ナチス・ドイツ占領下のノルウェーを子ども目線で描いた映画、スウェーデンの国境を目指して逃げろ
このノルウェー映画はナチス占領下のノルウェーでユダヤ人がいかに差別され、ノルウェー人やスウェーデン人がどのように抵抗してきたかを、子どもの目線で描いたものだ。
ノルウェーの作家マヤ・ルンデ氏の人気作『Over grensen』(2012)を映画化。タイトルはノルウェー語で『Flukten over grensen』、英語で『The Crossing』。
ノルウェーとデンマークは1940年4月にドイツ軍による侵攻を受けた。ノルウェーの大部分は1945年5月にドイツ軍が降伏するまで占領されたままであった。
およそ1100人のノルウェー系ユダヤ人やユダヤ人は戦時中にスウェーデンへと逃亡。
自力で逃亡する者もいたが、多くの逃亡は誰かの手助けによって行われた。
ノルウェーにいたユダヤ人のうち35%にあたる773人はアウシュヴィッツへ移送され、生き残ったのは38人のみだった。
参照:オスロ大学 ノルウェーの歴史(ノルウェー語)
ユダヤ人迫害を子どもにどう説明する?
戦争がいかに悲惨であったか、ユダヤ人はなぜ迫害されたのか、ユダヤ人に何が起こったのか、どうして差別はいけないのか。
子どもにいざ説明しようとなると、どのように伝えていいか考えることもあるかもしれない。
そういう時にはこの映画がいい教材になるだろう。大人目線ではなく、子ども目線で見た戦時中が描かれている。
ストーリー
1942年12月、4人の子どもたちは必死に逃げていた。
サラとダニエルはユダヤ人で、スウェーデンへ逃亡しなければいけない。
手助けをしているのはノルウェー人の兄弟であるオットーとゲルダだ。
ユダヤ人の子どもを地下室にかくまっていたオットーとゲルダの両親は逮捕されてしまった。
このままではサラとダニエルもいずれ見つかってしまう。
こうなればスウェーデンへの国境を目指して逃げるしかない。
子どもたちをナチス・ドイツの兵士は追い始めた。
正義感の強いゲルダは自分の行動に迷いがない。
でも、お兄ちゃんのオットーは不満げだ。どうして、ユダヤ人を助けないといけないの?ユダヤ人を助けようとする両親が間違っていて、両親と対立する人たちのほうが正しいのかもしれないのに?
歴史は映画や本などで何度も語られてきたが、常に大人向けだった。この作品は子どものために、小さな人間の中で育まれる信頼、友情、恐怖、抵抗しようとする心を描いている。
どうしてユダヤ人を助けないといけないの?
作品では一部のノルウェーの人々がどうしてナチス・ドイツを支持するようになったのか、ヒントを得られるシーンもある。
ナチス・ドイツの思想にちょっとずつ近づくお兄ちゃんのオットーが逃亡の旅でどう変わるのか。
差別の刃を時にむき出しにするオットーに周囲の人々がどう接していくのかも見どころだ。
ナチス・ドイツの兵士として登場するヘルマンを演じるのはドイツ人俳優であるLuke Niete氏。彼の祖父はナチス党内の青少年組織「ヒトラーユーゲント」に属していた。
強い女の子が主役で、フェミニズムを感じる映画
この映画の主人公が、ヒーローになろうとする、冒険が大好きで、元気いっぱいな女の子ゲルダという点も評価したい。
男の子の後を追う女の子ではなく、みんなをひっぱるリーダーだ。
監督に聞いてみた
Cornelia Boysen監督がメールで映画について答えてくれた。
質問:映画制作で感じた課題は?
「このような定番ではない子ども・若者映画づくりで大変なのは、すぐに商業的な結果を出せるテーマとは限らないので、経済的な支援を受けにくいことです。今のような映画環境のままでは重要な価値のある映画作品が生まれにくくなってしまいます。子どもだってエンターテイメント以外の映画も必要としているのに」
質問:「子どもたちの反応は?」
「子どもたちは夢中になって映画を見てくれます。歴史的にも関心をもっていました。なによりも子どもたちが、学校のベンチに座っている時やニュースを聞いている時に生活の中で体験する問題が映画に含まれていたので、好奇心にさらに火が付くようです」
・・・・・
子ども向けなので、「現実はもっと過酷だった」と突っ込みたくなるところもあるだろう。
それでも、子どもがナチス・ドイツとユダヤ人迫害について考えるひとつのきっかけとして高く評価したい。
大人でも学べることが多い映画だ。
現時点では日本での公開は予定されていない。
Text: Asaki Abumi