残業が減って、緊張感がなくなった? なぜ働き方改革で、風邪ひく社員が増えるのか
■ 残業が減って、緊張感がなくなった?
「え? 風邪ひいたから休ませてほしい? なんだ、またかよ……」
2019年4月、働き方改革法が施行され、残業上限規制の新ルールが適用されました。
経営トップから「残業削減」を厳命され、平均45時間だった部下たちの残業時間(月間)を約半分にまで減らしたと自慢げに言っていた営業部長。その彼が最近、頭を悩ませています。
スマホに、「今日、風邪気味なんで、休ませてください」と、部下からショートメッセージが来るたびに、彼はこう言いたくなるそうです。
「夜遅くまで残業してたときのほうが丈夫だったろう! たるんでる!」
と。
つい数ヵ月ぐらい前までは、夜の9時、10時まで仕事をするのが当たり前だった。なのに、まだ明るい時間に退社するようになった部下たちを見て違和感を覚えつつも、
「業績も大事だが、社員の健康のほうが、もっと大事だから」
と、自分に言い聞かせたのに――。
■ 働き方改革の影響で、混乱する現場
まさに現在は、働き方改革の時代。
連日メディアが「働き方改革」や「ワークライフバランス」「時短」「生産性」……という言葉を、あちらこちらで取り上げています。
しかし、これらの言葉を正しく理解せず、口にしている人がとても多くなっていることも事実です。
先日も、ある大企業の管理者研修において「時短と生産性アップとの違いは何ですか?」という私の問いに、正しく答えられた受講者は10%もいませんでした。
これでは、働き方改革の真の意味合いも、ほとんどの人は説明できないだろうと思います。上司が言葉を正確に理解できていないのなら、現場が混乱するのは当然です。
■ 昔のように、残業をさせたほうが健康的?
「残業を減らしたら、やたらと部下が風邪をひくようになった」
先述した営業部長から、このように愚痴をこぼされたのは先月のことです。
お気持ちは、わかります。他の企業でも、よくあることですから。しかし、ひとつだけハッキリ言えることは、残業削減と体調不良に因果関係はない、ということです。
「部下の体調を考えると、昔のように残業をさせたほうがいいのでは」
とまで言うので、私は慌てて否定しました。「それじゃあ、本末転倒ではありませんか」と。
社員の健康を第一と考えるから、長時間労働の是正をするわけです。
■ 生産性アップに不可欠な資源
働き方改革の目的は、企業の生産性を上げること。このことに、誰も異論はないでしょう。
生産性は、投入された資源量に対する、産み出した生産量(成果)の比率で表現されます。しかし、これまで日本企業が積極的に投入してきた「労働時間」という資源の総量は、残業規制と少子化の影響で、著しく落ちています。
そのため、別の資源を新たに投入しない限り、成果を維持することはできません。単なる時短が、生産性ダウンに繋がるゆえんです。
つまり、新たに投入する資源は「努力」という資源でしか補えないのです。素晴らしいアイデア、イノベーティブな発想で生産性をアップできればいいですが、それは絵空事です。
多くの組織で、そんなイノベーションを起こすことができるはずがない。インプルーブメント(改善)とイノベーション(革新)は違うのです。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。数多くの現場体験があるからこそ、きれいごとは書きません。イノベーションなんて、普通のビジネスパーソンができることではない。できることは、これまで以上に額に汗をかき、集中して仕事をすることだけです。
緊張感もって作業密度を高めましょう。そうすることで、働く人の心も体も健全になっていきます。
■ 仕事ができるビジネスパーソンほど、健康である
仕事ができるビジネスパーソンほど、健康です。
残業が減ったことで、かえってコンディションを悪くするような人は、これまでダラダラ仕事をしてきた証拠。密度の薄い仕事のやり方で、長い時間、働いてきたのです。
そのような人は、働き方改革によって、さらに緊張感をなくします。働く時間も、働く場所も、働く服装も、ドンドン自由になるからです。
自由を手に入れたら、知らないうちにストレス耐性が落ちます。そして、気持ちがたるんでくるのです。摂生できず、体調を悪くする人が出てくるのもうなずけます。
働き方改革だからといって、仕事のやり方を変えず、単に残業だけを削減するなら、副作用しかありません。組織メンバーの成長にも繋がらない。
「働き方改革」も「ワークライフバランス」も単なる手段です。目的は「クオリティ・オブ・ライフ」のアップだということを忘れてはなりません。健康で、健全な働き方ができるよう、組織に属するすべての人が、緊張感もって考えつづけることが大事です。