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ポケモンGOの心理学:ゲームで救われる人、地獄に落ちる人

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
日本でも配信開始されたポケモンGO(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

魅力的なポケモンGO。だからこそ、功罪両面がある。みんなでポケモンGOを育てよう。

■ポケモンGO、日本で世界で大ヒット

連日、ポケモンGOのニュースが報道されています。子どもから大人まで、もうすでに夢中になっている人々がいます。楽しいだけではなく、良い運動になって体重が減ったとか、いつも以上に人と会話したとか、引きこもりや自閉症の改善に役立つという話も出ています(ポケモンGO 米では「自閉症の息子がハイタッチ」産経新聞 7月23日)。

人とのコミュニケーションが取りにくい子の改善方法として、その子も関心を持つ「物」を介在させる方法は、以前からありました。ポケモンGOは、問題改善の大きな可能性を持っているのでしょう。

その一方、様々なトラブルも報道され、日本でも政府が異例の注意喚起を行っています(内閣サイバーセキュリティセンターから「ポケモントレーナーのみんなへのお願い」。

■テレビゲーム、スマホゲームはなぜ面白いのか・ポケモンGOの魅力

そもそもゲームはなぜ面白いのか。心理学的には、主に3つのことが考えられます。

1いつもチャレンジフルで、自分が成長できる

同じゲームでも、初心者は簡単な課題、上級者は難しい課題に取り組んでいます。いつも丁度良い難しさ、チャレンジフルな目標が目の前にやってきて、クリアするごとに自分が成長できます。

2失敗しても恥をかかない

私たちは失敗を恐れます。失敗して恥をかくことを恐れて、行動できないこともあります。失敗に懲りて、二度としないこともあるでしょう。でも、ゲームなら大丈夫です。

3ファンタジーがある

ゲームには、魅力的なストーリーがあります。かわいいキャラクターなども出てきます。ゲームが進むと、ラスボスをやっつけたり、お姫様が救えます。目の前の小さな目標とともに、この先の大きな目標があります。

だから、ゲームは面白いのです。さらに、オンラインゲームは、ユーザーがゲームをし続けてくれないと企業は儲かりませんから、プレイを継続させるためのあの手この手の工夫があるでしょう。

ポケモンGO

ゲームは、その進化とともに、マニアックにもなっていきました。そうなると、コアなユーザーにはよくても、初心者には敷居が高くなってしまいます。ところがポケモンGOは、子どもから高齢者まで、誰でも簡単に始められそうに思えます。囲碁やピアノよりも、ずっと簡単に始められるでしょう。そして、簡単にはクリアできない奥深さがあります。

実際に街中を移動しながらポケモンを探しゲットするのは、まさに自分がポケモントレーナーになった気分が味わえます。外出して歩かなければならないポケモンGOは、ゲームばかりして外に出ないという批判に応えたとも言えるでしょう。

■テレビゲーム、スマホゲームの危険性・ポケモンGOの危険性

ポケモンGOに夢中で、歩きスマホをして、事故にあってしまった話が、次々とニュースになっています。もちろん、安全第一です。

ゲームは、しばしば悪者扱いされますが、ゲーム自体が悪い影響を与えるものではないでしょう。良いゲームもたくさんあります。優れたゲームは、楽しくて魅力的で、そして手軽です。

しかし実は、これが曲者です。野球や水泳よりも、ゲームはずっと気軽に始められ、そして長く続けることができます。仲間を集めることも、場所を確保することも、着替える必要もありません。一日中続けることもできます。

野球も水泳も、もちろん悪い事ではありませんが、毎日毎日一日中それしかしなかったらどうでしょう。体を壊します。チョコレートはもちろん悪いものではありませんが、肉も魚も野菜も食べず、3食チョコレートばかりでは体調を崩すでしょう。

ゲームも同じです。それ自体が悪くなくても、ゲームばかりに時間を使っては、心や体のバランスが崩れてしまうのです。ゲームは、気軽に楽しさが味わえるだけに、うっかりすれば麻薬的になってしまうこともあるのです。

■ポケモンGOで救われる人、地獄に落ちる人

ポケモンGOで、楽しく遊ぶ人もいます。楽しく健康的な遊びは、心と体を整えます。ポケモンGOで達成感を味わう人がいます。友情を育む人もいます。運動になる人もいます。体や心の病の改善になる人もいるでしょう。

ポケモンGOで救われる人もいるでしょう。

一方、大きな事故にあった人もいます。また、これからの問題ですが、のめり込みすぎる人々が出ることも心配されます。アメリカからのニュスでは、ずいぶん遅い時間にポケモンを探す子どもが外を歩いている様子も報道されています。

学校や仕事よりも、ポケモンゲットを重視してしまう人も現れるでしょう。そうなってしまえば、人生台無しです。

これまでの例でも、ゲーム依存、ネット依存になってしまい、地獄を味わった子どもや家族たちがいます。

ゲーム、ネットの世界は、便利で楽しいものですが、あくまでもリアルな現実世界のためにあるものです。それは、釣りもゴルフも同じでしょう。

■みんなでポケモンGOを育てよう

ポケモンGOは、魅力的なだけに功罪両面があるでしょう。安全を守りつつ、有効な活用法を考えていく必要があります。

ゲームも、例えばお酒も、魅力的ですが、危険もあります。使用中の事故もあります。依存にもなります。その危険性を自覚した上で、楽しみ、有効活用することが必要です。

依存を治すためには、単にやめさせるだけでなく、ゲームをしない、酒を飲まない時間も、楽しく、やりがいが持てる活動が必要です。ゲーム文化を健全に育てるためには、ゲーム以外の活動の充実も必要なのです。

すでに、あっという間に世界に普及し人気を集めているポケモンGO。これはもうは、一民間企業のゲームであることを超えてしまっています。だからこそ、ポケモンGOを社会全体で育てていく必要があるでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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