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日本代表の稲垣啓太は、1年前のアイルランド代表戦の直前に何を語った?【ラグビーあの日の一問一答】

向風見也ラグビーライター
ワールドカップは日本大会で通算2度目の出場となった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 1年前の今日、日本ラグビー界にとっての歴史的一戦があった。

 2019年9月28日、静岡の小笠山総合運動公園エコパスタジアム。

 日本代表はワールドカップ日本大会の予選プール2戦目に挑み、開幕前には世界ランク1位にも躍り出ていたアイルランド代表に19-12で勝った。ボールを保持するゲームプランと鋭い出足のタックルが冴え、相手の継続力とパワーを目減りさせた。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表はそのまま予選プールを全勝。初の8強入りを果たした。

「練習後も個人のタックルの練習に付き合ってもらったりして、そういった部分は活きたと思います」

 試合直後のミックスゾーンでこう語ったのは、稲垣啓太。運動量と発言力を有するリーダー格で、この日も定位置の左プロップで先発。ジェームズ・ムーア、ピーター・ラブスカフニらと防御網を引き締めている。何より前半35分頃には、自陣22メートル線付近での相手ボールスクラムを押し返している。

 稲垣は試合前日にも、共同会見へ出席。殊勲のスクラムについて「ディテールにこだわって準備してきた」と手ごたえを語りながら、「ディシプリン」を勝負の鍵に挙げている。

 現在はYou Tubeなどであの日の80分を振り返ることができる。本稿での談話や試合結果、数値を踏まえてレビューすると、当時と異なる発見があるのではないか。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――アイルランド代表のスクラムについて。

「(アイルランド代表は)スクラムで反則を狙ってくるチーム。そこにプライドも持っている。僕らとしてはペナルティを与えないスクラムを組むのが大事。そのために我々も、攻める必要がある。そう感じますね。はい」

――スクラムの「攻める」とは。相手と掴み合う際の仕掛けなどをイメージしているのか。

「スクラムで言える範囲はなかなか少ないんですけど、(攻めるとは)マインドの部分もそうですし、ディテールにこだわって準備してきたので、そういった部分を出していきたいです」

――相手のフォワードは強力ですが。

「スクラムのことで話した通り、ペナルティを与えないこと。ティア1(強豪国)と戦う時に気を付けるのは、ディシプリンを守りながらゲームをすることです。

 ディフェンスでアグレッシブに上がり、相手のモメンタム(勢い)を止めるために僕らが積み上げてきたタックルのディテールを80分、続けていきたいです。

 もちろんいい部分も悪い部分も出てくると思いますが、悪い部分が出た時にどう立て直すかもキーになる」

――本来のリーチマイケルキャプテンが控えに回り、ピーター・ラブスカフニ選手がゲームキャプテンを務めます。

「ゲーム主将がラピース(ラブスカフニ)ということで、特に問題はないですけね。彼は素晴らしいキャプテンシーを持っていて、彼の言葉には皆が耳を傾けます。そして後半の苦しい時間帯にリーチさんが入ってくる。理想的な展開なんじゃないですかね」

――ロシア代表戦では松島幸太朗選手が3トライ。次戦でも2トライを奪取すると宣言している。

「僕は代表に7年間いて1トライもしたことがないんです。トップリーグでも2回しかしたことがない。トライを取ってくれる彼らがいるのは、心強いです。僕がトライを取りたくないわけではないですが、僕らが仕事をして彼らのためにスペースを作ってあげて、彼らがトライを取るのが理想です。かといって、何万回に1回くらいは僕がトライを獲ることはあり得るとは思いますが…(稲垣は10月13日のスコットランド代表戦で貴重なトライを挙げる)。彼が有言実行してくれる展開になると、非常に期待しています」

――格上を倒すのに必要なことは。また、明日の試合で力を発揮するのに大切なことは。

「両方に関し、僕が大事に考えているのは規律を守るということです。ひとつのペナルティが陣地によっては3点(ペナルティーゴールによる失点)に繋がります。特にティア1を相手にするとスコアするチャンスは少ない。その3点が後々、効いてくる。ディシプリンを意識したいですね。

 アイルランド代表はセットピース(スクラム、ラインアウト)が強いので、ここでペナルティを与えれば(ラインアウトからの)モールを組まれることも。いいキッカーもいるので3点を…という風にもできる。その選択肢を与えないのが、大事なんじゃないですかね」

――2017年6月の対戦時は2連敗。それから、チームはどれだけ成長したか。

「ディテールにこだわって前回の対戦から2年間、積み上げてきたわけですけども、相手がボールキープすることに対してどれだけ我慢強くディフェンスできるのか。前回は僕らがペナルティを重ねてしまった。僕らは今回、ディシプリンを守ることがキーになる。そういったところで2年間の功績が出るんじゃないですかね」

――会場の雰囲気、芝の感触について。

「芝生ですが、皆、足を踏み入れた瞬間、めちゃくちゃいいと話していました。スクラムも最後に組んで感触を確かめましたし、めくれるという感じはないです。グラウンドの硬さについても非常に動きやすい。かといって倒れても衝撃が来ることはない。ラグビーに向いた芝だと全員が感じている」

――チームの雰囲気について。開幕戦を終え、緊張がほぐれたところはあるか。

「そうですね。1試合やってほぐれた部分はあると思います、あの試合が終わってから振り返った部分が多々ありますが、どうしてもマイナスの要素にばかり目が行ってしまっています。ただ、トータルで数値を見たらそこまで悪くはない。入りのところでマイナスが多い(立ち上がりにミスを連発)せいでナーバスになっていますが、しっかりその課題を洗い出し、選手間ではいい雰囲気になっていると感じます」

――先ほど、グラウンドでスクラムを組んだと話していました。それを受け、スパイクのポイントはどれくらいの長さにするか。

「好みの問題もあるんですけど、僕はこのグラウンドであればそこまで長いポイントは必要ないかなと感じます。あとは80分間走るために1~2ミリの差を感じる選手も多々いるんですが、僕は試合に入る時は(ポイントが)短いの、長いのを計2足、持って行くんです。たまには短いの、長いの、中くらいので計3足、持っていく時もあります。芝生、スクラムのスタイルをチェックして、あぁ、これはロックの足が滑ってるから長いのにしとけよって、特にそういうのをヴィンピー(・ファンデルヴァルト)に言うんですけど。まぁそういったジョークも出るほどチームの雰囲気はいいってことですね」

 当日、日本代表の反則数はアイルランド代表の9よりも3つ少ない6。強力なタックルで相手の攻めを寸断し続けたことで、後手に回りながら反則を犯すシーンを最小化できた。

 ターニングポイントとなった前半35分頃のスクラムでは、戦前の言葉通り長谷川慎スクラムコーチが教えてきた「ディテール」を全選手が遂行。その結果、相手の塊を割ることができた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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