動画SNSシーン発、爆発的人気を誇る神山羊。初の全曲解説コメントを含めて考察
メインストリームへ向けて、ストーリーテリングによって構築した物語
昨年、星野源や米津玄師、あいみょん、DAOKOによる紅白歌合戦での活躍以降、“ヒットの潮流”に変化が起きている。2019年に入り、従来のヒットの方程式とは異なるKing Gnu『Sympa』、ONE OK ROCK『Eye of the Storm』、あいみょん『瞬間的シックスセンス』など、傑作アルバムのリリースが続いている好状況の音楽シーンに注目したい。
そんななか、自主レーベルe.w.eより4月3日にリリースされる神山羊(YOH KAMIYAMA)1stミニアルバム『しあわせなおとな』の全曲クロスフェードが公開された。YouTubeやTikTokでバズった新しい才能だ。
細やかなトラックメイクのセンスを感じる強靭な四つ打ちビート、繊細なるせつなきR&Bセンス、時代とリンクするざわめきのオルタナ感、90's J-POPのほのかな香り。中毒性高い歌メロの強さに音楽ヴァリエーションの広さが掛け合わされる世界観の中、洗練されたグルーヴ感に“いま”の時代性を感じる独創性を感じた。
作品を一聴して、フレーズに隠された印象深いアーティスト名を挙げていくと、米津玄師、ケンドリック・ラマー、ニルヴァーナ、SMAPなどジャンルや時代を超えるスーパースターが思い浮かぶ。幅の広いコアな音楽リスナーとしての側面を持つ神山羊が過去のクリエイティヴの継承を独自のスタイルで昇華し、メインストリームへ向けて、自らのストーリーテリングによって構築した物語がアルバム『しあわせなおとな』によって表現されているのだ。
“幸せのカタチ”を、考えながらそれに向かって生きてきたんです
なお、パワーワードなセンスを感じた『しあわせなおとな』というアルバムタイトルについて神山羊に聞いてみた。
「人生における“しあわせなおとな”という存在について、すごく考えていました。僕自身いい感じでここまで来てないんですよ、人生的に恐らく。“幸せのカタチ”みたいなものを考えながらここまで生きてきて、いろんな人に触れる機会も多くなって。“幸せのカタチ”を、自分のなかでなんとか考えながらそれに向かって生きてきたんです。でも、それはあまりポジティブ的な意味じゃなくて、諦めとしての部分があって。その上で“しあわせなおとな”っていったいなんなんだろう?って、考えながら生まれてきた曲たちなんです。いろいろ幸せには色があるよね、って」。
デビュー曲「YELLOW」をYouTube上で発表。4ヶ月で1,300万再生を突破
神山羊とは何者なのだろう? 誕生の瞬間を振り返ってみよう。
昨年の11月3日、神山羊名義でデビュー曲「YELLOW」をYouTube上で発表。4ヶ月で1,300万再生を突破したことは、CDセールス枚数より再生回数が指標となる音楽シーンにおいて事件となった。その結果、アルバムリリース1ヶ月前からJ-WAVE『TOKIO HOT 100』ランキング(3/24付16位)に登場、水面下では大手メジャーレーベルが争奪戦を繰り広げるなど盛り上がりをみせているという。
その後、ロックにとらわれないイメージを2曲目となる「青い棘」によってドロップ。King Gnuなどデザインや映像作品を手がける気鋭のクリエイティブレーベルPERIMETRONが、神山羊本人が登場する実写ビジュアルを手がけた意欲作だ。素直になれなかった後悔がにじむ、もう二度と会えない儚さを美しさとともに描いた叙情的なメロディーを、心が落ち着けるビートで表現するR&Bライクなナンバーとなった。
「YELLOW」と「青い棘」で提示した、目に見える色ではなく心で感じる色を表現した作品力。フォーヴィズムを感じた高揚感ある色彩のパワー。20世紀絵画の開幕を告げたマティスを思わせる感覚的で自由な色彩がサウンドに溶け合い胸を打つ。さらに、卒業シーズンに合わせて『ホットペッパービューティー』特別WEB動画『春、変わる時。』の主題歌「ゆめでいいから」を発表。音楽ファンの枠を超えて青春真っ只中のティーンの間でバズり、すでにYouTubeで270万再生を突破している。
YouTubeやTiKTokなど、動画投稿サービスやSNSを通じて作品が拡散
TiKToKでの「YELLOW」の躍進に続いて、ティーン人気が止まらない神山羊。自分らしさについてこう自己分析する。
「“ポップさ”かなって。まず、ポップでありたいなって思ったときに、人間の声だなって思いました。それで、ボーカロイドだけでなく、自分で歌唱するようになりました。ポップスを突き詰めていくことが神山羊らしさかなと今は思っています。でも、1枚目は1stミニアルバムということで、今までの流れもあれば“いろんなジャンルから影響を受けてるんだ、私は”みたいな部分を伝えたかった作品かもしれません」。
神山羊サウンドの特徴、それはシンガーソングライターとしての歌えるメロディーの強靭さ、サウンドクリエイターとしてこだわりのトラックメイクの繊細さだ。サウンドセンスには、海外ラップミュージック勢からの影響もうかがえる。平成も終わる2019年、昭和64年における歌謡曲の終焉、そして平成元年におけるJ-POP誕生から30年が経過した2019年。歌謡曲のイメージは、もはやディフォルメ化した“昭和歌謡”と同義と言えるかもしれない。J-POPのイメージもビーイングやTKヒッツ、ドラマ主題歌やCMヒッツなどCDバブル期に象徴される90年代サウンドの香りが色濃くなった。
そんななか、ハードディスクレコーディングに集約されるデジタライズされたDAW環境の進化を迎え、作詞作曲から編曲を超えてのトラックメイクまでもコントロールするクリエイターの誕生にあらためて着目したい。
表現者であるアーティストの在り方が変わったのだ。
そのひとつの潮流がボーカロイド文化の発展であり、YouTubeやTiKTokなど動画投稿サービスやSNSを通じて作品が拡散されるようになったインターネット文化によるシナジーの高さだ。ネットカルチャーとは、かつてのストリート文化を凌駕するほどに自由度の高いインディペンデントな側面を持っている。インフラとなるYouTubeやiTunes、Spotifyの台頭を言うまでもなく、いわゆるレコード産業のあり方を変えたイノベイティヴな歴史的ターニングポイントだ。平成も終わり元号が変わる2019年、その落し子である神山羊という新しい才能の活躍には、“歌謡曲”や“J-POP”に変わる新たなジャンル名=キーワードが求められているのかもしれない。
「ダンスミュージックが好きなんです。でも、曲にわざわざ言葉を乗せていることもあるので、ある種“歌謡曲”でありたいっていうのは常にあるんですよ。ただし、歌謡曲であるがゆえにバックトラックが歌のバックトラックになってしまうのは嫌なんですね。そこはバランスを取りながら。でも、歌を聴いている人にとっては“これは歌だな、歌いたいな、覚えたいな”って思ってもらえることは嬉しいんですけどね」。
新しい時代のアーティストのあり方なのかもしれない
なお、1stミニアルバム『しあわせなおとな』は今回、CD単体商品とは別に“初回数量限定「YELLOW」盤(CD +Tシャツ付)”、“初回数量限定「青い棘」盤(CD +ARTBOOK付)”がリリースされる。「YELLOW」盤はクリエイター東洋医学とのコラボレーション、「青い棘」盤は前述したPERIMETRONとのコラボレーションによるアート作品となっている。イラストと実写、その両面を手に取れるスタイルで表現するのが神山羊の個性だ。
コラボといえば、実は先行して昨年末にリリースされたDAOKOのアルバム『私的旅行』では、「24h(feat.神山羊)」としてシティポップ的センスな楽曲を提供しながら、ヴォーカリストとしてデュエット参加をしていたことも触れておきたい。さらに、2019年を代表するニューカマーである、ずっと真夜中でいいのに。の1stミニアルバム『正しい偽りからの起床』へもアレンジャー参加しているという布石も見逃せない。
https://open.spotify.com/track/14UDH6vjteIyiABgkTcDmH?si=ct8bCcNHRSipOIQxABQGTg
形なき音楽を手に取ることのできるフィジカル・アイテムへのこだわりは、店舗別特典CDにもあらわれている。“有機酸”名義で活動していたボカロP時代を知るリスナーも高まる「カトラリーfeat. 神山羊」(ヴィレッジヴァンガード)、「ダンサーインザダーク feat. 神山羊」(TSUTAYA RECORDS)、「spray feat. 神山羊」(TOWER RECORDS)の、神山羊ヴァージョンのリリースには驚かされた。アンダーグラウンドに活躍していた“有機酸”時代に手がけた作品がタイムマシンに乗るかごとく日の目を浴びることは、クリエイターとしても大きな喜びなのだろう。リリース方法や手段そのものが表現でもあるということも、新しい時代のアーティストのあり方なのかもしれない。
そもそも“有機酸”時代より、彼の作品性の高さはボカロファンを超えて、コアな音楽ファンから評価が高かった。callmeのリミックス曲「I’m alone-有機酸Remix-」を手がけたり、バルーンとスプリットアルバム『facsimile』をリリースするなど様々な活躍をみせている。盟友、須田景凪のライブではベーシストとしてプレーヤー参加していたこともあるのだ。
https://open.spotify.com/track/3IL6A1yf4gl7N3wV7Qnxn6?si=q1rRt8xnSZai_xaGl40BFA
ここで、ミニアルバム『しあわせのおとな』を楽しむ上で補完となる、神山羊本人による全曲解説をお届けしたい。CD作品やクロスフェードで楽曲をリスニングする際にチェックしてみてほしい。
<神山羊による1stミニアルバム『しあわせなおとな』全曲本人解説>
1「TV Show (In the Bedroom)」:ベッドルームで寝ていて、テレビのなかで物語が進んでいくようなイメージのイントロ。アルバムへの導入ですね。テレビに「YELLOW」が映っているような感覚で作りました。
2.「YELLOW」:トラックは洋楽っぽく自由に作って。でも歌のメロ自体は歌謡曲寄りなメロディーにしたくって、歌始まりから意識して作ったダンスミュージックです。乗りやすいビート感を大事にしています。
3.「青い棘」:この曲は逆に生々しさみたいな。歌詞世界としてリアリティーを大事にして、女性に寄り添える曲というか。一方でトラックはR&Bで、有機酸でやってきたようなテイストをあえて残しました。
4.「journey」:オルタナなギターロックみたいなテイストを、現代の感覚で自分がやるならこれだなって。もともとノイズが好きなんですよ。そこでの感覚をポップスとして消化している感じですね、今は。
5.「ユートピア」:これはポップスですね。シティ感というか。それこそジャニーズの90年代を意識したかもしれない。歌謡曲感みたいな。もともと細野晴臣さんが大好きで。あと、平沢進さんとかね。
6.「MILK」:ニルヴァーナ感あります? 好きだから滲み出てるのかな。映画『LEON』からの影響で生まれた曲です。映画も好きだし本も好きで。もともと図書館に引き篭もっているタイプだったので。
7.「ゆめでいいから」:脚本を読ませてもらって、曲を作った感じです。お題をいただいたら、そのお題を1番美味しくする自分の噛み方は何かなって。生のピアノをいれたり、質感にとてもこだわって作りました。
8.「シュガーハイウェイ」:僕の中のポジティブ、陽の部分を表現したように見せかけている曲かな。歌詞世界は、通常運転なんですけどサウンド面に関しては楽しくなれるような音楽をと、意識しましたね。
神山羊として初の全国流通盤1stミニアルバム『しあわせなおとな』の完成。ボカロP“有機酸”時代から、神山羊への改名をきっかけにアクセルを踏んだことによって、日本のポップシーンをアップデートする存在としてインターネットというストリートを活躍の場として、作品を敢えて手に取ることのできるCDとして世に問おうとしている。次世代を占うティーン世代を牽引する新しい才能の到来。その息吹を発見するのはあなただ。
神山羊 公式サイト