グアルディオラとシメオネが心酔する男。希代のボランチ、ロドリの行き先は。
メディア受けする選手ではない。だが、名将が欲しがるプレーヤーというのが存在する。
ジョゼップ・グアルディオラ監督(マンチェスター・シティ)とディエゴ・シメオネ監督(アトレティコ・マドリー)が、その選手を指揮下に置きたいと願っている。ロドリゴ・エルナンデス。「ロドリ」の愛称で親しまれる希代のボランチだ。
■安い買い物に
アトレティコは昨年夏に移籍金2500万ユーロ(約31億円)をビジャレアルに支払い、ロドリを獲得している。もともと、彼はアトレティコのカンテラーノだった。ロドリは移籍一年目でシメオネ監督の信頼をつかみ取り、定位置を確保。瞬く間にブレイクの時を迎え、すでに彼の周囲は今夏の移籍の可能性を取り沙汰する過熱報道で騒がしくなっている。
現在、ロドリの契約解除金は7000万ユーロ(約86億円)に設定されている。22歳という年齢、また昨今の異常なまでに高騰する移籍金を顧みれば、非常に安い「買い物」になる。パリ・サンジェルマンはキリアン・ムバッペ(移籍金1億8000万ユーロ/約223億円)、ネイマール(2億2200万ユーロ/約275億円)獲得に大金をはたいている。チャンピオンズリーグを制したリヴァプールは、フィルジル・ファン・ダイク(8400万ユーロ/約104億円)、アリソン・ベッカー(7500万ユーロ/約93億円)と膨大な補強資金を投じた。
ロドリの移籍先候補の筆頭として挙げられているのが、シティだ。グアルディオラ監督はフェルナンジーニョの代役を探しており、ロドリが名将のお眼鏡にかなったというわけだ。
ロドリは、過去2シーズン、異なるプレースタイルのチームで非凡な能力を見せ付けた。ポゼッション・フットボールを掲げるビジャレアル、弱者の兵法で成り上がったアトレティコ。極地に位置する2チームで、彼は必要不可欠な存在になった。
■経験値
今季のアトレティコにとって、ロドリの加入と適応は最大の収穫だった。
毎年のように主力選手を引き抜かれるアトレティコだが、近年中盤においてその問題は深刻化していた。チアゴ・メンデスとガビ・フェルナンデスが退団して、シメオネ監督はポジショナルなMFを探し求めていた。あるいは、アウグスト・フェルナンデスのように汚い仕事をする「殺し屋」といえる選手が必要であった。
彼の加入でコケの「偽ボランチ」の機能性が高まった。コケ、トーマス・パーティー、サウール・ニゲスを含めクアトリボーテが形成された。その中でロドリは完全にフィットしていた。それを象徴しているのがリーガエスパニョーラ第32節、セルタとの一戦だ。この試合のロドリ(パス本数90本/パス成功本数88本/パス成功率98%)のパフォーマンスは圧巻だった。
代表的なボランチの選手といえばセルヒオ・ブスケッツ(バルセロナ)、カセミロ(レアル・マドリー)、ポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)、ミラレム・ピアニッチ(ユヴェントス)、ビクター・ワニアマ(トッテナム)、ファビーニョ(リヴァプール)、フェルナンジーニョ(シティ)などだが、いずれも25歳以上の選手だ。
若い選手が少ない。つまり、経験がモノをいうポジションである。
若くしてトップレベルでプレーしているのはユリアン・ヴァイグル(ボルシア・ドルトムント/23歳)、ルーカス・トレイラ(アーセナル/23歳)、タンギ・エンドンべレ(リヨン/22歳)、フレンキー・デ・ヨング(バルセロナ加入内定/22歳)くらいだろう。
現役時代、シメオネ監督とグアルディオラ監督はボランチを本職としていた。彼らは選手時代からまったく異なるスタイルで戦ってきた。その両者が欲しがるロドリという選手の価値は高い。
ルカ・エルナンデスやアントワーヌ・グリーズマンの売却を決断しているアトレティコとしては、この夏にロドリを放出する理由はないだろう。だが、シティの資金力は侮れない。選手との個人合意にこぎ着け、ロドリもしくは彼の代理人がLFP(スペインプロリーグ機構)に契約解除金7000万ユーロを収めれば、移籍は成立する。
彼を取り巻く喧騒は、しばらく鎮まらないかもしれない。