「第2のBiSH」オーディション番組最終回の「非情さ」から感じた「芸能界のあり方」「敗者への敬意」
「第2のBiSH」を作るオーディション番組『BiSH THE NEXT』(日本テレビ系)が7月1日に最終回を迎え、最終候補者12名のなかから、RYUUSEi、HANANO、SAORi、RiNA、HARUTO、MAHiTOの男女6名が選ばれてBiTE A SHOCKとしてデビューした。
同番組の最終回は生放送され、その直後、BiTE A SHOCKは音楽特番『THE MUSIC DAY 2023』へ出演するなど異例のスピードでメディアデビュー。さらに7月9日にはオーディションの課題曲でもあった楽曲『Patient!!』、7月24日には番組内でも紹介されていた『THE NEXT』が配信リリース。『Patient!!』は7月7日にスタートしたドラマ『癒しのお隣さんには秘密がある』の主題歌としてもオンエアされている。また7月17日には、東京国際フォーラムホールCでお披露目ライブ『Why don't you BiTE??』も開催される。
渡辺淳之介の質問に候補者沈黙「スタッフがいなければ僕たちは仕事ができません」
目まぐるしい早さで変わり始めた、6人の運命。そうやって人生が左右される瞬間を全10回にわたって映し出したのが『BiSH THE NEXT』だった。
2023年6月29日の東京ドーム公演をもって解散する音楽グループ、BiSHの意志を引き継ぐグループを作るため、「日本語を話せれば、全人類応募可」の条件で、番組を通してオーディションを開催。BiSHのプロデューサーである渡辺淳之介を中心に、BiSHのメンバーもまじえ、さまざまな方法で応募者3000人をふるいにかけていく様子に密着した。
歌、ダンスなどの実技審査はもちろんのこと、第2回放送の落選者を対象とした敗者復活戦では「番組スタッフの名前が言えるかどうか」という“質問”も候補者にぶつけられた。当日は番組スタッフも全員、自己紹介をしてからオーディション風景を撮影していたこともあり、渡辺淳之介は「芸能界はすごくいっぱいの方々が働いています。これがなければ僕たちはお仕事ができません。というわけで人を大事にする」と説明。ただ、落選者の多くが番組スタッフの名前について沈黙すると「え、誰も分からないんですか? 今日、一番進行してくれて、すべてをいろいろ教えていただいたディレクターの方の名前、分からないんですか。名札付いていましたよ」と言い、会場内に緊張が走った。
以降も「パフォーマンス審査に挑む際のチームメイトの名前をフルネームで言えるかどうか」、「新グループが男女構成になった場合、恋愛に発展しないかどうか」などを試す審査やドッキリもおこなうなどし、メンバーを見極めていった。厳しさとユーモアを絡めながらオーディションは進行。候補者たちもお互いに絆を深め合いながら成長を遂げていった。
勝者は壇上にそのまま残り、敗者はステージから降りる「非情」な演出
そんな『BiSH THE NEXT』の最終回には「非情さ」を感じる演出があった。しかし、だからこそ印象的で、また心が大きく揺さぶられた。なにが「非情」だったのか。それはメンバーが決定した瞬間である。
最終回でおこなわれた最終審査は「マッチアップ審査」。候補者12名がBiチーム、SHチームに振り分けられて『Patient!!』をパフォーマンスし、同じ歌とダンスのパートを担当する者同士が「どちらのパフォーマンスが優れているか」で競い合うものだ。つまり、勝敗がはっきりと決まる1対1のタイマンバトル。その合格者は、視聴者、BiSHのメンバー(放送時には解散していたため元BiSHの表記)、そしてBiSHのプロデューサーである渡辺淳之介の投票で決定された。
対戦カードの組み合わせはいずれも、オーディションを通して絆が芽生えた候補者同士の戦いになった。その組み合わせも「残酷」だが、なにより、投票によって合否が決まったその瞬間、勝者はそのまま壇上へ、そして敗者は司会者から「ここまでとなります」とカメラの外へ出ることをアナウンスされる点があまりに「非情」だった。
ただその「非情さ」こそが、ここまで残った敗者たちへの最大の敬意であるようにも見られた。
テレビ番組としては、ここで敗者のコメントを引き出す方が感動的である。ただ番組は、別の演出を選択した。最終審査で見せたパフォーマンス以上の言葉はもう必要ない。そして、すべてを出し切った者たちに「負けたこと」「悔しさ」について尋ねることは失礼である。合格者が決まったと同時に敗者をステージから降ろし、そして「なにも言わせない」という進行は、番組として、そしてBiSHの関係者として称賛をこめたものだったのではないか。カメラはひたすら、涙を流す敗者の姿を映していただけだった。しかし、それで十分だった。
「芸能界には夢が破れてその場から去る者が必ずいる」ということ
合格した6人に対しても、この「非情さ」が「芸能界そのものである」と語っているように映った。
同番組のオーディションではこれまで、審査項目の随所で「芸能界のあり方」が込められていた。最終回で表現された、勝者はそのまま残って敗者はものを言わずにステージを降りる「非情さ」からは、「芸能界には夢が破れてその場から去る者が必ずいる」ということが構図的に明確に示されていた。そしてその図は、「勝者としての責任」を問いかけていたようにも見えた。
合格者が決まってから、BiSHのモモコグミカンパニーは「選ばれなかった6人は、夢が一つ消えてしまったかもしれません。でも今の最高に格好良い自分は捨てないで、ずっとずっと自分の道を信じて歩いていってください」、渡辺淳之介も「俺、BiSHが終わったらぶっちゃけ辞めようかなって思ってたんだけど、それを『もっと頑張んなきゃいけないんだな』と思わせてくれたこの12人に『ありがとう』を言いたいなって思います。落ちた6人もここまで残ってるから、君たちは紙一重だったから、俺はあきらめないで欲しい」と涙を堪えてコメントした。
オーディションには必ず、勝者と敗者がいる。勝ったものはガラリと人生が変わる。負けたものは、もしかするとなにも変わらないかもしれない。やはりそれは「非情」なことである。ただどちらもリスペクトするべきであることを、『BiSH THE NEXT』は伝えていた。