大義なき「アベノミクス解散」それでも自公政権は続く アベノミクス2.0目指せ
朝日調査、不支持が支持上回る
衆院が21日、解散された。12月2日公示、14日投開票の結果は日本の未来を大きく左右する。安倍晋三首相は「アベノミクス解散」と位置づけ、「アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙だ」と宣言した。
これに対して、自民党の小泉進次郎内閣府政務官は記者団に「国民にはなぜ衆院解散なのか、何が争点か分からない」と述べた。
直近の世論調査では解散について「反対」が「賛成」を大幅に上回り、朝日新聞の調査では第2次安倍政権の不支持率が40%と初めて39%の支持率を上回った。しかし、比例の投票先では自民党が民主党を大きく上回っており、自民・公明の優位は揺らいでいない。
安倍首相の記者会見からキーワードを拾ってみる。
・民主党政権が終わった2年前、日本だけデフレ。3四半期連続のマイナス成長
(筆者)消費者物価指数1%、1年間で実質国内総生産(GDP)は3四半期のマイナス成長、実質GDPは年換算でマイナス1.6%。
・雇用は100万人以上増え、高校生の就職内定率は10%アップ。
・今年の春は、過去15年間で最高の賃上げ。
(筆者)実質賃金は前年同月比でマイナス3%。
・2年間で20万人、5年間で40万人分の保育の受け皿を整備し、待機児童をなくす。学童保育についても待機児童ゼロを実現する。
・2017年4月から確実に消費税を引き上げる。景気判断条項は削除。
・経済界は来年も賃上げと約束。再来年、その翌年と賃金を上げていく。
・中小企業は円安によってガソリンや原材料が上がって困っている。今度の経済対策でしっかり対応する。
・アベノミクスで行き過ぎた円高が是正され、空洞化の時代が終わる。海外へ逃げていった投資が国内で動き始める。
(筆者)安倍首相は日産やキャノンの例を挙げたが、少子高齢化と人口減少が進む日本国内に生産拠点を戻す動きはあまり出ていない。
・企業の倒産件数は民主党政権時代から2割も減る。倒産が少ないのは24年ぶり。
・地域の消費の喚起などスピード感を持って対応するため、交付金を創設。所得税の負担のない方々に的を絞っていく。
依然として高い自民の支持率
次に朝日新聞と共同通信の世論調査を見てみよう。
【朝日新聞】
どの政党を支持?
支持政党なし40%、自民32%、民主5%、公明3%、共産3%、維新1%
比例の投票先は?
自民37%、民主13%、維新6%、共産6%、公明4%、生活1%、社民1%
【共同通信】
比例の投票先は?
まだ決めていない44.4%、自民25.3%、民主9.4%、公明4.6%、共産4.2%、維新3.1%など
小選挙区の投票先は?
自民26.4%、民主9.4%
総選挙の結果を占うのは時期尚早だが、政権を任せられる野党が見当たらない中、自民・公明の連立政権がかなりの議席を維持しそうな情勢だ。
しかし、消費税増税先送りを口実にした解散には理解を得られていない。投票率がどうなるか。低所得者の不満を汲み取る共産党が支持を伸ばしそう。アベノミクスが進化を迫られるのは必至だ。
海外でも強まるアベノミクス批判
国際決済銀行(BIS)の元経済顧問ウィリアム・ホワイト氏は英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、日銀の黒田バズーカ2について「勇猛果敢というより無鉄砲」との懸念を示している。
日本の低成長の理由は大半が生産年齢人口の減少に起因する。円安で中小企業は原材料やエネルギーの輸入コスト上昇に苦しんでいる。
実質賃金の低下とインフレで消費が低迷している。
こうしたことから、ホワイト氏は「黒田バズーカ2は不必要で、成長にはつながらない」と一刀両断にしている。
著名投資家のジム・ロジャーズ氏は日経新聞電子版のインタビューに「安倍首相の施策は日本を破壊している。(略)私のような投資家や、一部の輸出企業には良い。だが、若者をはじめとする大半の日本人には悲惨なことだと思う」と指摘している。
当たり前のことだが、日銀の黒田バズーカ2は人口減少に何の効き目もない。日本経済最大の問題はホワイト氏が指摘しているように少子高齢化と人口減少にある。
1990年ごろから、日本では少子高齢化が顕著になり、人口動態の変化が経済にとってマイナスに働く人口オーナス(重荷)期に入っている。高齢社会が到来し、社会保障制度を維持するのが難しくなる。
アベノミクス2.0
ロンドンから日本に帰国して思うのは、非常にインフラが整備されていることである。ビクトリア時代の建物を大切に使っているロンドンでは笑い話のようだが、バルコニーや天井が落下する事故がよく起きる。
それに比べて、日本は空港や新幹線、道路、高層ビルが整備され、インターネットの通信速度も恐ろしく速い。如何せん、東京圏を除くと人が少ない。人口減対策が必要だ。東南アジアから移民を受け入れる選択肢を切り捨てるわけにはいかない。
ICT(情報通信技術)の発達と普及で先進国と新興国の間の生産性格差は急速に埋まりつつある。経済の決め手は人口規模に大きく左右されるのが現実だ。先の大戦で生産年齢人口が不足した欧州は移民を受け入れ、急場をしのいだ。
欧州では移民排斥を訴える極右政党が台頭している。日本では移民受け入れに対する拒絶反応が強いものの、移民が日本経済復活の切り札になる可能性が大きいことは間違いない。
安倍首相のコアな支持層が移民受け入れに強く反対していることはなんとも皮肉である。
教育格差を食い止めろ
安倍首相は女性の社会参加に関し「2年間で20万人、5年間で40万人分の保育の受け皿整備」「学童保育についても待機児童ゼロを実現」を掲げているが、それだけでは足りない。「量」と同時に保育の「質」を考える必要がある。
貧富の格差はどんどん広がっている。黒田バズーカ2には通貨安と資産浮揚の効果はあっても、資産を持たない低所得者層に分け前をくれるわけではない。低所得者層と富裕層の子供たちの教育格差は3歳の時点で9カ月の差がつくという。
未就学児童や学童への公共投資は、女性の社会参加を促すとともに、幼児期に広がる教育格差を埋め、子供たちに機会の平等を保障する。しかも、保育を担当する女性や高齢者を訓練し、雇用すれば一石三鳥の効果を持つ。母親は収入を確保できるので、将来、子供の教育への投資が可能になる。
すでにカナダや北欧諸国はこうした政策で効果を上げている。インフラに投資する時代は終わった。問題は人の数と質なのだ。
スイスの有力ビジネススクール、IMD(経営開発国際研究所)の報告書「世界人材リポート」によると、日本は60カ国・地域中28位。語学力は54位、国際的な経験は59位。日本人の国際競争力は日本人自身が思っているほど高くない。
実はアベノミクスを中断させることも失敗に終わらせることもできなくなっている。いずれも日本にとっては悲劇だからだ。
安倍政権は愛国心よりもっと大事なもの、創造力に富んだ自由な精神を次世代に育むべきだ。それには幼児期から義務教育、高校、大学・大学院へとつながる教育が大切だ。未来を切り開くには教育、教育、教育しかない。時間はかかるかもしれないが、安倍政権は日本の未来に積極的かつ大胆に投資すべきだと思う。
(おわり)