「福福コンビ」―福原忍投手と福留孝介選手が、阪神タイガースに大きな「福」をもたらす
■快進撃を支える「福福コンビ」
福原忍投手 30試合 20ホールド 防御率1.01
福留孝介選手 68試合 打率・274 本塁打12 打点38
70試合を消化して首位に立つ阪神タイガースの快進撃は、この「福福コンビ」が支えていると言っても過言ではないだろう。
八回を任されるセットアッパー・福原忍投手は、チーム試合数の半数近くに登板。衰えぬストレートとカーブなどの変化球を巧みに操り、ここまで積み重ねた20ホールドはリーグNo.1だ。ピンチの芽を摘み取り、チームを勝利に近づける。
一方、福留孝介選手は6月16日のファイターズ戦から3番に座るや、28日までの7試合で31打数14安打で打率・452、4本塁打を記録し、5打点挙げた。そしてその間、チームは1分けを挟んで6連勝。ここぞという場面で期待に応える、まさに勝利の立役者だ。
ともに38歳の福原投手と福留選手(学年は福原投手が一つ上)。ベテランと言われる年齢になって今なお“伸び代”を感じさせる働きをしている二人。
どのようなトレーニングをし、何に気をつけ、どんなことを意識しているのか。しかし二人に問うても、「特別なことは何もしてないよ。好調の要因?本当にわからない」と口を揃える。それならば…と回りの様々な人たちに尋ねてみた。
■福原投手についての証言
まず福原投手のピッチングについて語ってくれたのは山口高志投手コーチだ。「まっすぐがいいのもあるけど、年々変化球が良くなってきているなぁ。フォームが安定しているからやろなぁ。そりゃ年齢からくる体力の衰えはあるやろ。でもそれをピッチング技術とか配球で補えている。バッターをよく見ているからな。まぁ、経験や」。そう話した後、「そうや」と山口コーチは付け加えた。「福原がいつも言うてるのが『なんとかなるでしょ。ピッチャーは運だから』。そういう大胆さがあるわな」。
なるほど。繊細にバッターを観察しつつも、攻める時は腹をくくって大胆にということか。だからこそ、ピンチでも動じることがないのだ。
グラウンド外でもよく話をするという同い年の藤井彰人捕手も「野球のことをすごく考えている」と舌を巻くほどだとか。「それと、根本的に体が強い。そうやないと、あんな球投げられへん(笑)」と感心している。
また後輩たちもリスペクトする。今年から1軍の仲間入りをした島本浩也投手は、まずブルペンでの姿、立ち居振る舞いから得られるものが大きいと話す。「ブルペンに電話がかかってきて、一瞬でスイッチが切り替わるのは見ていてすごくわかる。集中しているのが周りにも伝わってくる」。ピーンと張り詰めた空気が漂うそうだ。「でもそんな中で、いつも落ち着いている」という福原投手の姿から、「見ていて感じるものがいっぱいある」と、盗めるものは盗んでやろうと島本投手も貪欲だ。
またゲームの中では「打たれた後、いつも一緒にチャートを見てくれるんです」と、チャートを見ながらアドバイスを受けるそうだ。チャートというのは、バッターに対してどのコースにどの球種を投げたのかを、ひと目でわかるようスコアラーが記録してくれているものだ。
そのチャートを一緒に見ながら、例えば「この球はどういう気持ちで投げたのか?」などと聞かれるそうだ。「打たれた球がどう、とかじゃなくて、その意図を聞かれるんです。それで『こういう気持ちでした』と答えたら、『それならいい』と言われたり、『そういう時はこうしたら』ということを言ってもらえます」。打たれたことを責めるということは決してしない。それよりも、次の好結果に繋げる為にはどうすればいいかをアドバイスしてくれるのだ。
ルーキー・石崎剛投手も、メンタル面の助言をもらったそうだ。「余裕ない時は、おかしくなり始めたら、あれあれ〜って崩れてしまう」とメンタルコントロールを課題としている石崎投手。4月4日のジャイアンツ戦でも流れに飲み込まれてしまった。その時だ。「忍さんに教わったんです。『全体を見ろ』って。『1点だけを見ると入り込んでしまうから、視野を広げて楽な気持ちでいけばいい』と言ってもらいました」。マウンドでピンチになると、その言葉を思い出し、全体を見渡すようにしているそうだ。
日々の練習では黙々と走り、入念にキャッチボールを繰り返す。時には自分の練習時間を割いてまで、後輩たちに気づいたことを助言する。
「若い頃よりは走っていませんよ」とか「自分のノルマで投げているだけ」とか、あくまで「特別なことは何もしていない」と自然体を強調するが、そうやって変わらずコツコツ繰り返しできることが、今の福原投手を形成しているのだろう。
■福留選手についての証言
福留選手については、平田勝男ヘッドコーチが語ってくれた。「去年は体がよくなかったから前半苦しんだよな。でもファームに来た時も、やはり違ったねぇ〜。ファームでも、全体練習後に残って特打するんだよ。ロングティーしたりね。若い頃から振り込んでいるけど、今でも変わらずやっているんだもん。未だに練習では1kgのバット振って備えているんだから。やらなきゃ不安なんだろうし、やるのが当たり前になっている」。昨年はファーム監督だった平田ヘッドは、その練習姿勢を絶賛する。
「鳥谷もそうだけど、彼らがあれだけやっているんだから、そりゃ若い子との差は開くよ。若い子達が福留や鳥谷の姿を見て、どう感じるか。あそこまでもできているか。なかなか追いつき、追い越せないだろうな」。若虎たちには福留選手の練習量、練習姿勢をどんどん吸収してもらいたいと話す。
以前の記事(福留孝介選手の存在は、阪神タイガースにとって大きな財産)でも触れたが、福留選手は後輩たちへのアドバイスは惜しまない。柴田講平選手は「偉大すぎますね、全てにおいて」と感嘆の表情だ。「ポジショニングの指示を出してくれるのはもちろんですけど、守っている時もミスをした後も、ボクが不安がっているのをわかって気遣ってくれるんです。選手ですけど、自分にとってはコーチと同じです。口でも言ってくれるし、背中で見せてくれますね」。
ルーキー・江越大賀選手も「すごく勝負強い方ですよね。ここで打ったら…って時、必ず打っているイメージがあります。守備でも状況判断がいつも冷静なんですよね」と、賛辞のオンパレードだ。そして同じく“福留塾”の塾生だ。「ポジショニングは常に教えてもらっています。1球、1球ですね。風の動きとか、状況に応じての守備位置や動きを教わっていますね」。さらに「ケガしない為にはケアが大事だし、何より体をしっかり作らないと。福留さん、体が大きいですもんね。自分もまずそこからやってかないと」と、「プロで長年なっていく為の体作り」も見て盗んでいくつもりだ。
ルーキー時代から福留選手を鍛えてきた高代延博コーチはこう話す。「体力や勢いだけでいけるのは若い時だけ。孝介はキャリアによって色んなものが蓄積されている、本当の意味でのベテランや。若い時にはできなかったことで、今できることがたくさんある。若い人の手本やな。特に走塁なんて、生きた教材になっている」。若い頃から見てきた高代コーチだからこそ、上積みの大きさがよくわかるようだ。
しっかりとランニングし、外野ノックの後、時には内野ノックも受ける。バッティング練習でも日々、工夫を凝らす。若い頃より体力は下降する筈なのに、衰えを感じさせない。
走行守すべてにおいて、まだまだ若虎たちには「敵わない」ということを見せつけている。
■「福福コンビ」がもたらしてくれる大きな「福」とは・・・?
福原投手の登場曲であるジョニー宜野湾の「一本道」の歌詞にある「前だけを見て後ろは振り向かない」というフレーズ。まさに「福福コンビ」の生きる姿勢そのままだ。きっとこれからもそうだろう。
今なお成長、さらには進化を続ける「福福コンビ」が、秋にはとてつもない大きな「福」をもたらしてくれるに違いない。