「何人死ねば国連は行動するのか」 射殺されたミャンマーの若者の叫びと、孤立深める国軍のシナリオ
クーデターに対する抗議デモがやまないミャンマーで、国軍は武力による取り締まりを2月28日以降、エスカレートさせている。3月3日、第2の都市マンダレーで、19歳のテコンドー教師、マチャルシンさんが頭部を撃ち抜かれ死亡し、ヤンゴンでは国際空港近くの地区で10人が射殺された。内政不干渉を原則とする東南アジア諸国連合(AESAN)さえもが「懸念を表明」する議長声明を発表し、国内外で孤立する国軍の焦りが透けて見えるが、このままでは若者を中心に犠牲者数が増大する可能性が高い。
「国連がアクションを起こすにはどれほどの数の遺体が必要なのか」。2月下旬、ヤンゴンの国連事務所前でプラカードを掲げていた23 歳のエンジニア、ニーニーアウンテッナインさんも2月28日、胸部を撃たれて死亡した。香港やタイ、台湾の若者が始めた民主化運動「ミルクティー同盟」と連帯を示すデモがミャンマー各地で行われたこの日は、最大都市ヤンゴンなど6都市で、妊娠中の女性教師や20代の若者ら20人以上のデモ参加者が銃撃などで死亡し、多数の学生らが拘束された。
市民は腕に自分の血液型と連絡先を書き、武力攻撃も覚悟で抗議デモに加わる。射殺されたマチャルシンさんは血液型「B+」と書いたカードと、「普通の体に戻れないほどの状態であれば救命しないでください。(臓器などの)体は必要な人に寄付します。感謝と共に」と書いたカードを首から下げていた。3日夜、マチャルシンさんが生前に撮影した、切ない恋を歌ったミュージックビデオがフェイスブック に投稿され、多数にシェアされた。
https://www.facebook.com/nage.nage.35977/videos/785197025685676/
「暴動鎮圧」のシナリオ
「国軍は長く続いた軍政時代の思考のままで、武力弾圧の選択肢しか持たない」と1988年と2007年の弾圧を知る人は懸念する。国軍は抗議デモに参加する市民を当初から「暴徒」と呼んできた。「暴徒」がデモ中に暴動を起こし、あるいは「国軍支持の市民」と衝突したため、武力で鎮圧せざるを得なかったー。国軍が探っているのは「恐怖と混乱」をつくり出して利用するシナリオのようだ。
抗議デモが拡大する中で国軍は、「5000チャット(約378円)」の日当で雇った人を「国軍を支持する市民」としてデモに動員したり、元兵士やマフィアまがいの男たちをデモに紛れ込ませたりしている。市民はこうした男たちの写真をインターネット上に多数投稿し「国軍側の人間」と注意を促している。男たちの多くはイヤホンをし、同じ型の黒のショルダーバッグを下げており、ナイフを手にしている者もいる。
北西部モニワで2月27日に市民が屋内から撮影した動画は、国軍の暴力的手法を記録している。鉄パイプなどを持った男や警官らが、逃げるデモ参加者たちを追い詰め引き倒してめった打ちにした後、発砲音が響く。撮影者とその周囲にいる人々の悲鳴も録音されている。
https://www.facebook.com/thihasaw88/videos/1592379294484533/
それだけではない。地元記者やインターネットに投稿された動画によると、ヤンゴンでデモ参加者に問い詰められた男が「国軍に雇われ、警察官や兵士を襲うよう指示された」と告白した。
2月28日には、ヤンゴン近郊の町バゴーで、短剣や棒を手にした男たちが現れ、4階建ての建物の商店を破壊し立ち去った。住民は目撃していたが、スナイパーが周囲に立っていたため手出しができなかったという。地元住民の予想通り、国営メディアは「暴徒化したデモ参加者が建物や資産を破壊した」と報じた。
ヤンゴン で3日に10人が射殺された件で国営メディアは「暴徒が治安部隊を攻撃してきたので、取締らざるを得なかった」と報じている。
国軍は「暴徒化し制御できなくなったデモ隊の仕業」を国内外にアピールし、大規模な武力鎮圧に向け下準備をしている可能性がある。ただし、市民が現場を撮影しインターネットで世界に訴えられる現在の状況は忘れているようだ。
着々と活動進める「連邦議会代表委員会」
一方、国軍を苛立たせているのは、抗議デモだけではない。クーデターは連邦議会開幕を封じたが、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)の議員らによる「連邦議会代表委員会」(CRPH)設立は阻めなかったのだ。
国軍は政権を掌握した後、首都ネピドー に集まっていた議員に帰宅を命じたが、約3百人のNLD議員は政府施設で行った式典やオンラインで就任宣誓を果たし、CRPHを設立した。2月5日、オンラインで開かれた緊急会合には米国、デンマーク、スウェーデン、チェコの外交官も証人として出席している。CRPHは、その合法性を国連に訴え、ミャンマーに駐在する各国外交官や国外に駐在するミャンマー大使らと密に連絡を取って国際社会を味方にし、着々と活動を進めている。
地方行政レベルでも国軍は障害に遭っている。地区や村の行政官を新たに指名したが、住民が「選挙で選ばれた政府が戻るまで自治を選ぶ」と受け入れを拒否しているのだ。「国軍に指名された行政官はいらない」。ヤンゴン のタケタ地区では、住民が次々と行政事務所の門に錠を掛け、抗議の意を示した。
その一方で、CRPHも行政官指名を進めており、武装少数民族の支配地域を除く全国の市や郡、町村で民政機関を近く設置するという。CRPHのティンティッイーモオン委員は「国軍には、行政と治安に対する責任を果たしておらず、その能力もない」と述べ、CRPHが「ミャンマー政府の代理機関」であると宣言する計画を明らかにした。
国軍はCRPHは「違法」と断じ「関係者は厳しく処罰する」と警告しているが、国際社会を素早く味方に付け、市民にも知られる存在になったその活動を封じることは容易ではないだろう。
「国家が資金提供したテロリストによって、非武装の民間人を故意に殺害している虐殺であることは明らかだ」。ミャンマー人の若者が3日、ビルマ語、英語、日本語、中国語で書きフェイスブック に投稿したメッセージは、広くシェアされている。国際社会が「懸念を表明する」だけの段階ではもうないのだ。日本語に込めたミャンマー の若者たちの思いを受け止めたい。