コロナ危機で「生理の貧困」が激増 日本も生理用品を無償配布へ 3割近くが代用品使う
「生理の貧困」って?
[ロンドン発]「生理の貧困」というニュースを最初に耳にした時、コロナ危機で困窮し、栄養不足から生理不順になる女性が増加えているのかと思いました。
しかしイギリスでは貧困のためナプキンやタンポンなど生理用品を買えない女性が増え、コロナ危機で10人に3人が新聞紙や靴下、トイレットペーパーで代用しているそうです。
これが先進国の現実かと悲しくなりました。
コロナ危機で経済的に追い込まれ、自殺する女性が増えている日本も例外ではありません。菅政権は23日「生理の貧困」対策として生理用品を無償配布するため、約13億5千万円を配分することを決めました。
生理用品や衛生用品について、自治体の備蓄分を民間団体に委託して配ったり、新たに購入して公共施設に無料で置いたりするそうです。これで「生理の貧困」が少しでも緩和され、「女性の尊厳」が回復されることを願います。
「生理の貧困」はコロナ危機で増幅されている女性の困窮の象徴に過ぎません。下は月別自殺者の増減を前年同月と比べたグラフです。自殺者の総数では男性の方が多いのですが、増加幅は女性の方が大きいことが一目瞭然です。
日本では2019年10月から消費税率が8%から10%に引き上げられました。軽減税率の対象になったのは「酒類・外食を除く飲食料品」「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」だけで、生理用品は対象外。
平均年間給与が1228万5534円の朝日新聞や1253万2051円の日経新聞は「困った人の気持ちは分からない」と言われても仕方ありません。
2割が生理用品のために他の物を我慢
「生理用品を軽減税率対象に!」というオンライン署名から生まれた団体「#(ハッシュ)みんなの生理」(谷口歩実・福井みのり共同代表)は「生理の貧困」の実態を明らかにしようとオンラインアンケートを実施しました。
高校、短期大学・大学、大学院、専門・専修学校などに在籍する671人から調査した結果、過去1年間に生理用品を手に入れるため他の物を我慢するなど金銭的な理由で生理用品の入手に苦労した若い女性の割合は20%にのぼりました。
生理用品でない物を使った人は27%、生理用品を交換する頻度を減らした人は37%もいました(いずれも3月2日時点)。これまでに次のような声が寄せられたそうです。
「生理用品は全体的に値段が少し高くて、もう少し安くしてもらえたらその分を他の生活費に回せる。値段を安くしてほしい」
「月経困難症なので、定期的に産婦人科に行って薬を処方してもらっています。1回当たり診療代と薬代合わせて約2千円を年3回支払うのは、母子家庭で学費を自分で払っている大学生には経済的に厳しい」
ピルは生理痛や生理による体調不良を軽減するのに有効とされています。しかし、日本では金銭的負担や偏見によってピルの入手は困難だそうです。
「生理痛がひどいために低用量ピルを服用しているが、金銭的な負担が重い」「収入減のためピルを買うことができない」
「ピルは避妊のために使うものというイメージが定着していてピルを使うことを周りに相談しにくかった」「低用量ピルを飲み始めたら、親から偏見を持たれた」
4人に1人が生理用品の入手に苦労
「コロナ危機の影響で、生理用品を入手するのに苦労したことがある」と答えた若い女性の割合は25%にのぼりました。
「生理を隠さなければならない風潮に困っています。生理休暇を抵抗なく使えるような地盤を整えてほしい」
「男性ばかりの研究室なので、体調が悪いときでも生理であることを隠して男性と同じように研究活動せざるを得ず、身体への負担が大きい」
「ひどい生理痛がある時は婦人科を受診すべき、ということはよく目にするが、人と比べることが難しいため一体何を基準に受診すべきか正直分からない」
「出血量が多いので病院に行きたいのですが、親の理解が無く病院に行けていません」
英ではコロナで「生理の貧困」3倍に
イギリスでは「生理の貧困」の影響を受けた若い女性の数はコロナ危機で3倍に増え、支援要請が最大6倍に増加しているそうです。
英団体「プラン・インターナショナルUK」によると、コロナ前は14〜21歳の女性の10人に1人が生理用品を買う余裕がないか、アクセス(購入または入手)できませんでした。パンデミックが始まってからその数は3倍に膨れ上がったそうです。
別の支援団体「ブラッディ・グッド・ピリオド」は昨年初めから6万個以上の生理用品を無償で提供してきました。支援要請は通常の6倍に増加しており、要請は今後も増えるとみています。
パンを買う余裕もなければ、生理用品を買う余裕がないのは当然です。しかもコロナ危機によるロックダウン(都市封鎖)で公共スペースが閉鎖され、困っている人が必要な支援を受けるのが難しくなっています。
トイレットペーパーを生理用品の代わりに使っていた女子学生はコロナ危機でトイレットペーパーが不足し、古い靴下を使わざるを得ず、耐え切れなくなったそうです。
イギリスではタンポンを買うか、食料品を買うかという究極の選択を迫られている若い女性は少なくありません。
スコットランド議会は無償提供を可決
英スコットランド議会は昨年11月、生理用品を無償で提供する法案を全会一致で成立させました。2016年に米ニューヨーク市が学校、ホームレスの避難所、刑務所で無償提供する法案を可決しましたが、すべて無償というのは世界初。
17年8月からこの法案に取り組んできた野党・スコットランド労働党のモニカ・レノン議員は成立したその日「スコットランドの誇るべき日です。全国どこででも無料で生理用品にアクセスできるというシグナルを世界に送ることができました」とツイートしました。
レノン議員はホームレスの人が路上で販売する雑誌ビッグイシューで「生理用品を十分な頻度で交換できなかったり、ぼろぎれで代用しなければならなかったりするのは屈辱的で、危険です」と訴えていました。
「若い女性がフードバンクに来て、カロリー不足による栄養不良で生理用品は不要と言った時、稲妻が走った」という理由で無償提供運動に参加した女性もいます。
生理用品は学校やコミュニティーセンター、ユースクラブ、薬局で提供され、年間費用は870万ポンド(約13億円)かかるとみられています。
スコットランドの人口は545万人。日本の人口は約1億2650万人。スコットランドでかかる年間費用と同じ規模の予算を日本は組んだわけです。
「生理の貧困」がこの取り組みによってどのように緩和されたか、是非「見える化」して検証してほしいと思います。
イギリスの学校、大学で生理用品へのアクセスを調査(17年度)したところ、26%が前年に生理用品にアクセスするのに困難を伴ったと回答。その場合70%がトイレットペーパーを代わりに使用すると答えました(複数回答)。
女性が生涯で使用する生理用品は4800ポンド(約71万5600円)と推計されています。子宮内膜症に苦しんでいる人の場合、1日に使う生理用品の量は4倍にも6倍にものぼるそうです。
イギリスでは生理用品に「タンポン税」と呼ばれる5%の付加価値税(VAT)をかけていましたが、昨年末に廃止しました。日本でも、新聞と同じ軽減税率の対象に加えることを検討してはどうでしょう。
日本のシングルマザー「生活が苦しい」
コロナ危機は貧富の格差、男女の格差を広げています。日本の新型コロナウイルス感染症対策本部に昨年11月に出された「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の資料を見てみましょう。
就業者(自営業主・家族従業者・雇用者)数は昨年4月に大幅に減少。女性の減少幅は70万人で、男性の37万人に比べて2倍近く大きくなりました。雇用者数も女性の減少幅は74万人だったのに、男性は32万人。
非正規雇用労働者の減少幅が大きく、女性の減少幅は男性より大きくなっています。シングルマザーからは「収入が減少した」「生活が苦しい」という切実な声が上がっています。
ドメスティック・バイオレンス(DV、家庭内暴力)の相談件数は昨年5~6月、前年同期比の約1.6倍に増加。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数も昨年4~9月の累計で前年同期比の15.5%増になりました。
先進国で広がる生理用品の無償提供
スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相も、生理用品の無償配布を発表したニュージーランドの首相も、フランスの担当相もみんな女性です。
丸川珠代・男女共同参画担当相(五輪相)は選択的夫婦別姓に反対する文書に名を連ねていたことが英BBC放送でも報じられました。
しかし基本的には、女性の政治参加、社会参加が進めば「生理の貧困」のような問題も少しずつ解消されていくはずです。タブー視せず、オープンに議論することが大切です。
■ニュージーランド
ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は2月、すべての学校で生理用品を無償配布すると発表。2019年に7700人の若い女性を対象にした調査では9~13歳までの12%が経済的な理由で生理用品を買うことが困難と回答しました。
24年までに2500万NZドル(約19億円)を投じる方針です。「生理の貧困」のため12人に1人が学校に行けなかったとして、アーダーン首相は「人口の半分にとって日常生活の一部であることが理由で教育機会が奪われてはならない」と宣言しています。
■フランス
フランスのフレデリック・ヴィダル高等教育・研究・イノベーション相も2月にすべての大学生に生理用品を無償で配布すると発表。9月からの新学期までにすべての大学生が手に入れられるようにします。500万ユーロ(約6億4400万円)の予算を組みました。
19年の調査で170万人が「生理の貧困」を訴え、状況はコロナ危機で悪化。すでに自治体レベルで高校生らを対象に生理用品を無償配布する動きが広がっています。
(おわり)