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シリア:トルコ軍が「傭兵」どうしの衝突に介入、100人あまりを逮捕し領内に連行

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2021年4月20日

クルド民族主義組織の民主連合党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)は、トルコ軍が4月19日、シリア北東部のラアス・アイン市(ハサカ県)で「傭兵」とその家族、そして支持者100人以上を逮捕し、トルコ領内に連行したと伝えた。

「傭兵」とは?

ラアス・アイン市およびその周辺地域は、2019年10月のトルコ軍による「平和の泉」作戦によって、ラッカ県タッル・アブヤド市一帯とともにトルコの占領下に置かれている。ANHAが言うところの「傭兵」とは、シリア国民軍と呼ばれる武装集団のこと。トルコと敵対するPYD、シリア政府が蔑称としてこう呼んでいる。

シリア国民軍は、トルコ軍がシリア北部で行った「ユーフラテスの盾」作戦(2016年8月~2017年3月)、「オリーブの枝」作戦(2018年1月~3月)の二つの侵攻作戦に参加した武装集団を母体として結成された武装連合体である。イスタンブールで活動するシリア国民連合(シリア革命反体制勢力国民連立)の傘下にある疑似政体の暫定内閣の国防省の指揮下に置かれていることになっている。だが、その司令官や戦闘員の多くは、トルコから給与を支払われ、占領支配の一端を担っている。

シリア国民軍を構成する有力部隊としては、トルコがもっとも手厚い支援を行っているシリア・ムスリム同胞団系のシャーム軍団、スルターン・ムラード師団、ハムザ師団、そしてイスラーム国の元戦闘員を含むダイル・ザウル県出身者によって構成される東部自由人連合などがある。PYDは、彼らがシリアのアル=カーイダであるシャームの民のヌスラ戦線(現在の呼称はシャーム解放機構)と変わらないと非難している。2019年10月にシリア国民軍の傘下に入った国民解放戦線は、イドリブ県中北部、アレッポ県西部、ラタキア県北東部、ハマー県北西部で、シャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を組織し、共闘していることを踏まえると、この批判は的を射ていない訳ではない。

欧米メディアでは、「トルコの支援を受ける自由シリア軍」(Turkish-backed Free Syrian Army)と呼ばれることもある。

なお、トルコはシリア国民軍に占領地の軍事・治安任務をアウトソーシングするだけでなく、リビアやアゼルバイジャン(カラバフ)に派遣してきたことは、周知の通りである。

ラアス・アイン市での衝突の経緯

トルコ軍が介入することになったラアス・アイン市での衝突については、情報が錯綜している。

国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、戦闘は4月17日に密輸監視用の検問所の管理をめぐって、北の鷹旅団とスルターン・ムラード師団の間で始まり、18日の戦闘で複数人が死傷した。

一方、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、戦闘はスルターン・ムラード師団の戦闘員どうしによって始められ、その後、東部自由人連合、ハムザ師団が介入したことで激化したと発表した。

ANHAも当初は、スルターン・ムラード師団の戦闘員の戦闘と伝えていた。だが、4月20日には、東部自由人連合がラアス・アイン市内で、ハサカの盾旅団に所属する女性メンバーに対して検問を行ったことが戦闘のきっかけだったと伝えた。

いずれにせよ、事態の悪化を受け、ラアス・アイン市には19日に外出禁止令が敷かれ、トルコ軍の装甲車50輌と四輪駆動車20輌が市内に展開、シリア民主軍の憲兵隊とともに、大規模な摘発を行ったという。

ANHAは、逮捕された戦闘員の多くは、東部自由人連合のメンバーとその家族で、その数は100人以上に達したと伝えた。一方、シリア人権監視団は、逮捕されたのは数十人で、スルターン・ムラード師団、ハムザ師団、東部自由人連合のメンバーだったと発表した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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