Yahoo!ニュース

泥沼離婚でイメージダウンのアンジェリーナ・ジョリー、“女優”としてのリベンジなるか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
L.A.のAFIフェストでの「マリア」プレミアに出席したアンジェリーナ・ジョリー(写真:ロイター/アフロ)

 ここしばらく、アンジェリーナ・ジョリー(49)の姿をビッグスクリーンで見かけない。

 最後に彼女が出演した映画は、2021年の「モンタナの目撃者」と「エターナルズ」。主演作だった前者は、パンデミックでアメリカでは同時配信だったということを考慮しても興行成績は惨敗で、記憶にも残らない映画だった。アンサンブルキャストの一員だった後者も、マーベルのスーパーヒーロー映画としてはぱっとしない結果に。その1年前に声の出演をした「ゴリラのアイヴァン」は、早々とディズニー・プラスのラインナップから外されてしまった。

 その間、ジョリーは、仕事よりもプライベートでメディアを騒がせている。2016年に彼女が離婚を突きつけたブラッド・ピットとは、いまだに親権争いが決着しないまま。アメリカでは共同親権が一般的なのだが、なんとしても子供たちを元夫から遠ざけたいジョリーは、末の双子が17歳になるまで引っ張る作戦らしい。それだけでは飽き足らず、ピットがお金も労力も注ぎ込んで成長させた南仏のロゼワインのブランド「シャトー・ミラヴァル」の半分の権利を相談なくロシアの大企業に売ってしまい、ピットを激怒させた。その裁判も継続中で、まさに泥沼だ。

 そんな彼女のやり方には、ジョニー・デップ、キム・カーダシアン、ケビン・コスナーら数々のハリウッドセレブの離婚を扱ったすご腕弁護士ローラ・ワッサーも辟易したと言われる。だが、ジョリーは、ピットとのことで傷ついたのは自分と子供たちであると主張。キャリアよりも心を癒すことを最大重視してきたと語ってもいる。

 その一方で、ピットは、プライベートのごたごたの中でも仕事も順調にこなしてきた。2019年のクエンティン・タランティーノ監督作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」では、オスカー助演男優賞を受賞。ほかにも「ブレット・トレイン」、「バビロン」、「ウルフズ」などの映画に出演し、プロデューサーとしても多忙をきわめてきている。

オペラ歌手の伝記映画で久々のオスカー候補入りか

 だが、ようやく“女優”アンジェリーナ・ジョリーに再びスポットライトが当たる時が訪れた。パブロ・ララインが監督するマリア・カラスの伝記映画「マリア」で、オスカー主演女優部門への候補入りがささやかれているのだ。

「Variety」は、候補入りだけにとどまらず受賞もすると予測しているが、オスカーまではまだ4ヶ月以上あり、今はまだ作品を見ていない投票者のほうが圧倒的に多く、この先どうなるのかはわからない。とは言え、ララインは、ジャッキー・ケネディについての「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命」、ダイアナ妃についての「スペンサー ダイアナの決意」で、それぞれナタリー・ポートマンとクリステン・スチュワートを主演女優部門に候補入りさせた実績がある。同じように実在の有名人の話で、演技の見せ場が多い「マリア」のジョリーには、投票者にアピールする要素が十分。しかもジョリーはこの映画で歌もこなしているのだ。

「マリア」のために、ジョリーは7ヶ月かけて歌の特訓をした(Pablo Larrain/Netflix)
「マリア」のために、ジョリーは7ヶ月かけて歌の特訓をした(Pablo Larrain/Netflix)

 伝説のオペラ歌手カラスが死ぬ前の1週間を舞台に、フラッシュバックの形で過去を見せていく形で展開する「マリア」には、人生の違った時期に違った場で歌うカラスの姿が登場。冒頭には、歌うジョリーの顔を超アップで映すシーンもある。それらの歌は、カラスのレコーディングとジョリーの声をミックスしているのだが、カラスの声を使うシーンでも、現場ではジョリーが実際に歌っている。

 現地時間25日、ロサンゼルスのAFIフェストでのプレミアで、ジョリーは、ララインから「歌えますか」と聞かれた時、求められているレベルを正確に理解せずに返答したと告白。本当にオペラを歌わなければいけないのだとわかると、とても怖くなったが、7ヶ月をかけて特訓を受け、死に物狂いで練習したのだという。「自分にできるかどうかわからないことに対して全力を尽くすチャンスをもらえるのは、アーティストとして最高にありがたいこと。この仕事のおかげでオペラが好きになったし、それらの歌を歌えることに喜びを感じます」と、ジョリーは満足げに語っていた。

「マリア」はカラスが死ぬ前野1週間を舞台に、フラッシュバックをはさみつつ展開(Pablo Larrain/Netflix)
「マリア」はカラスが死ぬ前野1週間を舞台に、フラッシュバックをはさみつつ展開(Pablo Larrain/Netflix)

「マリア」の配給を手がけるのは、毎年積極的なオスカーキャンペーンを展開するNetflix。この作品に関しても、11月末から限定で北米劇場公開、12月11日から配信と、オスカー狙いにふさわしい公開計画を立てている。ただし、Netflixは、やはりオスカーで大健闘すること間違いなしの「Emilia Perez」も抱えており、主演女優のカルラ・ソフィア・ガスコンがジョリーのパワフルなライバルになる可能性は大きい。この部門には、ほかに「Babygirl」のニコール・キッドマン、「Anora」のマイキー・マディソンらも、候補入りが有力視されている。

前回候補入りした時、隣にはピットがいた

 ジョリーは25歳の時、「17歳のカルテ」でオスカー助演女優賞を受賞。33歳の時にも「チェンジリング」で主演女優部門にノミネートされた。久々に本業である演技で注目され、晴れの場で称賛を浴びるのは、まさに本望だろう。さらに都合の良いことに、次のオスカーに、ピットは俳優としても、プロデューサーとしても、おそらくかかってこない。候補者たちは、オスカーに先立つさまざまな賞でしばしば顔を合わせるものだが、居心地の悪い状況になる心配はなさそうなのだ。

2009年のオスカーに、候補者カップルとして仲睦まじく出席したピットとジョリー
2009年のオスカーに、候補者カップルとして仲睦まじく出席したピットとジョリー写真:ロイター/アフロ

 もちろん過去の受賞者で大物セレブのピットは、授賞式に招待されるかもしれない。だが、ピットがその場にいてもいなくても、また彼が気にしていようがいまいが、女優としての成功した自分の姿を見せつけられるのは、彼女にとってちょっとしたリベンジなのではないか。それに、公にしている交際相手がいないジョリーは、授賞式に誰を同伴するのか。彼女はよく子供たちをプレミアのレッドカーペットに連れて来るが、オスカーに子供たちのうちのひとりを同伴してきたならば、子供たちと関係がこじれて会いたいのに会えないままのピットは、相当に複雑だろう。

「チェンジリング」でオスカー授賞式に出席した時、ジョリーの横には、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」で主演男優部門に候補入りしていたピットがいた。まさにスーパーカップルとしての華やかな瞬間で、どちらも受賞は逃したものの、愛し合うふたりは楽しそうだった。それはもはや遠い昔だ。このアワードシーズンは、時折、そんな時の流れを感じることになりそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事