なぜバルサはアンス・ファティに期待するのか?メッシから「10番」を引き継いだ男の苦悩と挑戦。
復帰が、待ち望まれていた。
アンス・ファティが、ピッチに戻ってきた。リーガエスパニョーラ第34節マジョルカ戦で復帰を果たすと、第35節のベティス戦では先制点をマーク。ペドリ・ゴンサレス、ジェラール・ピケといった主力が負傷離脱するなか、貴重な勝ち点をチームにもたらした。
ファティが最後に公式戦に出場したのは、1月20日に行われたコパ・デル・レイ準々決勝のアトレティック・クルブ戦だった。バルセロナはその試合で敗れ、コパ敗退が決定した。
■バルセロナの新たな10番
バルセロナは今夏、リオネル・メッシがパリ・サンジェルマンに移籍した。メッシから「10番」を引き継いだのが、ファティだった。
ファティは2019年8月25日にエルネスト・バルベルデ当時監督の下でトップデビューを飾った。16歳298日でのトップデビューは、クラブ史上2番目の記録だった。
バルセロナは今季、そのファティと契約延長を行なっている。2027年夏までの長期契約で、契約解除金は10億ユーロ(約1350億円)に設定された。この額を支払えるクラブが存在するはずはなく、クラブとしては“譲渡不可能”というメッセージだった。
ファティだけではない。バルセロナは今季、ロナウド・アラウホ(契約期間2026年夏まで/契約解除金10億ユーロ)、ペドリ(2026年夏/契約解除金10億ユーロ)とカンテラーノや若手選手と次々に契約延長を行なっている。
昨年10月に発行されたバルセロナのクラブ誌には、『DREAM TEEN』の見出しが踊った。「若者の夢」と題され、バルセロナの若手選手が紹介されている。ファティ、ペドリ、アラウホ、ガビ、ニコ・ゴンサレス、リキ・プッチ、セルジーニョ・デスト、エリック・ガルシア、オスカル・ミンゲサ、ユスフ・デミル、イニャキ・ペーニャ、アレハンドロ・バルデ、アルナウ・テナス、アレックス・コジャド、彼らが“バルセロナの未来“として挙げられた。
なかでも、ファティは特別な存在だ。「違いをつくれる選手で、この数ヶ月、彼を戦力としてカウントできないのは本当に残念だった。ファティはスペシャルな選手なんだ」とはシャビ・エルナンデス監督のコメントである。
■負傷と苦悩の日々
指揮官が語るように、ファティは負傷に苦しめられていた。
ひざの負傷で、2020−21シーズンをすでに棒に振っていた。そして迎えた今シーズン、2度にわたり負傷離脱を強いられた。
また、メッシの後の10番という重圧があった。
メッシが残した穴は大きかった。メッシはバルセロナで778試合に出場して672得点を記録。バロンドール7回受賞、ピチチ(リーガの得点王)8回受賞はさることながら、同一クラブでの得点数はペレ(643得点/サントス時代)のそれを大きく上回っている。
「僕はファティのプレーが好きだ。彼をサポートしていきたいと思っている。ファンタスティックな選手で、成功するための要素を全て兼ね備えている。だけど、僕の視点で言うなら...少しずつ馴染ませていってあげて欲しい。あまりプレッシャーを与えず、徐々に、だ。僕はキャリアをスタートさせた時に、そうしてもらったからね」
これはメッシの言葉だ。
フットボールはコレクティブなスポーツだ。ファティ一人で試合を解決するというのを、期待するべきではない。
何より、いまはファティの復帰を喜びたい。負傷や重圧に苦しむ表情ではなく、純粋にプレーを楽しむティーンエイジャーの笑顔を、バルセロニスタは必要としている。