レノファ山口:ピッチ上の「背骨」に危機。町田と勝ち点差ゼロに
後半19分。コーナーキックから流れた難しいボールをFW大石治寿(藤枝)がしっかりとゴールに送り込んだ。3失点目。ずしり、ずしり重い3失点目だった。明治安田生命J3リーグ第36節。他チームが2日前にゲームを終えている中、レノファ山口FCは11月3日、維新百年記念公園陸上競技場(山口市)で藤枝MYFCと対戦。追い上げ及ばず、2-3で敗れた。
J3第36節:山口2-3藤枝▽前半20分=大石治寿(藤枝)、後半15分=越智亮介(藤枝)、同19分=大石治寿(藤枝)、同37分=小池龍太(山口)、同50分=岸田和人(山口)▽6586人=維新百年記念公園陸上競技場
引っ張られた「重さ」
スコアが決定的な重さを与えたのはその3失点目。しかし、ゲームを通じて重さが山口のイレブンを覆っていた。
理由の一つは攻撃が噛み合わなかったためだろう。この試合、「チームの心臓」(上野展裕監督)だった庄司悦大が負傷のために試合出場を見合わせ、ボランチに平林輝良寛が入った。平林自身は経験豊富な選手で危険察知能力も高いが、今シーズンは庄司と小塚和季でずっと組んでいたがゆえに、あうんの呼吸で動けていた前線が後ろに引きずられたままになってしまっていた。それに加えて、2位のFC町田ゼルビアに詰められてきたこともプレッシャーになり、チーム全体として動きが硬化。守備では相手ボールへのチャレンジも遅く、攻撃はボールを大事にしすぎて相手のボックス内に入れなかった。
藤枝は前から厳しく寄せてくる持ち味を発揮。これは決して山口にとって与しがたいスタイルではなく、山口らしいダイナミックなパスワークを重ねればゴールが霞に消えるものではなかった。「我々もコンパクトにすべきところで間延びしてしまって、向こうにセカンドボールを拾われたりとか主導権を握られたりしてしまった。始めからもっと行けばこういう結果にはならなかった」(上野展裕監督)。ガツンと行ける山口らしさを失っていた。
前半20分。藤枝は素早い攻撃を展開し、一度は跳ね返されながらもセカンドボールを拾って越智亮介がスルーパス。これを大石治寿が決め先制する。「越智がいい質のボールを出してくれた。ファーストタッチがうまく落とせたので打つだけでした」と大石。鮮やかにゴールネットを揺らすと、後半15分には今度は越智がゴール前の混戦からこぼれたところをヘディングで決め、リードを広げていく。決定的なゴールはそのわずか4分後。冒頭の通り、左からのコーナーキックに福王忠世が触れて流れたところを大石がためらうことなく振り抜いた。「藤枝が懸けてきたこと、1年やってきたハイプレストと切り替えの早さを選手が出し、山口さんといいサッカーができた」(大石篤人監督)。その狙いのままのゲームで得点を重ね、藤枝が3試合ぶりの勝利をほとんど手中に収めた。
残り10分、あと一歩まで迫る
山口は後半の立ち上がりはテンポが良く、ある程度は押し込んでゲームを展開したが、その連続失点で『1点を返さなければいけない』という思いがさらにのしかかったように見えた。危ういピンチも続き、このまま大敗してしまうのではないかと、マイナスの上にネガティブを重ねたかのような空気が漂い始めていた。
だが。6586人のサポーターが埋めた維新劇場が、そのスコアで終わらせるような後ろ向きの声援を送ることはなかった。『進め、進め、留まることなく。勝利のゴールへと向かって行こう』――。いっそう大きくエールが響く。後半37分。奮い立ったのは、「今日は厳しい戦いになるとは思っていた。自分が一番若いし、チームを動かすつもりで走らなければいけなかった」と話した小池龍太だった。敵陣中央から小塚和季が送り出したボールに迷わずミドルシュート。「いろんな方から打っていいんじゃないというアドバイスをもらっていた。ゴールしか見ていなかった」。GKに阻まれることなくゴールを射貫き、自身のJリーグ初ゴールとともに反撃ののろしを上げた。
さらに後半アディショナルタイム、岸田和人の突破に対して藤枝のGK朴一圭が後ろから止めに入ってしまいレッドカード。得たPKを岸田自身が冷静に決め、2-3とした。
ゲームはここで終了。結果を見れば勝ち点を積み上げられず、今節終了時点でついに町田と並ばれることになった。もっとも得失点差の貯金が圧倒的に多く、首位はまだ明け渡していない。苦い展開にはなったが、うまくはまれば複数得点できる山口の特徴を、最後の最後で体現することができたのもまた事実だ。
ストロングポイントがゆえのウィークポイント
あえて敗因に言及すれば、それはこれまでの勝因が敗因になったということかもしれない。『あうんの呼吸』とも上述したが、ある位置である選手がボールを持ったとき、また別の選手はボールをもらえる位置へ、あるいは引き出しをサポートする位置へ、ほとんど自然に体が動いている。それはメンバーを固定しつつ培ってきたものであるし、ここまで勝利を重ねてきた理由の一つだ。しかし、『あうんの呼吸』は心臓なり背骨なりが欠けてしまうと自動的に動作させるのは難しい。島屋八徳は「コミュニケーションが不足していた」と話したが、その言葉の通りで、庄司悦大だと自然とできていたことを急造布陣ではどうしてもできなくなってしまう。平林輝良寛が入ろうと、あるいは黒田拓真がその位置に入ってこようとも、うるさいくらいに喋って、要求しあって、練習からも試合の中ででも連係を高めていくしかない。
次戦は小塚和季が出場停止。やはり心臓部を欠いてしまうが、結果を引き込んでくるなら、走って、喋って、叫んで、倒れてでも起き上がろう。「若いチームなので一生懸命やってくれていると思う。これからだと思う。こんなに今日たくさんのサポーターがきてくれて応援してくれているチームはここJ3にはない。思いを叶えられるように頑張っていきたいと思う」(上野監督)。前を向いていくだけだ。
山口の次戦はアウェー戦。11月8日午後1時から、盛岡南公園球技場でグルージャ盛岡と対戦する。次の維新公園でのホーム戦は11月14日正午から、J-22選抜を迎える。また、スポンサーのヒューモアが主催してファン感謝祭・シーズン報告会を今季終了後の11月27日午後7時から、山口市民会館で開催予定(全席2千円、最終順位が2位の場合は12月16日に開催)。ヒューモアでは「レノファを通して地域が盛り上がってきた。過去になかったことで、選手やボランティアにも感謝の気持ちを示したい」と話し、来場を呼びかけている。チケットはアンテナショップのほか、11月14日のJ-22選抜戦でも販売する。
今日は6586人がエールを送った。起き上がる勇気を与え、あと1秒、あと1メートル、苦しくてもその一歩の頑張りを後押しできるのはサポーターの力。盛岡で、そしてホーム最終戦のJ-22選抜戦で、また勇気を与えていこう。