なぜレアルはエムバペを加えて強くなっていないのか?新たな"銀河系軍団"に訪れた最初のクライシス。
大物選手が加わったとして、チームが強くなるとは限らない。それはフットボールの常だ。
この夏、キリアン・エムバペをフリートランスファーで獲得したレアル・マドリーだが、開幕から苦しんでいる。リーガエスパニョーラでは首位の座をバルセロナに譲り2位につけており、チャンピオンズリーグでは、グループステージにおいて2勝3敗で24位に位置している。
■守備力の低さを露呈
エムバペの加入で、当然、マドリーの攻撃力はアップすると思われていた。だが実際は、守備力の低下を露呈することになっている。
「チームはもっとコンパクトに、オーガナイズされた状態でプレーしなければいけない。ウチの選手たちが怠けているわけではない。しかしながら現在、我々は効率的に、コレクティブにプレーできてはいない」とはカルロ・アンチェロッティ監督の弁だ。
「選手たちは健康な状態だ。これから多くの批判を浴びるだろう。たくさんの人が意見を言うはずだ。我々はそれを受け入れ、現実を見なければいけない。うまくやれていない。こういう形で、シーズン終盤を迎えることはできない。修正する必要がある。開幕の頃に話したが、もっと良い守備をしなければ。鍵はそこにある」
■シーズン序盤の前残り問題
バルセロナとのクラシコ(0−4)、チャンピオンズリーグのミラン戦(1−3)とビッグマッチでそれは露見した。2試合で7失点。GKティボ・クルトワの代わりを務めたGKアンドリュー・ルニンだけに責任を押し付けるような真似はできないだろう。
マドリーが苦戦しているのには、理由がある。エムバペとヴィニシウス・ジュニオールの「前残り問題」だ。
現在のマドリーには、エムバペとヴィニシウス、フランス代表とブラジル代表の強烈なアタッカーがいる。エムバペ(10得点/19試合)、ヴィニシウス(12得点/17試合)と彼らの得点力は申し分ない。
だがチーム全体を見た時、話は変わってくる。エムバペとヴィニシウスを2トップで起用した際、ほかの8選手が守備に回るという構図が多くなった。このやり方で勝てるほど、現代フットボールというのは甘くはない。
マドリーは今季、チャンピオンズリーグ・グループステージ第2節のリール戦で、公式戦で初めて敗戦を喫した。公式戦36試合の無敗記録がそこで途絶えた。
そのリール戦で、マドリーの総走行距離は相手より12km少なかった。「走力」で上回られていたのだ。今季のチャンピオンズリーグで、その傾向は顕著である。シュトゥットガルト戦(総走行距離の差は8Km)、ボルシア・ドルトムント戦(5km)、ミラン戦(5Km)、リヴァプール戦(5Km)といずれも対戦相手がマドリーより多く走っている。
現在、ヴィニシウスは負傷で戦列から離れている。だが早ければ年内に復帰する見込みで、やはり問題の早期解決が求められる。
■昨季のマドリーとの違い
昨季のマドリーは、攻守のバランスが良かった。
「守備免除」が許されているのはヴィニシウスだけだった。そのヴィニシウスでさえ、チャンピオンズリーグ準々決勝マンチェスター・シティ戦のようなゲームでは、身を粉にして走っていた。
【4−4−2】中盤ダイヤモンド型の布陣で、トップ下にジュード・ベリンガムを嵌めるシステムは機能していた。守備時には中盤フラット型にして、ベリンガムを左MFに回す手法は効果的だった。
今季のマドリーが、特別に悪いわけではない。ただ、正しいバランスが見つかっていない。マドリーはそのバランスを、結果を出しながら、勝ちながら見つけていかなければいけない。ここが難しいポイントだ。
「『おやすみ』さえ気軽に言えない。バルセロナ戦とミラン戦の敗戦は説明がつかない。分析して、リアクションする必要がある」
「チームがナーバスになっているとは思わない。不運だけど、フットボールには難しい時期がある。僕たちはレアル・マドリーだ。そのことを完璧に理解している。ここでは、常に勝利しなくてはいけない。言い訳の余地はないんだ。チャンスを生かしてゴールを決め、失点を減らさないと」
これはルニンのコメントだ。
説明がつかないーー。その感覚は、おそらく正しいのだろう。
だがシーズンは進み続ける。エムバペを加え、「新たな銀河系軍団」と称されたチームは、最初のクライシスを乗り越え、タイトルをもぎ取る力を蓄えなければいけない。