なぜF・マリノスに新興企業が集まるのか?リミックスポイントと横浜F・マリノスがトップパートナー契約へ
マネーフォワードなどに続きトップパートナー契約締結を発表
『三方よし』という言葉がある。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」という意味で、商売上手で知られた近江商人(近江は現在の滋賀県)が大事にしてきた考えだ。現代的にいうなら商売に際して自社の利益だけでなく、顧客に100%満足してもらい、同時に社会貢献も実現していくというものだ。
一見、綺麗事にも思える言葉だがプロサッカーリーグのJ1リーグに所属する横浜F・マリノスの最近のスポンサー契約においては、昨年の金融系のウェブサービスを提供する株式会社マネーフォワードとの契約などからもそれが垣間見える。まさにファン・サポーター、スポンサー企業、クラブチームの「三方よし」(地域への還元ができたら「四方よし」)のスポンサーシップ契約の新時代に入ろうとしている。
そして、ここに新しい契約が生まれた。
今年8月1日に横浜F・マリノスと、株式会社リミックスポイント(以下、リミックスポイント)がトップパートナー契約を交わす。まだまだ新型コロナウイルス/covid-19の感染拡大は続いている現状もあり、東京オリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)は一部地域を除き無観客試合となった。そのコロナ禍にあっても、F・マリノスは7月1日に新たな鎖骨スポンサーとして建築設計やインテリアデザインなどの事業を展開するDRAFT Inc.とトップパートナー契約を交わした。
この状況下でF・マリノスは次々と新しいスポンサー契約を結んでいる。しかもマネーフォワードに続いて新興企業が多いのも特徴的だ。それは何故なのだろうか。
「アタッキングフットボール」とチャレンジング企業
リミックスポイントは”We are the ChangeMaker”を標榜、小売電気事業、暗号資産関連事業など時代に沿った新しいビジネスを展開してきたチャレンジングな企業だ。このコロナ禍でも好業績を続け、横浜F・マリノスと手を組みさらなるチャレンジを目指している。
リミックスポイント代表取締役社長CEOの小田玄紀氏、電力事業責任者である中込裕司氏、横浜マリノス株式会社 代表取締役社長の黒澤良二氏の3名に、契約に至った経緯やこれからのトップパートナーの在り方についてうかがってみる。
――今回の契約に至った経緯を教えてください。
黒澤 弊クラブは日産自動車サッカー部時代から続き、日本サッカー界の中では歴史と伝統のあるクラブだと思っています。しかし、そんなブランド力におんぶに抱っこになってしまうのも課題の一つと考えています。ですから、我々は『アタッキングフットボール』という言葉をモットーに、常にチャレンジにチャレンジを繰り返してきたわけです。今後もその姿勢は変えないつもりです。
そこで次世代に向けチャレンジ精神に溢れた企業様との取り組みを模索しているなかで出会ったのが、今回の株式会社リミックスポイント様だったのです。
今後一緒にチャレンジができる、今までの概念にとらわれない新しい取り組みをご一緒させていただけるのではないかと思いパートナーシップのご提案をさせていただきました。同じストーリーを歩むことができる企業様だと表現できると思います。ここはとても大切なところです。
――小田代表、契約のお話が最初に出たのはいつ頃だったのでしょうか。
小田 初めてお話が出たのは今年の4月か5月頃です。我々は『We are the ChangeMaker』を社是にしていますが、今までも、そしてこれからの時代もですが、変化に対応するため常にチャレンジを続けています。電力事業また暗号資産交換業を始めたのもそうした考えからです。そういった観点で、横浜F・マリノス様のプレースタイル、あるいは経営スタイルは我々の目指すところと絶妙にマッチしていたのです。ここが最大のポイントでした。
また、F・マリノス様をサポートする企業を見た時に日系大手の大企業からベンチャー企業まで多岐にわたっています。私たちもその企業のなかに一員としてジョインしたいという気持ちが強くあって、今回のパートナーシップ契約を果たしたのです。
――双方の方向性がマッチしたということですね。トップパートナーとして今後どのような活動をされていく予定ですか?
中込 電力事業の責任者である私からお話させていただきます。私たちはこれまで弱点としていた知名度の低さを向上させていくうえで、F・マリノス様のお力を是非お借りしたいと考えています。
その一環としてですが、例えばFマリノス様の名前を冠した新しい電力の供給サービスをつくっていったり、イベントの開催などを通じてユーザーの方々にFマリノス様とともに我々が提供する『リミックスでんき』というサービスを知っていただく機会を創出していきたいと考えています。
あと、実は初めてお話させていただきますが、社内にはすでに若手社員を中心に「Team Marinos」ができているんですよ(笑) チームを応援するため弊社の公式Twitter「@remixdenki」からも発信していきます。
小田 もう一つあるのは昨年のマネーフォワードさんとのパートナー契約なんです。あの記事を読んで試合後の選手やサポーターの対応が素晴らしかった。「こういった人たちと一緒にお仕事していきたい」と思わされましたね。
リミックスポイントとF・マリノスを繋ぐ、2つの「C」
――お話をうかがって「チャレンジ」もですが、もうひとつ「チェンジ」というCから始まる2つのwordも両組織の共通点のように感じました。F・マリノスも時代に合わせてシティ・フットボール・グループとのパートナーシップ含め経営スタイルを変えてきています。お互い通ずる部分があるなか、これからのパートナーとしての関係性はどのようにお考えですか。
中込 私たちは電力という大きな市場で戦っていますので、必然的にライバルとなるのも非常に強い企業ばかりです。そのなかで切磋琢磨して勝ち残っていかなければなりません。
ライバルが多いという点では、Jリーグで戦っているF・マリノス様も同じ。サッカーという大きな市場で常に強いライバルと戦っています。それにもかかわらずリーグが発足してからこれまで1度もJ1から降格したことがない、これは見事です。そこには勝利を越えたものがあるはずです。
私たちもチャレンジャーでありながら、そういったスタイルを学ばせていただき、この厳しい経営環境の中で勝ち残っていきたいとシナジーを感じています。
小田 中込が言ったとおり、電力というのは皆様の創造以上に非常に大きな市場であり、すべての人々が使っているものです。ですから、私たちがよりよい電力事業を展開してFマリノス様と提携することで、F・マリノスさまのサポーターの皆さまにもメリットになりうると真剣に考えています。我々が提供するべきものは2つあります。
1つは従来の電気料金よりも安く電力を供給すること。2つ目はクリーンエネルギーに対応した電力サービスを展開すること。ライバルの多い電力の市場で、多くの方の生活に貢献できるサービスを提供することが、F・マリノス様でいう「アタッキング」ではないですが新しい市場への挑戦になると感じているのです。
――このあたりアタッキング精神とベンチャー・スタートアップの挑戦するスピリッツの親和性が、近年のF・マリノスと新興企業との繋がりになっているように感じます。
「クラブの価値を高める」、これが第一です
――黒澤氏にとっては、クラブのお仕事で何が一番大切だとお考えですか。
黒澤 「クラブの価値を高める」、これが弊クラブとして第一にやってきたことです。
スポーツビジネスではマーケティング戦略を練るなど利益を上げるために様々な工夫をします。これは非常に重要で絶対に欠かせないものです。しかしながら、我々はサッカークラブであり、あまり利益を上げることだけに執着すると、「より魅力的なサッカーをやることが一番重要」ということを忘れてしまう場合があります。ですから、クラブの価値を高めるために、お客様が毎回見たくなるようなよりよいサッカーをやっていくことは、F・マリノスとしてとても大切にしていることです。
マリノスというクラブの価値を上げることで、リミックスポイント様にも貢献できるようなwin-winな形をつくっていきたいと考えています。
中込 先ほどの小田の話ではないですが、先日F・マリノス様の試合に伺ったのですが、その時応援するサポーターの皆さまの姿勢には驚かされました。私はこう感じたのです、「マリノスに何か与えてもらおうという姿勢ではなく、自分たちがマリノスに何か与えよう」という姿勢です。
今まで長い時間をかけてサポーターの皆様が有形無形の価値をチームに提供し続けてきたのだと。そしてチームも常に新しい価値をファン・サポーターに提供している。だからこそチームは評価されて今も多くのファンを惹きつけている。
私たちはサービスを売っている会社ですが、ただ電気を安くご提供するのではなく、このチームのようにお客さまに価値を提供していきたいと考えました。リミックスでんきを使い続けることを文化として醸成できるような活動を行っていけたら、これは面白いです。
――クラブの価値を高めるのは大事だと思います。先日7月3日の柏レイソル戦(@三協フロンテア柏スタジアム)などは「This is Football」と呼ぶにふさわしい試合でした。さて、SNS上では「マリノスのサポーターは大人だ」という表現も見受けたことがありますが、チームとの関係はどうなのでしょう?
黒澤 私から見ても、選手同士は仲が良く、選手スタッフがお互いの立場を理解しリスペクトし合える素晴らしいチームだと思います。たとえ1人の選手がミスにつながるプレーをしても周りの選手たちが補完し助け合う。こういった雰囲気が伝わっているのかもしれませんが、コロナ禍での声が出せない応援スタイルの中でも、スタンドからの手拍子などから、選手やクラブに対する力強いサポートを感じております。これは大変ありがたいことです。
小田 そういった部分を見習っていきたいですね。チーム全体で「みんなで勝つ」って重要じゃないですか。実は我社でも今回のパートナーシップ契約が決まってから、社員たちが非常に喜んでいまして。Fマリノスにどうやって貢献するか、というミーティングを社員が自発的にやっています。これはちょっと驚きましたね、スポーツチームに投資するというのはこういった効果を組織に生み出すんだと。みんなで勝つために、社員たち一人ひとりが自分ごととして事業に向き合ってくれるようになるのは組織として大きな変化です。
「F・マリノスファミリー」がつくるファンエンゲージメント
――リミックスポイントはNFTやブロックチェーンに関する事業も行われています。F・マリノスさんとも将来的にブロックチェーン技術を絡めた事業をおこなっていく予定はありますか。
小田 今後議論していく予定ですが、可能性としてはあります。最近、さまざまなクラブチームがクラブトークンの提供を始めていますよね。我々も今まで培ってきた技術を活用して、Fマリノス様とサポーターの皆様、そして我々が一体になれるようなサービスをつくっていきたいのです。
電力事業だけでなく、その先も考えていきたいです。感染症対策の面においても、当社が様々な感染症対策のソリューションをもっています。選手やスタッフ、そしてサポーターの方が安心して練習や試合に臨めるようなサポートも出来ると考えています。
――黒澤氏は、新しいファンエンゲージメントの技術についてどうお考えですか。
黒澤 私自身はブロックチェーンなどの技術面に関してはくわしくありませんが、海外のクラブを中心に、ファンの方々とのより強固な関係値を築くための新しい取り組みが積極的に行われています。
我々の事業部でも「FRM(ファンリレーションシップマネジメント)事業部」を設置しておりましてファンとのエンゲージメントには特に力を入れています。
より深くクラブや選手を知っていただき、より多くの方により深くFマリノスファミリーになっていただけるよう、ファンエンゲージメントの取り組みが極めて重要です。
――リミックスポイントさんは、今回のトップパートナー契約を踏まえて、今後どのようにスポーツ全般に関わっていきたいとお考えですか?
中込 東京オリパラ開催前の今回特に強く感じたことですが、スポーツはその競技をやっていない人でも一緒に熱くなれるものじゃないですか。自分にはまったく関係ない世界で、まったく別の人たちがやっている競技なのに、どうしてあんなにも応援できるんだろう?というのはスポーツの不思議なところだと思うんです。私自身、サッカーに打ち込んできたわけではないのに、試合になると知らない間に熱が入って得点が決まると叫び声を上げることすらあります。そうやって人々に熱い喜びを与えることは、スポーツ以外の分野でも必要になってくる時代になるんじゃないでしょうか。
例えばこれまでは商品の性能や価格などわかりやすい差別化で勝負してきましたが、これからはまったく別の「形のないもの」でお客さまに喜びを喚起させるような商品・サービスが勝っていく時代だとみています。
弊社では今までそういった無形の価値には取り組めていませんでした。今回の契約を機に、スポーツの根幹となっている「価値」を他の分野にも、ビジネス面にも生かしていきたいと真剣に考えています。今回の契約にはそういった意味もあるのです。
最も大事なことは「何をするか」よりも「誰とするか」
――Fマリノス側は今回のトップパートナー契約で今後どのような展開を期待していますか。
黒澤 具体的な目標は今後話し合っていくのですが、リミックスポイント様にFマリノスの価値を認めていただいた上で、双方の魅力や価値をどのように引き上げていけるかを考えていきます。前向きに知恵を出し合ってwin-winの、あるいはそれ以上の関係になれることを期待しています。
小田 パートナーシップを進めていく上で、最も大事なことは「何をするか」よりも「誰とするか」だと思っています。まずはリミックスポイントとFマリノスさんで同じ価値観を持ち、同じベクトルを向いていくことが大事だと思っています。F・マリノスファミリーの一員として時間を共に過ごし、チームのため、サポーターのため、地域そして日本のために何が出来るかを一緒に考えていきたいです。
(了)