Yahoo!ニュース

日中は「南北海戦」の愚を犯すべきではない

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尖閣領海を侵犯する中国公船(写真:第11管区海上保安本部/ロイター/アフロ)

日中外相会談が終わった。

岸田文雄外相は中国公船による領海侵入が相次いでいる問題で王毅外相に抗議し、再発防止を要求したようだが、それにしても、中国の漁船だけでなく、公船までもが尖閣周辺海域に押し寄せてくるのは困ったものだ。

現状は、中国の漁船や公船が領海を侵犯しても、領海から出るよう警告を発するだけだ。拿捕も逮捕もない。中国が尖閣周辺を自らの領海であると主張している限り、自主退去は考えられない。一時的に引き下がったとしても、自国の領土、領海を主張するのでまた同じことを繰り返す。漁船だけでも数百隻となると、押し競まんじゅうしても勝てない。モグラたたき同然で、日本のほうが参ってしまう。

最も憂慮すべきは、体当たりしている最中に、中国の公船と日本の巡視船による偶発的な衝突、銃撃戦が起きるかもしれないことだ。漁船のように丸腰なら、その心配はないが、中国の公船も海上保安庁の巡視船も機関砲など軽武装しているから常にその危険はある。

ちなみに、韓国と北朝鮮との渡り蟹の漁場をめぐる領海紛争では3度衝突、それも公船、艦船同士による銃撃戦にまで発展している。

1回目は1999年6月で、北方限界線(NLL)南側5kmにまで侵入した北朝鮮の警備艇7隻に韓国海軍の高速艇など10数隻が体当たりして追い出そうとして撃ち合いとなった。小銃から始まり最後は25mm砲と40mm砲、70mm砲の応酬となった。北朝鮮からは魚雷艇が韓国側からは哨戒艇が馳せ参じて、合戦に加わった。

その結果、北朝鮮の魚雷艇1隻沈没(15人乗務)、警備艇2隻(乗務員110人)が大破。韓国軍は哨戒艇1隻(95人乗務)がエンジン破損。警備艇1隻(30人乗務)が機関室被弾という被害を被った。

NLLを認めない北朝鮮は▲「韓国が領海侵犯をしている。(北朝鮮は領海12マイルを主張)▲「韓国は侵犯を謝罪し、領海から撤収せよ」▲「海上での事件の責任はすべて韓国側にある」と、韓国とは逆の主張を繰り返していた。

2回目は2002年6月で、この時も、北朝鮮の警備艇と韓国海軍の高速艇隻が衝突し、85mm砲と76mmバルカン砲の撃ち合いに発展した。25分間にわたる交戦で、北朝鮮の警備艇1隻(50人乗務)が炎上し、死傷者が30人前後出た。一方の韓国軍も高速艇1隻(28人乗務)が沈没し、死者4人、行方不明者1人、負傷者19人も出した。

この時の北朝鮮側の言い分はこうだった。

「南朝鮮軍(韓国軍)が西海(黄海)海上で正常な海上警戒勤務を遂行していた我が人民軍海軍警備艇に銃砲撃を加える厳重な軍事挑発を行った。そのため我が艦船は止むを得ず自衛的措置を取らざるを得ず、結局双方間に交戦が繰り広げられ、損失が出た」(朝鮮中央放送)

領海を巡る南北の衝突は、2009年11月の第三次海戦に繋がり、そして2010年3月の死者36人、行方不明10人を出した韓国哨戒艦撃沈事件と4か月後の2010年11月の死者4名、負傷者19人を出した延坪島砲撃事件に発展したことは記憶に新しい。今も南北関係は最悪の関係にある。

日本は今後、中国の漁船や監視船が日本の領海に入った場合は、警告を発し、それでも退去しない場合は、威嚇射撃を行い、それでも応じない場合は、拿捕する、これも実効支配を強める一つの選択肢でもある。現在、韓国がNLLラインで北朝鮮の漁船や警備艇に対して取っている手法である。但し、この場合、交戦というリスクを覚悟しなければならない。

日本がこのような手法が取れないならば、「尖閣」を元の状態に戻すか、あるいは国際司法裁判所(ICJ)に委ねて白黒を付けるほかないようだが、二択とも困難な選択であることには変わりない。

領海や、領土をめぐる日本の政治家らは異口同音に「国際世論に訴える」とか「国際社会に理解と支持を求める」という言葉を連呼しているが、国際社会のどの国も2国間の領土紛争には首を突っ込まない。口を挟んで、失うものはあっても、得るものがないからだ。

オバマ政権の第一期に「尖閣諸島には安保条約第5条(米国の防衛義務)が適応される」(クリントン前国務長官)と日本を安堵させた米国ですら、「領有権ではいずれの肩を持たない」(バネッタ前国防長官)と日本の管轄権は認めても「日本の固有の領土である」との日本の立場への支持表明はない。損得を考えれば、米国は口が裂けても言わないだろう。

米国の要人は記者会見で「SENKAKU(尖閣)」との表現を使っているものの中国に行けば、中国名「ダヤオウィダオ(釣魚島)」と表現しているかもしれない。調べてみる必要がある。事実ならこれは二股外交である。

日本の隣国、韓国はどうか、韓国政府は残念なことに「釣魚島」と呼称している。聯合ニュースなど韓国のメディアも「釣魚島(日本名:尖閣諸島)」と表記するケースが多い。黄海(西海)上の北方限界線(領海線)をめぐる北朝鮮と韓国による南北衝突では日本が常に韓国の立場を支持しているのとは好対照だ。

南シナ海、南沙諸島の領有権をめぐって中国と対立しているベトナムやフィリピンも、いくら、日本が陰ながら、両国をバックアップしても、尖閣の問題で旗を鮮明にすることはないだろう。へたをすると、尖閣で中国の立場に理解を示すことで、南シナ海で中国から少しでも譲歩を引き出した方が得策と考え、中国の肩を持つかもしれない。なんだかんだ言っても、遠い国よりも、近い国との関係の方がより大事であるからだ。

外交的に、平和裏に尖閣から中国に手を引かせる抜本的な解決策を政府は真剣に検討すべきだが、まずは海戦に繋がりかねない衝突を未然に防ぐためのメカニズムの構築が先決だ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事