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本家よりも「バルサらしい」分家・マンCこそ、CL優勝候補の筆頭だ

杉山茂樹スポーツライター
CL決勝T1回戦1leg. バーゼルに4−0で大勝したマンチェスターC(写真:ロイター/アフロ)

 大富豪に買収され、一夜にして金持ちクラブに変身する、いわゆる成金系クラブ。そのはしりといえばチェルシーになる。2003年、ロシアの富豪ロマン・アブラモビッチに買収されたこのクラブが初めてチャンピオンズリーグ(CL)を制したのは2011~12シーズン。欧州一のタイトルを獲得するまでに9年の歳月を費やした。

 マンチェスター・シティが金満クラブに転じたのは2008年。今年で10年が経過する。CLにおける過去の最高位は2015~16のベスト4。ほぼ同じ時期に金満クラブ化したパリ・サンジェルマンの過去の最高位がベスト8なので、それよりわずかに先行していることになる。

 ライバルのパリSGは今季、バルセロナからネイマールを獲得した。リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドを、バロンドール級とするならば、ネイマールは準バロンドール級。スーパースターを獲得することで、レアル・マドリード、バルセロナ、バイエルンといった真のビッグクラブに対抗しようとしている。

 マンCの方向性はパリSGとは異なる。バロンドールを狙える選手がいるとすればケビン・デブライネぐらいだが、彼を獲得したのは3シーズン前だ。誰もが知る選手になる以前の出来事だった。

 チームで最も知名度が高いのは選手ではなく監督。昨季、監督に就任したジョゼップ・グアルディオラだ。前バイエルン監督であり、元バルサ監督だ。もっと言えば、クライフサッカーの申し子。マンCは、監督が掲げる"色"を最大の武器に、欧州戦線に臨もうとしている。

 まず選手ありきのチームか、それともまず監督ありきのチームか。パリSGとマンCは、それを尺度に色分けできる。そしてこの関係は、レアル・マドリードとバルサの関係にも当てはまる。以前、スペインのある長老記者はこう述べていた。「歴史的に、個人の力をベースに戦ってきたのがレアル・マドリードで、監督の力をベースに戦ってきたのがバルサです」と。

 現地時間2月14日に行なわれる、CL決勝トーナメント1回戦、レアル・マドリード対パリSGは、同じタイプ同士の対戦と言ってもいい。

 バルサとマンCの直接対決は、まだ予定されていない。決勝T1回戦の相手は、バルサがチェルシーで、マンCはバーゼルだ。しかし、それだけにバルサとマンCの関係に思いを巡らせたくなる。

 バルサを本家とすれば、グアルディオラ率いるマンCは分家。その分家はいま、「バルサ的」な"色"を、本家より断然パワフルに発信している。両者はそれぞれの国内リーグで圧倒的な強さを発揮。首位を独走しているが、本家のバルサは本来の色を日に日に失いつつある。その分だけ、分家のマンCが輝いて見える。

 現地時間13日、バーゼルとアウェーで対戦したマンCは、立ち上がりから、守備的な態勢で臨んできたバーゼルを容赦なく攻め立て、得点を重ねていった。結果は0-4。ベスト8進出を、第2戦を待たずに、ほぼほぼ手中に収めた。

 その3日前、スペインリーグで、バーゼル同様、守備的に対峙してきたヘタフェに0-0で引き分けてしまった本家のバルサとは、対照的な姿だった。なにより、見映えという点で、分家は本家を上回った。どちらのサッカーが美しかったか。言い換えれば、パスコースが多かったか。「バルサ的」だったかと言えば、断然マンCだ。

 布陣はラヒム・スターリング(左)とベルナルド・シウバ(右)の両ウイングが、大きくワイドに開く4-3-3。ボールを奪われにくい両サイドを有効に活用すれば、ボール支配率は自ずと上昇する。5人で構える相手の最終ラインを可能な限り開かせておいて、その上で真ん中を突こうとするバルサらしいサッカーだ。

 マンCに、見るからに器用そうな選手はそう多くいない。スペイン人選手は、この日交代で出場したダビド・シルバぐらいだ。パスワークの滑らかさという点ではバルサに劣る。しかし、それでも高いボール支配率を示す。これはパスコースが多いことの表れだ。抜群のテクニックがなくてもパスは回る。監督のこだわりと、その指導力を思わずにはいられない。

 マンCの今季通算の平均支配率が66.5%であるのに対し、バルサは61.2%。この5.3%の差には大きな意味がある。圧倒的か否か、"色"として成立しているか否かを分ける物差しになる。

 バルサの"色"を奪うことに成功したマンC。成績でもベスト8入りをほぼ手中に収めた。一方、らしさを失いつつあるバルサはチェルシーと対戦するが、接戦必至。そしてそれはレアル・マドリード対パリSGにも当てはまる。こちらもどちらが勝つか予想は難しい。

 2月14日現在、ブックメーカーの優勝予想は、マンC、パリSG、バルサ、バイエルン、レアル・マドリードの順に並ぶが、決勝トーナメント1回戦の戦いを経て、マンCの難敵は最低1チームが消えることになる。頂点に向けての視界は、良好になる。

 グアルディオラが望むのはバルサ戦であり、レアル・マドリード戦だろう。"色"を忘れかけている古巣、本家に、本来の"色"を見せつけて勝利することができれば、このうえなく痛快なはずだ。CL3連覇を狙うかつてのライバル、レアル・マドリードに対しても同じことが言える。勝利を飾れば、これまた痛快だ。

 独自の"色"に加え、多くのストーリーを抱えながらCLの主役に躍り出たマンC。その行く末に目を凝らしたい。

(集英社 WebSportiva 2月14日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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