手慰みの練習曲を“小唄”に育てたベースとギターの“コロナの想ひ出”(加藤真一インタヴュー)
エチュード(Etude)とは、音楽の世界では“練習曲”を指しています。
一方、絵画や彫刻においては、完成作のための下絵や習作を指し、演劇においては、場面設定はあるもののセリフや動きは役者任せ、つまり即興劇のことだったりします。
いずれも“本番を念頭に置いた準備段階”というニュアンスを込めてつかわれることが多い言葉であり、それ自体を公に発表することは憚られるというか、“舞台裏”だから表に出さないほうがいいという風潮があるように感じていました。
ところが加藤真一の新作は、そんな芸術分野での忖度おかまいなしに、堂々とタイトルに冠し、しかも内容は余人がおよそ“練習曲”としてなぞらえることができないものを完成させてしまったのです。
「時間はたっぷりあったから、譜面を引っ張り出してきて練習していたんだけど、そればっかりじゃ飽きちゃったんだよね(笑)」(加藤真一)
いやいや、飽きちゃっても、それを作品にまで昇華させることができるなんて、並みの人にはできません。
ということで、“練習曲”をジャズってしまった『エチュード』が生まれる背景について、語ってもらうことにしました。
♪ 自粛期間の暇つぶしに手を出したのが練習曲
──2020年のはじめのころの活動って、どんな感じでしたか?
──東京オリンピック・パラリンピックの延期(註:3月24日に当時の安倍首相とIOCバッハ会長が電話会談で合意したことを発表、3月30日にIOC臨時理事会で正式決定)からガラッと空気感が変わりましたよね。
──自粛期間中はなにをされていたのですか?
──ほかのミュージシャンからも、時間があるから練習して、だいぶ腕が上がったなんていう話を聞きました(笑)。
──ついつい、譜面から外れていった?
──馬場孝喜さんとは前からのお知り合いですか?
──「ちょっと来てよ」って言うと、来てくれる間柄だったんですね。
──そうやって始まったものが、こうしてアルバムになるわけですけれど、タイトルを目にすると、楽器をやっている人なら「なにをしようとしているのかな?」だったんじゃないかと思ったんです。
──練習曲というとクラシックのイメージだし、それでジャズをやるといえば、例えばオイゲン・キケロ(註:ルーマニア生まれのピアニスト。1965年に制作した『ロココ・ジャズ』を皮切りに、クラシックの曲をジャズに仕立て直すスタイルの第一人者として知られた)みたいな……。
──そっち系なのかなって。でも、聴いてみるとぜんぜん違う。内容としては、まったくのジャズのデュオ・アルバムですよね。
──モチーフになっているセバスティアン・リー(1805年生まれ)とフリードリヒ・ドッツァウアー(1783年生まれ)は、いずれもその名を冠した教則本がチェロ奏者には知られた存在だそうですね。加藤さんも使っていたんですか?
──ギターを加えるというアイデアはどこから?
──そちらを優先したんですね。
──ピアノとやろうという発想はなかった?
──ピアノだと、お茶漬けでいいって言ったのにフルコースが出てきちゃうみたいな?
♪ 練習曲を介した会話の楽しさをコロナ自粛が教えてくれた?
──コロナ禍は創作意欲にどう影響したとお考えですか?
──新作のテーマであるエチュード(練習曲)を引っ張り出してこようというのもそのメリットのひとつだったわけですが、作曲にも影響したりしたのでしょうか?
──浮かんだアイデアがおもしろくて、それを共演者と共有できればいいというスタイルというか……。
──ということは、今回のエチュード(練習曲)をもとにした“小唄”が、ピアノ・トリオになったり、別の楽器編成になったり、オーケストラになったりすることもあると?
──馬場さんとのデュオでレコーディングして、これでチャンチャン、なんですね?
──なんか、もったいないような気もします。
──今回はハーモニーに重きを置いた作品ではないということが関係しているのでしょうか?
──ジャズならではのコード・テンションに凝るわけではなく、ただ単純に2人でメロディーを分け合って演奏して、それが楽しかったという……。
──すぐこじつけて講釈したがる悪い癖が音楽ライターにはあるんですが(笑)、コロナの分断で言語にしろ演奏にしろ“会話のハードル”が上がったときだからこそ、一緒に楽器で会話ができることの楽しさがこの作品につながった、みたいな感じなんでしょうか?
♪ 演奏者と観客の分断をどう解決するかが配信の課題
──今後のライヴ活動のお話をしていただこうと思っていたのですが、雲行きが怪しくて、不確かな状況が続きそうです。
──ライヴ配信については?
──どんなところが“配信はイマイチだなぁ”と思いますか?
──観客側にどんな音が出ているのかも確かめられませんよね。
──2021年の抱負をうかがえますか?
──上半期のスケジュールというのは?
──ありがとうございました。またライヴのときにでもリアルにお目にかかれることを願っています。
※このインタヴューは2021年2月5日にビデオ会議システムZoomによる非対面で実施しました。
Album Information
ETUDE(エチュード) / 加藤真一 & 馬場孝喜
加藤 真一 KATO Shinichi (bass)
馬場 孝喜 BABA Takayoshi (guitar)
リリース情報 http://bowz.main.jp/fsl/0020/
★Profile
加藤真一
北海道出身。1985年、猪俣猛トリオに抜擢され上京。同トリオにて全国のオーケストラ、吹奏楽団とも共演。1992年、永住権取得を機にニューヨークへ移住。マイク・スターン(g)を迎えてのリーダー・アルバム『サムシング・クローズ・トゥ・ラヴ』をリリース。1995年の帰国以降、自己のグループ(B-HOT CREATIONS)やベース・ソロを中心に、数多くのセッション、サポート活動を繰り広げる。2002年、富樫雅彦(JJ Spirits)に参加。佐藤允彦(p)とTipo CABEZA結成。2005年、佐藤允彦率いるsaifaにてメールス・ジャズ・フェスティヴァル、ノースシー・ジャズ・フェスティヴァルに出演。現在、佐藤允彦、市川秀男(p)、嶋津健一(p)らのトリオなど多数参加。美しい音色と繊細さ、重厚なリズム、ジャンルを超えた多様な演奏スタイルは、日本の音楽界に欠くことのできない存在。 https://katoshinichi.net/
馬場孝喜
京都府出身。中学時代からギターを始める。2004年、ニューヨーク〜ブラジルに渡航し、Bilinho Teixeira(g)に師事。ボサノヴァ、サンバ、ショーロなどブラジル音楽に傾倒する。2005年、ギブソン・ジャズギター・コンテスト最優秀ギタリスト賞受賞。2006年11月25日に京都コンサートホールで行なわれた「佐山雅弘 PLAYS ゴールドベルク変奏曲」第2部の佐山雅弘トリオに参加。2008年より拠点を関西から東京へ移す。佐山雅弘(p)、井上智(g)、大坂昌彦(ds)、沢田穰治(b etc.)など多数のミュージシャンと共演。現在、自身のグループやさまざまなセッション、レコーディング、講師など、幅広く活動している。
※Profileはレーベルのリリース資料より引用
★Live Information
2月22日(月)
加藤真一・馬場孝喜Duo(アルバム『ETUDE』発売記念)
出演:加藤真一(Bass)馬場孝喜(Gt)
場所:live space ZIMAGINE
東京都港区南青山6-2-13 ファイン青山B1(エレベーター有)
TEL: 03-6679-5833