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「ホッチキス替芯1万円」実はマスクの転売だった 闇取引の「抜け道」どう塞ぐ?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:k.k/アフロイメージマート)

 3月15日、マスクの不正転売を罰則付きで禁止する政令が施行された。考えうる取り締まりの手法は――。

闇取引が横行

 政令の制定を受け、早くも転売サイトなどでは闇取引も登場している。

 「ホッチキス替芯1箱、1万円」とか「赤ペン1本、1万円」などと表示し、替え芯や赤ペンの写真を掲載する一方、ユーザーとのやり取りでマスク転売の商談を行うというパターンだ。

 では、こうした闇取引による「抜け道」をどう塞げばよいか。

 この点、転売サイト各社は、政令を踏まえ、それぞれ規約を改定し、自作や他の商品とのセット販売を含め、マスクの出品そのものを禁止した。

 例えば、「ヤフオク!」は、3月4日の時点で、フリマ(定額)形式について適正価格かつ小ロット単位での出品を要請するとともに、3月14日からオークション形式の出品を禁止すると告知した。

 その後、政令の制定を踏まえ、3月11日からは、定額設定、適正価格かつ小ロット単位であっても、マスクの出品を一律に禁止した。

 もし出品が確認された場合、削除などの措置を講じるという。

業務妨害罪による検挙も

 また、もともと「ヤフオク!」などの転売サイトは、マスク規制の以前から、規約により、出品物と直接関係のない画像や単語の掲載、別の商品との抱合せ出品、「おまけ」出品などを厳に禁じている。

 そうすると、先ほどのような悪質な転売屋については、転売ではなく、その前段階の出品行為に着目し、最高刑が懲役3年の偽計業務妨害で検挙することが考えられる。

 マスクの不正転売に対する最高刑が懲役1年だから、より重く処罰できる。

 彼らは規約の内容など百も承知だ。

 にもかかわらず、出品禁止のマスクをホッチキスの替芯など出品可能な商品であるかのように巧妙に偽装して出品し、転売を発覚しにくくしている。

 その結果、転売サイトにその探索や察知、削除といった無駄な対応を強い、彼らの業務を妨害しているわけだ。

 転売サイトがこうした悪質な転売屋に関する登録情報などを警察に伝え、被害届を提出すれば、彼らに対する捜査も行われることだろう。

 しかも、被害者はマスクを購入した一般の消費者ではなく、転売サイトになるので、捜査もやりやすい。もし検挙者が出れば、こうした手口による闇取引を防ぐ効果も大だろう。

 「ヤフオク!」の広報からも、次のようなコメントが寄せられているところだ。

「当社のガイドラインを潜脱するような出品が増えているとすれば誠に遺憾です」

「ヤフオク!では専門スタッフによる24時間365日のパトロールや第三者による違反申告などで、マスクの出品を確認・判断した場合は、ガイドライン違反として、出品削除措置や悪質な行為については利用停止措置をするなど、対策を講じていきます」

出品や転売をいかに察知するか

 では、そうした出品や転売をどうやって把握すればよいか。

 この点、警察は、ネット上の犯罪事案を検挙するため、「サイバーパトロール」という24時間の監視態勢をとっている。警察だけでは人手不足なので、学生ボランティアの協力も得ているところだ。

 こうした警察の「やる気」も重要だが、それでもネット上の不正転売を一つ一つチェックするのは大変だし、特にSNSなどを利用した地下に潜るやり方だと困難だ。

 そこで、第三者による転売サイトなどへの通報制度を活用したらどうだろうか。

 マスクが手に入らずに悔しい思いをしている多くの人たちは、不正出品や転売の根絶に向け、協力を惜しまないはずだ。

 通報による事件解決の寄与度に応じ、転売サイトなどが通報者にポイントやクーポンといったインセンティブを与えることも考慮されてしかるべきだろう。

 警察が転売サイトなどとタッグを組み、「おとり捜査」を行うことも考えられる。

 闇取引によってマスクを転売したものの、相手は転売サイトの関係者や警察官だったという実にリスキーな展開があるとなれば、転売を控えることにもなるだろう。

転売目的の仕入れは?

 では、さらに一歩前の段階に着目し、自分や家族で使うのではなく、最初から転売するために薬店などでマスクを購入する行為をどうやって阻止するか。

 チケット不正転売禁止法だと不正仕入まで規制されているが、今回の政令で処罰されるのは不正転売だけだ。

 ただ、例えば、ある薬店で登録会員1人につき1箱に限り、転売を厳禁した上で、顧客にこれを誓約させて販売したとする。

 その際、同一人物が複数名義を使って転売目的を隠して買い占めたような場合には、マスクをだまし取ったと見て、最高刑が懲役10年である詐欺罪の成立が考えられる。

 すでに同じようなやり方で転売禁止のチケットを興行主側から仕入れた転売屋が、チケットの詐欺で有罪判決を受けているところだ。

購入者も捜査の対象に

 一方、高くても転売屋から購入しようとする消費者がいる限り、転売屋がなくなることはないだろう。

 今回の政令ではマスクを購入した者は処罰されないが、転売した者が警察に検挙された場合、捜査の対象になることは間違いない。

 販売先として取調べを受け、購入時に使用したパソコンやスマホの提供を求められ、通信履歴を調べられたりするだろう。

 どこの誰か分からない人物の販売するマスクであり、衛生状態などの保証もないし、それこそ実のところ詐欺であり、商品すら送ってこないかもしれない。

 転売マスクなど手を出さないほうが身のためだ。

増産態勢の確立も不可欠

 今回の転売規制は、マスクの増産などによって需給バランスが安定するまで続けられる。

 政府は、マスク同様に品薄が深刻になれば、転売規制の品目をアルコール消毒液などに広げることも検討する方針だ。

 ただ、今回の政令では、製造業者や輸入業者が卸売業者に販売するとか、卸売業者が小売業者に販売するとか、小売業者が一般消費者に販売するといった通常の商取引については規制の対象外となっている。

 そのため、正規の仕入・販売ルートを経た上での小売業者による便乗値上げは、この政令で処罰できない。

 もちろん、昨今の情勢からして、そうした業者は社会から激しいバッシングを受け、信用を失うことになるはずだ。

 それでも、まずはマスク転売の検挙例を数多く積み重ねる一方で、マスクや消毒液などの増産態勢の確立と供給増に向け、政府によるバックアップが不可欠といえるだろう。(了)

(参考)

拙稿「店で買ったマスクを家族に利益を乗せて売ったら処罰される? 転売に関するQ&A

拙稿「マスク転売で1円でも利益得たら犯罪に 問われる警察のやる気と転売サイトの本気度

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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