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人の流れの活性化への期待と物価高への懸念…2023年4月景気ウォッチャー調査は現状上昇・先行き上昇

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
人の流れは回復しつつあるが(写真:つのだよしお/アフロ)

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2023年5月11日付で2023年4月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、持ち直している。先行きについては、価格上昇の影響などを懸念しつつも、持ち直しが続くとみている」と示された。

2023年4月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス1.3ポイントの54.6。

 →原数値では「ややよくなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは55.7。

 →詳細項目は「飲食関連」「製造業」以外の項目が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。

・先行き判断DIは前回月比でプラス1.6ポイントの55.7。

 →原数値では「よくなる」「ややよくなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは55.2。

 →詳細項目は「飲食関連」「住宅関連」「製造業」以外が上昇。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」以外の全項目。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2023年4月では人の動きの回復ぶりを反映する形で、前月比で上昇することとなった。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2023年4月では現状判断同様に物価上昇、具体的には原油をはじめとする資源価格の高騰、半導体などの原材料や部品の供給不足、そしてロシアによるウクライナへの侵略戦争に対する不安はあるものの、行動規制の解除などで今後現状以上に人の動きが回復しそうな雰囲気に景況感が後押しされている。実際、人の流れが回復してきたとの声も多々聞こえている。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2023年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2023年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今ではロシアによるウクライナへの侵略戦争の影響でコスト上昇が現実のものとなり、さらに新型コロナウイルスの変異株の影響による新規感染者数の急増が景況感の足を引っ張り、大きな下落。今回月の4月は前回月から続く形で、年始までの下落から持ち直しの動きを示している。もっとも天井感を覚える上昇であることは否定できない。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外すべて。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2023年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2023年4月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「住宅関連」以外すべて。物価上昇、具体的には半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油をはじめとした資源価格の高騰、そしてロシアのウクライナへの侵略戦争への懸念が景況感の足を引っ張っているが、新型コロナウイルスの変異株の猛威に対する不安はピークを過ぎており、各種規制も解除されており、人の流れの活性化への期待があることから、上昇している。

人の流れの回復と物価高と

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・物価の上昇が続くなかでも、インバウンドは増加する一方であり、国内需要も高単価、高稼働での推移となっている。宿泊業では消費が増えていることを実感している(都市型ホテル)。

・3か月前と比較すると徐々に売上がよくなっている。暖かくなると外出が多くなり、おしゃれするようになる。そのため、店が忙しい状況になっている。客のマインドが明るくなっており、景気回復傾向である(美容室)。

・来客数が増加したことで飲料や菓子の動きがよくなっているが、弁当などの主食、デザートなどは値上げの影響もあって、販売量がやや低調に推移している(コンビニ)。

・物価高により、必要品以外の電化製品は買わない傾向がみられる(家電量販店)。

■先行き

・ゴールデンウィーク後の経過にもよるが、夏季のイベント等の実施も早々に決まっていて、人流が後退する要因は少ない(一般レストラン[居酒屋])。

・コロナ禍における行動制限が解除され、今年は各地域の花火大会の開催などの行事により、着物事業においては浴衣需要が見込まれる。また、インバウンド需要も見込める(衣料品専門店)。

・原材料費の値上げに歯止めが掛からない状況が当分続く。利益確保を優先するか、顧客確保のため企業努力によって現状維持で販売していくかとても難しい状況である。当面景気は変わらない(一般レストラン)。

・現在の旅行需要増加による反動減が少なからず生じるとみられる。全国旅行支援など、国や都道府県が実施している各種施策の終了も今後の旅行需要減少につながる要因の1つとなる(旅行代理店)。

人の流れの増加実情や期待によるポジティブな意見もあるが、物価高を受けた消費者の買い渋りやビジネスの困難さの話も見受けられる。また新型コロナウイルスの流行に伴う行動規制解除とともに公的施策が終了することで、ビジネスが難しくなるとの意見もある。

企業動向でも物価高への影響が見受けられる。

■現状

・自動車メーカーにおける部品調達不足も徐々に解消し、増産体制が整ってきている(輸送用機械器具製造業)。

・受注量が大きく減少している。注文住宅市場は約10%程度減少し、ここに来て分譲住宅の販売の鈍化も加わり、各社着工の抑制を行っている状態である。今後の回復に期待する(木材木製品製造業)。

■先行き

・今後も、新型コロナウイルス感染症に関する制限の解除や国内観光客の増加で引き続き観光土産、行楽客の食べ物需要が増加するとみられる(食料品製造業)。

・受注量は堅調だが、光熱費の更なる上昇が予想されるため、利益の確保に苦労するとみている(金属製品製造業)。

部品調達の解消の動きや人の流れの回復で需要が増加するとの喜ばしい話もあるが、光熱費などの物価高で経営的に厳しい状態は続くとの意見も見受けられる。また、住宅業界にかげりの動きがあることは注目に値する。

雇用関連では現状を再認識できる結果が出ている。

■現状

・募集側が提示する年収の範囲と求職者の希望する年収が一致しなかった場合、上限年収を引き上げても内定を出すケースが徐々に増え始めている(民間職業紹介機関)。

■先行き

・新型コロナウイルス感染症が5類に移行することで、観光関連は動きが出る。一方、製造業では半導体不足や物価高騰などの影響もあるので、全体としては変わらない(職業安定所)。

雇用情勢は求職者数不足が深刻なようで、今まではあまり見られなかった「上限年収を引き上げてでも内定を出す」との文言が確認できる。他方、製造業における半導体不足や物価高の影響は、雇用関連の観点でも大きいようだ。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、通常化するのかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

さらにロシアによるウクライナへの侵略戦争は日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。電気代をはじめとした物価上昇の大きな要因となっていることもあり、景況感に与える悪影響は大きなものとなる。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。

上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域ごとの景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化している」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項のない限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

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(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロではないプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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