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平成の高校野球10大ニュース その9 2018年/賛否両論のタイブレーク導入

楊順行スポーツライター
2018年夏の甲子園で、初めて実施されたタイブレーク。あなたは賛成? それとも…(写真:岡沢克郎/アフロ)

 2014年、夏の甲子園開幕前。畏友である評論家の門田隆将氏、雑誌『ホームラン』編集長の戸田道男氏と産経新聞紙上で座談会をしたことがある。優勝候補、注目選手などについてひとしきり話したあと、おりしも導入へ向けて議論が始まったタイブレークについての話題となった。紙面上は大幅に割愛されていたので、実際の話をちょっと再現するとこんな感じだ。

タイブレークは名勝負を生みにくい?

戸田 タイブレークは、野球の勝負を決める仕組みとしては不完全でしょう。たとえば、14年の春季関東大会では、準々決勝の佐野日大(栃木)と桐生第一(群馬)戦が初めてのタイブレークになりましたが、延長10回に佐野日大がなんと9点……。尋常な試合じゃなく、野球ファンにとっての醍醐味は半減です。それだったら、じゃんけんで決めたほうがまだいい(笑)。

楊 箕島と星稜(1979年夏の延長18回)のような、歴史的な名勝負が生まれにくいのでは、という心情はありますよね。それと、さも錦の御旗のように「国際大会で導入されている」といいますが、なんでもかんでも国際標準に合わせるのが果たして正しいのか。高校野球での導入は慎重にすべきだと思う。

門田 1チームに3日連続の試合をさせないことを前提として、試合の方式を決めればいいだけですよ。スムーズな大会運営というのは大人の都合であって、そもそも天候によって日程が変わりうるのが野球の大会でしょ。変えてはいけないのは、勝負を決めるという一番本質の部分。タイブレークは、話にならないね。

 ここで、タイブレーク導入までの経緯をおさらいしておこう。そもそもタイブレークとは、同点で延長戦にもつれた場合、攻撃側にあらかじめチャンスを設定して得点が入りやすいようにし、早期決着を促す方式のことだ。オリンピックでは2008年の北京から、WBCでも09年の第2回から採用されている。

 高校野球でも、選手の体調への考慮や大会運営の観点から、神宮大会では11年、国体では13年、春季各都道府県や地区大会では14年から導入されていた(当時の運用は、規定のイニングで1死満塁、攻撃側が任意の打者を選ぶ指名打順)。戸田氏がふれていた佐野日大と桐生第一の試合が、これにあたる。ただし春夏の甲子園、またそれにつながる夏の地方大会や秋の大会では、得点の入りやすい状況を人為的に設定することへの拒否反応が予想され、採用については慎重だった。

 選手の体調管理をいうなら甲子園でも、13年夏から準々決勝翌日に休養日を設定していた。勝ち上がるチームにとって、最大4連戦を避けるための配慮だ。だが、である。翌14年のセンバツでは雨天順延が続いたうえ、広島新庄と桐生第一(群馬)が引き分け再試合となって休養日が消滅。体調管理のはずなのに大会運営を優先する格好で、結果的に休養日の意義が形骸化してしまった。後半が過密日程となったこの事態を受け、日本高野連がタイブレーク制の甲子園での導入について全加盟校にアンケートを実施したのは、この年7月のことだ。集計の途中経過では、導入に否定的な意見が多かったという。

 ところがそんな折り、全国高校軟式野球の決勝が、なんと3日連続のサスペンデッドのすえ、史上最長の延長50回でようやく決着するという珍事が。こうした事態も追い風となったのか。徐々に、甲子園でも将来的にタイブレーク導入やむなし、という空気になっていく。

 さらに17年のセンバツでは、2試合続けて延長15回引き分け再試合という、これもまた史上初の事態が発生。タイブレーク制導入やむなしという機運のなか、17年に再度アンケートを実施したところ、40都道府県の回答中38が導入に賛成。そして6月には、翌18年センバツと選手権を含むすべての大会での採用が固まったのだ。われわれがいかに「本質が変わってしまう」「じゃんけんのほうがまし」といってみても、時代の趨勢というヤツですね。

秋には早くも「決勝は例外」

 このタイブレーク、運用方法は団体や大会によって異なるが、18年センバツから採用された春夏の甲子園では、延長13回から無死一、二塁、前イニングの継続打順から攻撃を始める方式。導入最初の18年センバツでは、6試合あった延長戦もすべて延長12回までで決着がつき、タイブレークは実現しなかったが、夏は2試合がタイブレークにもつれた。まずは第2日の第4試合で、延長14回表に1点を勝ち越した佐久長聖(長野)が旭川大高(北北海道)を振り切っている。そして2試合は、第8日の星稜(石川)と済美(愛媛)。こちらは、13回表に星稜が2点を勝ち越したが、その裏の済美が史上初の逆転満塁サヨナラ本塁打という、劇的な決着となった。

 なお補足しておくと、タイブレークの導入は延長の早期決着を促す狙いだが、延長回数は無制限。従来の打ち切り規定である15回を超え、決着がつかなければ延長16回以降にもつれることもありうるわけだ。この場合、同じ投手は一試合あたり最大で通算15回までしか投げられない。まあ、健康管理というお題目と整合性を保つためには、そうした規定を設けざるを得ないだろう。

 また春夏の甲子園に限らず、基本的には公式戦の決勝のみはタイブレークなし。これが延長15回引き分けとなった場合は再試合とし、そこではタイブレーク方式を採用する。この高校野球特別規則を目にしたとき、「よくもまあ、細かいところまで規定するものだ」と思ったものだが、昨秋の北信越大会、啓新(福井)と星稜の決勝は延長15回で2対2の引き分け。めったにないはずのレアケースが、導入1年目に早くも実現したわけだ。この北信越決勝、再試合も7回までは3対3の同点。どうせならタイブレークも見てみたかったが、さすがに7回に勝ち越した星稜が、9回で試合を終わらせて優勝した。

 それにしても……この短い原稿中に3回も登場する星稜って、高校野球という劇中では、なにかをやってくれそうなチームなんだよなぁ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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