも動物チャンネル?『Sport Illustrated』の水着特集号だけはやめてほしいね」といった皮肉なコメントのほうが多く見受けられる。ニュースサイトのいくつかには取り上げられたが、ライバルの「Hollywood Reporter」「Deadline」「The Wrap」などは、この「Variety」の行動について、いっさい報道していない。
ところで、クリントンへの支持を表明している新聞が、「New York Times」「Los Angeles Times」「Chicago Sun-Times」「Miami Herald」「Boston Globe」など有力紙を含め80紙ほどあるのに対し、トランプへの支持を表明しているのは、KKKの新聞「The Crusader」や、デマだらけで有名なゴシップ紙「National Enquirer」など、5、6紙だけである。選挙まであと1週間弱となり、差は大きくないとはいえクリントンが優勢である今、こちら側であることを宣言するのは、わざわざ111年の伝統を破るにしては、たしかにインパクトがない行動だったと言っていいだろう。それとも、正しいと思うことは、たとえ遅かろうと、やらないよりやったほうがいいと考えるべきなのだろうか。