ノルウェーにおける消費文化の変化、ブラックウィークからグリーンウィークへ
11月の第4金曜日の前後数日間にかけて行われるセール期間、ブラックウィークが北欧に上陸して10年以上が経つ。この期間に対するノルウェー社会の目線はだいぶ変わったなと感じる。
大量生産・大量消費・大量廃棄のこの期間は、サステイナビリティとは真逆の方向性を向く。「家計に苦しい人には助けになる」という主張も、もはや通らなくなってきた。なぜなら、1年の間にもセールは何度も行われているし、ブラックウィーク期間中は、むしろ事前に値段を上げて、この期間中に値段を下げて「安そう」に見せる詐欺まがいのビジネスを、メディアが長年指摘し続けてきたからだ。
ブラックウィークはノルウェー社会から消えたわけではない。しかし、反対に「グリーンウィーク」が首都オスロではしっかり定着したことを今年感じた。
オスロ市議会は、「何か買わなきゃ」と精神的なストレスを抱える市民に、この期間を別の色で彩りたいと「別の選択肢」を用意した。それがグリーンウィークだ。
税金を使って自治体が市民のためにできること
1週間、企業や団体と垣根を越えて協働し、市民に経済的な消費をさせずに、今あるものを大切にする催しで街を埋め尽くす。企業なども率先して、さまざまなアクションをするため、開催イベントは数えきれないほどだ。
筆者はいろいろな場所に取材に行きたいが、体がいつも足りない。それくらい、魅力的な企画がたくさんある。もし日本の自治体が、「環境のためにできること」のインスピレーションを探しているなら、きっとこの期間は嬉しいアイデアの宝庫だろう。
オスロに自治体アルナの公民館には、複数の自治体の関係者が集まり、クリスマステーブルを囲んでいた。
各地で、どのようにリサイクルや社会活動に貢献しているのか、どのように市民の参加率を上げているのか、どのような課題を抱えているかを共有しあった。
労働賃金について考えよう
現地の若者が料理をしてくれたのだが、主催者はこの時に「あること」を強調した。
「私たちは彼らにしっかりと給料を支払いました。彼らの仕事と名前は認知され、賞賛され、報酬を受ける価値があります!」
実はこれ、人口が少ない北欧では必ずしも可能なことではないのだ。人手が少ないから、このようなイベントは「ボランティア」が当たり前のように期待される。ノルウェー語では「ドゥーグナード」という、「みんなで共同体のために無償奉仕」という言葉もあるが、本当は働いた人には報酬が支払われたほうがいい。
ブラックフライデーという、労働者の人権や働く環境も問題視される期間だからこそ、若者に労働賃金が支払われたことを強調する姿は、なんだかとても印象的で、いいなと思った。
余りものテーブルで会話をしよう
また、今回提供されたスープは全て、地元の飲食店などで廃棄予定だったものを工夫して調理したものだ。テーブルの上にも、傷がついたリンゴが飾りとして置かれており、廃棄予定の果物は、テーブルのデコレーションとして効果的なことに、筆者は初めて気が付いた。
一緒に食事をした人たちは誰もが初対面だったが、「どんなものだって、捨てずに、別の形で使えるよね」と会話は弾んだ。
グリーンウィークに、次の散歩の準備を
さて、別のイベントを覗いてみよう。自治体ニーダーレンでは、オスロ市とトラッキング協会DNTの協働で、服の再利用が行われていた。
ここで、ノルウェー事情をおさえておこう。北欧の中でも山やフィヨルドなどの自然に恵まれたノルウェーでは、自然でのハイキング、登山、釣り、クロスカントリースキーなどのアクティビティが市民生活に深く根付いている。そのため、「アウトドアウェアが私服」の文化が北欧の中でも目立つ国だ。市民一人当たりのアウトドアウェアの所有率は、世界的に見てもトップではないかと思う。
しかし、それはつまり、市民は大量のお金を普段からアウトドアウェアに費やし、何着も所有しており、一部はあまり使われないままということも意味する。
そして北欧市民は、大人になってもいくつもの団体に所属するのが「趣味」だ。そのなかで、散歩、登山、スキーなどありとあらゆる自然での活動を網羅するDNTは、30万人以上の会員数を誇る、ノルウェー最大級のフリルフツリヴ団体だ(フリルフツリヴはノルウェー語で「自然と共存」というような意味)。
今回は持ち主をなくして、このままだと廃棄されてしまう大量のアウトドアウェアが安く販売された。
しかも、ここでは古着の販売だけではなく、買取も行っていた!プラスチックのごみ袋が出ないように、参加者には「エコバッグを持ってきて」と呼びかけ、購入したコートなどを抱えて帰宅する人の姿も。
筆者は、ブラックウィーク中はSNSや街がセール広告に溢れるのにうんざりしていた人なのだが、こういう取り組みがどんどん増えたら、幸福に感じるきっかけが増えるなと感じた。