【知られざるWKBLの世界①】韓国女子バスケ界に新風を吹き込む“即戦力”日本人選手たち
今シーズンよりWKBL(Women's Korean Basketball League)に導入されたアジアクォーター制度(アジア枠)。日本からWリーグプレーヤー8選手が参戦し、韓国女子バスケットボール界に新風を吹き込む活躍を見せている。
12月22日には日本のWリーグ選手が招待されて日韓の選手が激突する「WKBLオールスター」が開催されるが、WKBL代表として、永田萌絵(KBスターズ)と飯島早紀(BNKサム)の2人がファン投票で選出されている点にも注目だ。
また、国内選手がエントリーできる新人ドラフトでは、日本の大学から2選手が指名されている(両親・祖父母のどちらかが韓国籍を有していれば、国内選手としてドラフトにエントリーできる資格がある)。アジア枠と新人選手を含め、今季のWKBLは日本で育った選手が10名もプレーする注目の市場となっている。
WKBLは6チームが6回戦総当たり(6ラウンド制)で各30試合のレギュラーシーズンを戦い、上位4チームがプレーオフに進む。現在は1試合を残して3ラウンドまで終了し、オールスターブレイクに突入したところだ。WKBL事情を説明しながら、日本人選手たちの前半戦の戦いぶりを紹介する。
※WKBLに挑む日本人選手のメンバーリストとアジア枠選手の抱負、リーグ規定はこちら↓
【シーズン開幕!日本で育った10選手が韓国でプレー。韓国は注目の市場となるか】
女王ウリ銀行が解体し、混戦リーグへ
今季のWKBLは混戦になることが予想されていた。昨シーズンに抜群の勝負強さで優勝を遂げたウリ銀行の主力たちがFA権を得て他チームに移籍したことに加え、パク・ジスやパク・ジウォンといった韓国代表選手が海外リーグに進出したことにより、選手の流動化が活発になったことが理由だ。
韓国はアジアのライバル。リーグの実力はどうだろうか。技術的なことでいえば、Wリーグのほうが展開は速く、ディフェンスの強度も高い。選手層においても、6チームしかないWKBLと比較すると、14チームあるWリーグのほうが様々なタイプの選手が揃っているといえるだろう。これらは代表戦でもすでに浮き彫りになっている日韓の差である。
そんな中でも「フィジカルが強くて動きが激しい」(永田萌絵)「試合の間隔が日本より詰まっているうえに練習もハードなので体力が必要」(宮坂桃菜)という声も上がっており、タフな戦いをしいられていることが伝わってくる。
また、海外挑戦の意義というものはリーグのレベルだけで語れるものではない。日本人選手たちのWKBL参戦の理由は様々だ。
谷村里佳(新韓銀行)は韓国でプレーする前に前にドイツに渡っていたように「日本とは違う環境でプレーして、いろいろなものを見て取り入れたい」と語る。永田萌絵(KBスターズ)は「たとえアジアの国であっても、海外でプレーすることは自分の人生に大きく生きる」と言い、飯島早紀(BNKサム)は「韓国文化を受け入れ、その中で対応することを経験したい」と、それぞれが異国の文化を尊重しながら、自分自身を高めようとしている。
石田悠月(ハナ銀行)はもともと韓国文化に興味があり、韓国語を習得して臨んでいる。平野実月(サムソン生命)は「韓国でカップ戦や3x3の大会に出てファンの熱量に驚いたので、ワクワクする中でプレーがしてみたかったし、今はとても楽しく過ごしている」と言うように、持ち前の明るさで順応している様子がうかがえる。
そして何よりも、「ゲームに出たい」という目的をかなえるのであれば、アジア枠として韓国に飛び込む選択肢もありだろう。
昨シーズンが終了した時点で「引退することも頭の片隅にあった」という宮坂桃菜(ウリ銀行)や飯島早紀(BNKサム)は、思い切って韓国の地に飛び出し、今ではチームの主力として奮闘している。もし昨シーズン限りで引退していたとしたら、今の輝きは見ることができなかった。WKBLのアジア枠は日韓ともにメリットがあり、両国の競技力発展につながる制度になっているのだ。
日本でも韓国でも仕事人の飯島早紀
リーグ前半戦の成績順に、日本人選手たちの活躍ぶりを紹介しよう。
現在、12勝3敗で首位を走るBNKサムでは、飯島早紀がスタメンの座をつかみ、チームに欠かせない存在として活躍している。
「ディフェンスで期待されているのと、限られたチャンスの中で得点することを意識しています」と本人が言うように、いい状況判断からスティールを繰り出し、チームが欲しいときに速攻や3ポイントで確実に得点を重ねる。決して派手なプレーヤーではないが、仕事人として力を発揮しているのはWリーグ時代と変わらない。
オフの移籍市場により、韓国代表級の選手が揃ったBNKはセンター不在のスモールバスケットボールを展開し、大崩れすることない安定感が持ち味。課題があるとすれば、主力に頼るチームなだけに、若手の選手層を鍛えたいところだ。
練習量No.1のウリ銀行で奮闘する2人の司令塔
ウリ銀行に所属する宮坂桃菜と砂川夏樹は開幕前から「ウリ銀行は他のチームの3倍練習すると聞き、覚悟して韓国に来た」と2人して声を揃えていたが、その言葉通り「走る量もウエイトトレーニングも多く、一日6時間くらい練習している(シーズンに入ると練習量は減る)」(宮坂)「ウリ銀行はアリーナと寮が離れた都市にあるため、試合が終わってバス移動すると寮に着くのは深夜」(砂川)と慣れない環境の中で自身を追い込みながらプレーしている。
加えて、今季のウリ銀行は昨季のファイナルMVPのキム・ダンビ以外の主力が移籍したことで、未知数のチームになっていた。それでも蓋を開けてみれば、練習量によって鍛え上げられたチーム力を発揮し、キム・ダンビを絶対的エースとして、10勝5敗の成績で2位につけている。
アジア枠のルールにより、コートには日本人選手が一人しか立つことができない。そのため、主に砂川がスタメンの司令塔としてスピードと突破力を生かして展開し、宮坂は砂川と交代してコートに立ち、時にはシューター、時には司令塔として勝負強さを見せている。タイプの異なる2人のゲームコントロール力が重要になるといっていいほど、チームのキーマンになっている。
ディフェンスで流れを変える平野実月
開幕前に優勝候補の一つにあげられていたのがサムソン生命だ。
現在、韓国籍に帰化申請中のキアナ・スミスをはじめとする有望なウイングが揃うチームだが、序盤戦はチームプレーが噛み合わずに連敗が続いた。ガードの平野実月は、チームスタイルが定まらなかったサムソン生命の中で役割が曖昧になり、チームプレーとマッチしないもどかしさの中で過ごしていた。
だが、ハ・サンユン監督からは「ミツキ(平野)のディフェンスのエネルギーを買っている」と信頼されているだけあり、徐々にアグレッシブさを出せるようになってきた。今では、チームにエネルギーを注入する貴重なシックスマンに浮上。サムソン生命は怒涛の追い上げを見せ、現在は8勝6敗で3位につけている。
2人の「MOE」が所属するKBスターズ
永田萌絵がスタメンとして躍動するKBスターズは、現在5勝9敗で4位。韓国代表のセンター、パク・ジス(198センチ)が海外リーグ参戦で抜けたことにより、高さの攻防から機動力を生かすチームへと脱皮中だ。
そんな中で、ドライブを得意とし、ペイントを割って得点できる永田の加入はドンピシャリの補強となった。前半戦を終えて永田のスタッツは、得点7位(平均12.57点)、リバウンド9位(6.79本)、アシスト8位(平均2.9本)、ブロックショット10位(平均0.57本)と4部門でベスト10入りしている。
また、KBスターズにはもう一人の「MOE」である志田萌が所属しているが、開幕前に足の甲を負傷したことにより、まだゲームに出場できていない状態だ。
「カップ戦ではチャンスをもらっていて、これからアピールをするところで怪我をしてしまったので悔しいです。今までのキャリアでこんなにも戦列を離れる怪我をしたことがないので、焦る気持ちはあります。けれどこの悔しい経験をいいものにできるように、日々ゲームを見ながら勉強しています」と語る彼女がコートに立つ日を楽しみに待ちたい。
下位から反転をうかがう新韓銀行とハナ銀行
5勝10敗(5位)で負けが先行している新韓銀行は、アジア枠ドラフト1位のセンター、谷村里佳が奮闘している。膝の怪我から復活を遂げたシーズンなだけにコンディションが心配されたが、平均28分15秒のプレータイムを得て、平均12.36得点、6.2リバウンド、2.5アシストと好スタッツを叩き出している。
ただ、谷村個人は奮闘しているものの、チームプレーとしては内外角のシュート力がある谷村を生かしたコンビネーションが作れず、序盤は試行錯誤していた。グ・ナダン監督が健康上の理由でシーズン序盤に退いたものの、イ・シジュン監督代行のもと、ベテランガードのイ・ギョンウンが機能してきており、徐々にチームプレーが形成されているだけに後半戦に期待だ。
開幕からベテラン得点源のキム・ジョンウンや、ガード陣の負傷によって出遅れてしまい、現在4勝11敗の成績で最下位にいるのがハナ銀行だ。そんな中で、ガードに負傷者が出たときにスタメン起用され、積極的に攻めていたのが石田悠月だ。現在はベンチから登場し、1番と2番を兼任するコンボガードとして、自身の役割をこなしている。
またハナ銀行では、「スカウティングから映像編集、個人練習のコーチングまで何でもやっている」という森山知広コーチ(前・神戸ストークスHC)が奮闘中だ。男女通じて韓国プロリーグにおける日本人コーチ第1号として「学ぶ毎日です」と語る。
新人王&韓国代表を目指すホン・ユスン
新人選手たちも奮闘中だ。とくに目覚ましい活躍を繰り広げているのが、新人ドラフトで1位指名を受けた洪有純(ホン・ユスン/新韓銀行)である。
大阪桐蔭高から大阪産業大に進み、大学2年次の途中で退学し、WKBLドラフトにエントリーした。開幕当初はコートに立つと緊張の面持ちを見せていたが、持ち前の走力でスタメンの座をゲットし、オールスターブレイクに入る直前には、ルーキーで初となる4試合連続のダブルダブル(得点とリバウンド)を記録。「今日のMVP」にも2試合連続で選ばれている。
179センチのサイズで高校時代はセンターを務めており、今は3、4番をこなすウイングプレーヤーに転身。速攻に走り、外角シュートを決め、リバウンドに跳びつく。イ・シジュン監督代行が「吸収力が素晴らしく、私たちのチームの宝物」と語るように、スケールの大きな選手へと育成したい新人王候補である。
ホン・ユスンは韓国籍を有する。「国籍を変えたくないので、高校時代からWKBLでプレーすることを希望していた」と言い、ドラフトエントリーの時期を大学卒業後にするか悩んでいたという。周囲から「今のタイミングで韓国に行くほうがベストでは」と勧められたこともあり、「ドラフト1ヶ月前の7月末に韓国行きを決断しました」と語る。
将来的には「速く走って速攻を決め、韓国にいないスタイルの選手になりたい」と目を輝かせる。韓国代表に名乗りを上げる日も近い、と思わせるほど期待のルーキーである。
登録名「イ・ヨミョン」としてプレー
新人ドラフト2巡目全体8位で指名された大角地 黎(おおかくち・れいり)は岐阜女子高、松蔭大に在籍したのちに新人ドラフトにエントリーした。ただ、大学時代は韓国に留学していたことで約2年半もの間プレーから離れており、今はブランクを埋めようと必死に取り組んでいるところだ。登録名の「イ・ヨミョン」は自分で名付けたという。
「『おおかくち』は呼びにくいので覚えやすい名前にしようと思い、登録名をつけました。名字は母の名前から『イ』にして、名前は『ヨミョン』にしました。『れいり』の黎には『黎明、夜明け』という意味があります。それを韓国語にすると『セビョク(새벽)』と『ヨミョン(여명)』という2つの意味があるのですが、黎明に意味が近いヨミョンにしました」
母の母国である韓国に渡り、「イ・ヨミョン」としてプレーする彼女の成長に期待したい。
WKBLは12月22日開催のオールスターを挟み、年明けの1月1日に再開。3ラウンドで1試合だけ残しているサムソン生命vs KBスターズ戦を行い、翌日の1月2日から後半戦の4ラウンドに突入する。
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