松来未祐さんの「愛悼」イベント開催 命を奪った慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)とは
9月11日(日)に科学技術館(東京)で、去年38歳の若さで亡くなった人気声優・松来未祐さんを悼む会が開かれます。
『会えなくて「哀しい」気持ちを育てるより、彼女を「愛しい」という気持ちをみんなで大切にする時間を作りたい』という思いから「愛悼イベント」と名付けられました。
イベントの目的のひとつは、松来さんの命を奪った慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)の啓発や、研究の支援をすることです。
「EBウイルス」とは聞きなれない言葉ですが、実は20代の人で90%以上が感染しているとても身近なウイルスです。
通常は感染しても悪さをせず、体内で潜伏し続けるのですが、まれに病気を引き起こすことがあり、その一つがCAEBVです。
現在、全国で年間およそ23.8人の発症があると報告されており(平成21年厚労省研究班)、以前は子どもの病気とされていましたが、最近では大人から高齢者まで幅広い年齢に患者さんが存在することがわかってきました。
ではなぜ、ありふれたウイルスにより命が奪われるような事態が起きてしまうのでしょうか?そして治療法は、ないのでしょうか?
EBウイルスとは
EBウイルスはヘルペスウイルスの一種であり、おもな感染経路は唾液とされています。日本人では、2~3歳までにおよそ7割、20代で9割以上が感染すると考えられています。
このウイルス、小さいころに感染すれば症状は出ないのですが、思春期以降に感染すると下記のような症状を示す場合があり「伝染性単核球症」と診断されます。
※唾液を通して感染することからキス病(Kissing Disease)とも呼ばれます
伝染性単核球症には治療法はありませんが、多くの場合はおよそ4-6週間で症状は自然になくなると言われています。(まれに重症化することもあります)
慢性活動性EBウイルス感染症とは
では、松来さんの命を奪った慢性活動性EBウイルス感染症とは、どんな病気なのでしょうか?
ひとことで表わせば「私たちの体にあるリンパ球の一種にEBウイルスが感染し、働きがおかしくなる病気」と言えるかもしれません。
私たちの血液の中にある「リンパ球」は、ウイルスや細菌などの病原体から体を守る役割をしています。
リンパ球にはB細胞、T細胞、NK細胞の3種類があり、それぞれ役割分担をして働いています。
EBウイルスは、私たちの体内に侵入すると、このリンパ球に感染して潜伏します。
通常はB細胞に感染するのですが、ごく稀にT細胞やNK細胞に感染してしまうことがあります。それが慢性活動性EBウイルス感染症の原因ではないかと考えられています。
この病気が怖いのは、進行すると治療の効きにくい悪性リンパ腫や、血球貪食症候群といった重篤な病気となってしまう危険があることです。
発症しやすさには地域差があり、日本、韓国、中国などの東アジアに患者が集中していることがわかっています。
治療法は?研究は進んでいるの?
この病に治療法はあるのでしょうか?そして研究は進んでいるのでしょうか?
EBウイルスの専門家、新井文子さん(医師・東京医科歯科大学大学院血液内科講師)に聞きました。(一部は松来未祐さん愛悼イベント 「サンキュー! 未祐ちゃん」HPより引用)
Q)何が原因でCAEBVを患ってしまうのでしょうか?
EBウイルスは全世界のほとんどの人が幼少期から思春期に感染をうけ、ひとたび感染すると排除されずに一生体内に存在し続けます。通常はB細胞に潜伏感染しています。
なぜCAEBVの患者さんではT細胞やNK細胞へ潜伏感染しているのか、なぜ慢性炎症症状がおこるのか、そしてなぜ、悪性リンパ腫や血球貪食症候群に進行するのか。まだわからないことがたくさんあります。
ですが、東アジアに患者さんが集中していることは、発症原因を調べる上で何らかのヒントになると考えています。
Q)治療法はありますか?
残念ながら、効果をもたらす薬剤はありません。リンパ球を作る「骨髄」をほかの人のものと入れ替える「骨髄移植」が唯一の治療法です。
主に小児のCAEBVを対象とした場合、骨髄移植後3年の生存率は95.0%(大阪母子保健総合医療センター)というデータも出ています。しかし残念ながら、成人のCAEBVでは移植の成績が劣り、私共(東京医科歯科大学血内)のデータでは3年生存率は61.5%です。
Q)治療には早期発見が重要なのでしょうか?
CAEBVは早く見つかれば助かる、とも言えないと思います。非常に進行の早い人もいますし、20年以上かけてゆっくり進行する方もいます。
診断は早いにこしたことはありませんが、ひとたび進行の速度が速まるとどうしようもありません。何がそれを(進行の早い、遅いを)規定しているのか。本当に奥が深く難しい病気です。
Q)今後、どのようなことが求められるのでしょうか?
まずは、理解が進むことです。この病気の早期の主な症状は、発熱やだるさなどの炎症症状ですので、患者は専門である血液内科を受診するとは限らず、消化器内科・皮膚科・眼科など、様々な科を受診します。
これらの科では残念ながらまだまだ周知が不十分ですので、まずは医師に疑っていただけるようになるよう、理解を促進したいと考えています。
その他にも、現状では確定診断に必要な「DNA定量検査」が保険の適用を受けることができません。CAEBV患者会は、この検査の保険収載を活動目標の一つにしています。
松来さん愛悼イベント 主催者たちの思い
今回のイベントのHPには、主催者からのこんなメッセージが記されています。
報道によれば、松来さんは『元気になったら手記を発表してCAEBVを知ってもらい、一人でも多くの命を救いたい』と話していたといいます。
まだ研究も、理解も進んでいないCAEBVにより命を奪われた松来さん。その思いが、今回のイベントなどを通じて少しでも多くの人の心に届き、病の理解や研究の発展につながることを願ってやみません。
主催者によれば、9月11日のイベントでは松来さんの写真や衣装の展示会のほか、骨髄バンクの登録説明会やチャリティーグッズの販売などが行われ、入場無料で参加できます。
またCAEBVや骨髄移植についての講演会が開催され、先着順で受講できます。
詳細は、下記ページをご覧ください。
なおイベントの収益は、最低限必要な運営費・製造原価などを除き「慢性活動性EBウイルス感染症の研究費用」「日本骨髄バンクの運営費」などに寄付されるとのことです。