「腸活は大切」感染症、教育、農業のプロ、小雪ら有名人も集結。 クラファンで多くの支援を得た発酵の映画
新型コロナウィルスの脅威の中、改めて、免疫力アップ、『食』の大切さが見直されている。自らの大病をきっかけに30年『腸活』を実践するオオタヴィン監督(イーハトーヴスタジオ主宰)が手がける『発酵の楽園』がタイムリーすぎると話題に。映画に込めた監督の想いを聞くインタビュー連載3回。
映画に出演する感染症の専門家も提言した、「腸内環境と免疫力の関係」について語った第1回目記事に続き、クラウドファンディングで多くの支援を集めた今作についてお聞きしたインタビュー第2回目。
食養生を30年続ける監督が届ける『腸活エンターテイメント』
テレビCMの手法を使った、臨場感あふれる撮影手法。広告代理店で培った技術と感性で巧みに表現し、企画、監督、撮影、編集すべてを手がけるオオタヴィン監督が届ける『腸活エンターテイメント』に多くの人が魅了される。
子どもたちの食べる姿を見るだけで、涙があふれて止まらないのはなぜ?
―― この映画は、『腸活エンターテインメントドキュメンタリー』と紹介されていますが、腸活のお話なんだけれども、エンターテインメントドキュメンタリーとは、どういうことですか。
「これは昔、テレビコマーシャルをずっと僕は作っていたものですから、そこにはいろんな技術があって、そういう意味での映像のプロフェッショナルなんです」
―― では、短い時間でインパクトを与えるというか、人の印象に残るものを撮られていた。
「はい。海外のドキュメンタリーって、やっぱりものすごく映像がキレイだったり、エンターテイメントなドキュメンタリー映画がたくさんあります。でも日本ではとても少ないんです」
―― ちょっと説明的な、報道に近い感じですよね。
「記録映像、という印象ですかね。撮影や編集が、映画的じゃない感じが僕にはしていたので。ドキュメンタリー映画がすごく作りたいなあと、ずっと思っていました」
「美味しそう」嗅覚と触覚をも感じる映像美
―― オオタ監督が撮られる映像がとってもキレイなので、すーっと入れるんですよね。子どもたちの笑顔が可愛いとか、野菜が美味しそうに見えるとか。あれが説明的だったら、「学ぶ」ような感じになっちゃいますけれども。
「撮影をする時に、映像って視覚なんですが、嗅覚と触覚をものすごく重要視して撮っているんです。『冒頭から涙が出てきて止まらない』という感想が、ものすごく多いんです」
―― 私もです。
「そうですか」
―― お米が炊けた後の湯気だったり、何ですかね。あの湯気だけで、もう涙が出てきちゃって。そこに漂う匂いがする感じがして、その場にいるような感覚になる。
「それはやっぱり佐藤さんに映像的な感受性がすごくあるんですよ」
―― いやいや、みんなそう感じますよ。なんだか、食べ物、食べるって、ありがたいなあって、気持ちになるんですよね。
「それが、女性が見る見方と男性の見方の違い。男性は、割と『脳で見る』んです。『湯気の映像』『熱いご飯の映像』と言語化する。女性は、感覚的なんです。手触りとか雰囲気自体を感受するんで」
―― 唾液が出る感じです。体が反応してしまう。
「僕自身がこの映画のカメラマンもやっているので、『僕が見た脳内の世界』に女性の方はスッと入ってきてくれるんです」
―― だからエンターテインメントというか、体験型みたいな。
「そう、『体感』なんですよね。カメラマンである僕が、誰より被写体に一番近い。間近で僕が感じた感情が映像の中に入ってる。それを、女性は、自身の『体験』として追体験してくれる」
―― オオタ監督自体が、そういうところがあるんじゃないですか。
「子どもが食べているところは、僕も本当に美しいなと思うし、その景色だけで神々しいなと思って撮っていたんだけれども、やっぱり何人かの方が『神々しい』と、具体的な文字にして感想を書いてくれたんです」
―― 本当にそうです。子どもたちがくしゃくしゃもぐもぐと食べている姿や、食べ終わった後の何も残ってない完食した皿だったり、田んぼに浸かった足の質感で、まるでそこにいるような気になる。
「体感しているような。そういうふうに映像を見られる能力がある人にとっては、ナレーションとか台詞よりも、まず『映像』そのものが重要な体験になるわけです」
―― 多くの人が体験すると思います。そういう感覚、五感に訴えるような作り方をするのがオオタ監督の持ち味なのかなと。
「なので、絶対にカメラは自分で撮らないと駄目なんです」
コマーシャルの手法で、80分の映画で400カットに
―― オオタ監督は、監督だけでなく。
「企画、監督、撮影、編集をすべて自分でしました」
―― すごいですね。
「シンプルに言うと、『撮影/オオタヴィン』でいいぐらい、撮影が重要なんです。以前、スチールカメラマンをしていましたから、1カットごとに、特殊なレンズを使ってアングルの構図や、太陽光線に、すごくこだわって撮影しています」
―― でも、ストーリーもちゃんとしているし。この映画は、上映時間は何分ですか。
「80分です」
―― 編集技術もすごいなあと。
「80分のドキュメンタリーだと、いわゆる『記録映画』はだいたい80カットから160カットぐらいかな」
―― 記録映画だと。
「僕の場合はコマーシャルの手法で、自分で時間をかけて編集をしているんで、300から400カットはあるんです。15秒以上続く映像がないの。でも音楽がゆったりした曲を使うから、慌ただしい印象がないんです」
―― だから、びっくりしました。80分には思えない。2時間ぐらいのイメージがする。
「そうなんです。今のテレビCMって、大体15秒に5~6カットがある。それをみんなは、もう見慣れちゃっています。『シン・ゴジラ』も、やっぱりそれぐらいのカット数なんです。ハリウッド映画もそれぐらいのカット数で、そのスピードに慣れている人が、いわゆる旧来の80分80カットの記録映画を見ちゃうと、どんなに内容が良くても、残念なことにちょっと退屈に感じてしまうかもしれません」
―― 分かります。今回、小さなお子さんも親御さんと一緒に観られている。なのに、みんな全然ぐずらずに、最後まで観ていますよね。
「見ちゃうでしょ?」
―― 3、4歳の子が。
「それは、編集のテクニックなんです」
―― それが、すごいなと思ったんです。大人のように、訳が分かって見るんじゃなくて、映像を観ているだけで楽しいから。
食べたもので、健康にも病気にもなる
―― 今回の映画の中で、「食べたものが私になる」という言葉が出てきますが、これがテーマなんだろうなと私は思ったんですが、どうなんですか。
「『いただきます』シリーズの1作目の『みそをつくるこどもたち』、今回2作目の『ここは、発酵の楽園』も共通のテーマなんですけれども。結局、それは自分の病気の体験になっているんですけれども、食べたもので健康にもなるし、食べたもので病気にもなる。これが今は一番、教育とかマスコミで流れていない重要な情報。病気になると、『医者に行って薬で治す』となっていますが、あれは治すわけじゃなくて、対症療法なんで、根本的な療法じゃないですよね。それはやっぱり食べ物によって、ものすごく変わるんです」
―― 自分を変えるというのは、食べるものでしか変えられないですものね。
「身体が変わると、気持ちも変わりますよね」
見終わった後に、幸せな気持ちになれればいいなあと
―― 食べるものを変えるのは、気軽に、今日からでも始められますよね。
「そうですよね。そういう食育活動家とか食べ物系にうるさい方って、ちょっと怖いイメージがある」
―― 確かに。
「あれを食べちゃ駄目、これを食べちゃ駄目。駄目、駄目というのがあるので」
―― ちょっと狭い感じ。
「いいことを言っているのに言い方が怖いというか、駄目が多いんじゃなくて、ソフトに楽しく伝えられないかなというのが、この映画を作る時に思ったことです」
―― だから見た後に、すごく学んだんだけれども、頭を抱えちゃうということがなかったんですね。それは、オオタ監督自身が穏やかな性格なのかなあと。
「あとは、笑いというのが重要だと思うんです。絶対に映画の中に、意図的に笑ってもらうシーンを作るようにしていて。あとは、ヒーリングというか、癒やされる感じ。その2つがあって、映画館を出る時に、幸せな気持ちになればいいなあと。重要なテーマもあるし、考え直さなきゃいけないこともあるんだけれども、最終的に、見終わった後、すごく気持ちよくて、次の日の生活につなげてもらいたいなというのがあるんです」
―― 本当に何だろう。すごく幸せな感じがする映画ですね。
「特に、この『発酵の楽園』は、みんなクスクス微笑みながら観てる。里山の子どもたちのしぐさが可愛いから。笑えるドキュメンタリーって、いままで見た事ないですよね」
「よくぞ、言ってくれた」子どもたちの自然な言葉が活かされて
―― 子どもたちがみんなで味噌を作っている時に、この中に「神様がいるよね」というようなことをしゃべっているじゃないですか。あれは意図したわけではなくて。
「全く。ドキュメンタリーだから」
―― そうですよね。
「本当に、よくぞ、このタイミングで、こんないいことを言ってくれる。お前、何ていいやつなんだみたいな、面白い男の子が1人いてね。彼に主演男優賞をあげたいな、と。もう本当にありがたいんだけれども。味噌を作り終わったら『命が入っている』と言うでしょ? すごいんですよ」
―― 子ども同士の中でもコミュニティがあって、田んぼに入った時のやりとりも面白い。出演者の方たちのコメントも興味深くて。
「面白いコメントも、なるべくチョイスするようにしました。やっぱり笑いというのは重要。みんなで一緒に映画を見て笑うと、その場の空気が和らぐんですよね」
―― そうですよね。あとは、カメラが至近距離で小さな子どもたちの中に入り込んでいるから、すごく身近な感じがしました。
「誰でも自然に笑ってしまうこともすごく重要にしています。あとは、『じわじわ涙が出てくる』というのは、意図してないんですけれども、感想の中で書かれている方が言うには、『映画を見て泣いちゃって、もう本当によかったよ』という話を友達にすると、『悲しい映画なの?』『いや、一つも悲しいことが起こらないんだけれども、なんか涙が出てきてしょうがないのよ』と」
―― そうなんです。ずっと私も泣いていたんです。
「本当?」
―― 本当に、初めから終わりまで。
「そういう方がいっぱいいる」
―― 何だか分からないんですけれども。
「何だか分からないんだけれども、涙が出てきてしょうがないという」
悲しい映画ではないのに涙が止まらない
―― この映画はこれからどんどん全国で公開されたり、自主上映会も開催できる。1作目は、どれくらい上映されたんですか。
「4年目で、700回」
―― 4万人ぐらいの方が観られたんですよね。
「はい。僕も初めて作ったドキュメンタリーなんで分からないんですけれども、普通は、ドキュメンタリー映画って、劇場公開が終わって自主上映が始まると、大体1~2年で100回か200回ぐらいで、もうブームが終わっちゃうらしいんですけれども、4年目で、毎年、ずっと増えていって。それはやっぱり自主上映の会場に来られた方が感動して」
―― 次に繋げていく。
「ぜひ自分の地域でやりたいというリレーが、ずっといまだに続いていて」
ママ友、保育園、地域で広がり続ける、上映会の波
―― すごいですね。その上映会をやられている方たちは、どういう方たちですか。
「本当にいろんな方がいて」
―― 例えば。
「地元の子ども食堂をやっているお母さんだとか、自分たちの住む町を町ぐるみで子どもを育てたいんだというお母さんたちとか、アトピー、アレルギーで悩まれているお母さんたちとか、保育園でもものすごく今、アトピー、アレルギーが問題になっているんで、給食の先生とか職員さんたちの研修のためとか。面白いのは、港区でやった時は老人介護の施設で。単純に、子どもたちの映像を見るだけで癒やしになると」
―― 子どもたちの可愛い笑顔に癒やされますもんね。
「映像に出てくる食事って、子どもたちにとってもいいし、かつ、老人にとってもいい。発酵を基にした伝統的な日本食、和食ですからね。食養生という観点でもね」
アメリカの最新の予防食は、日本の『和食』そのものだった
―― 今回は、それが説明なしでダイレクトに入ってきますね。
「アメリカでは、ガンが減っていまして、史上最大規模の食と病気の関連調査(『マグガヴァンレポート』)をやったときに、やっぱり生活習慣病は食べ物でしか改善されないという結論になっているんです。肉や乳製品をなるべく減らして植物性のものが多いほうがいいと、アメリカ政府が発表している」
―― 調査でも証明されている。
「はい。その後、『栄養学のアインシュタイン』と言われているコリン・キャンベル博士が、ネズミの実験と中国全土の調査をした結果が、やっぱり同じ結果になっています。だから、なるべく食事は植物性を多く、『プラントベース ホールフード』で、植物性を中心にして、一物全体を食べるといいよと。これが、博士がたどり着いた最新の予防食だと」
―― それが、つまりは、日本の伝統食、「和食」そのものだったんですね。
「ええ。モデルの森星ちゃんと話した時も、海外に行っていろんなモデルさんの健康法を知ると、一流のモデルたちはビューティを保つために食事を、『オーガニック・プラントベース・ホールフード』にしているんです。ハリウッドのジョニー・デップも、ディカプリオも、トム・クルーズも、アン・ハサウェイも、マドンナもそうですね。」
―― 有名人の方がね。
「それをどんどん公表しているから。日本では食品スポンサーに考慮して、芸能人があまり食事法を話さない。ハリウッドでは、バンバンそれを言っているから、若者が影響されて、そういう食事をする。ビューティーになれるし、アクティブになれるんだと知っているから、それがオーガニックマーケットを底上げしているんですね」
―― そういう意味では、日本はまだオーガニック的なものが後進国と言われているじゃないですか。その辺も意識を高める映画ですよね。
「サッカーの長友佑都選手が『食事革命』という本を書かれたんですけれども、長友さんがイタリアに行って、体調が悪くなった時に、日本人の専属シェフを雇って、イタリアに日本の食材を運んで和食を始めたら体調が回復したという本なんです。だからトップアスリートにとってもいい食事なんです」
エンドロールだけで泣けるという声が
―― 今回の映画なんですけれども、いろんなゲストの方が出られているし、まずこの映画がクラウドファンディングを活用されているということがあって。なかなかうまく成立しない場合もあるけれども、達成されたんですよね。実際、お幾らになったんですか。
「制作費のクラウドファンディングと、配給のクラウドファンディングと2回して、1回目は350万円ぐらい、2回目が200万円ぐらいですね」
―― それは、もともとの希望額の。
「両方とも1.5倍」
―― どれくらいの期間でやられたんですか。
「1回目は3カ月ぐらい。2回目は1カ月ぐらいかな」
―― どういう方たちの支援だったんですか。
「結果的に一番多いのは自主上映を主催する権利が1回5万円なんですね。5万円出せばどなたでもDVDを借りて、自分で場所を決めて、映画上映会ができる。『発酵の楽園』は、まだできていない映画だけれども先行で上映権を買ってくださいと。映画ができると、自分の名前がエンドロールに載った状態のものが自主上映できますよと。支援者の8割ぐらいの方は上映権付きクラウドなんですね」
―― そのエンドロールにね。大勢の個人名があって。あと企業も協賛してもらって。
「あのエンドロールだけで泣いたという人がいました」
―― わかります。これだけの人が支援したんだなと思うと、胸が熱くなる。人数にしたらどれくらいになるんですかね。
「エンドロールだけで120名」
オオタ監督がクラファンで多くの人に支援される理由
―― その方々がこの映画に賛同、応援したいという気持ちで。
「要するに仲間ですよね。やっぱり同じ志を持った仲間で、地域とか子どもたちを健やかにしたいという思いが映画でつながっていくという」
―― ですが、なかなか思いはあるけれども、クラウドファンディングが成立しない、人の協力を得られないことが多い中で、オオタ監督はすごく長けているなと思うんですけれども、何か心がけられていることはありますか。
「そう? それが全然分かんない」
――オオタ監督は、ぐいぐい来る感じじゃないじゃないですか。
「ないですね」
―― なので、例えば、何かをやりたいと思われている方にアドバイスするとしたら。
「僕は散々、広告代理店で仕事をしてきました。自分もどんどん健康志向になってきたんだけれども、自分が使わない商品とか、食べないものを売らざるを得ないわけですよね。何千万円も使ってタレントさんを使って、最新の映像技術を使って、でも自分が食べないものを売らざるを得ないということをずっとやっていた。今の農家の方も自分の家族のためには農薬はかけないけれども、外に出す商品は農薬をかけて売らざるを得ない。たぶんすごく後ろめたいと思うんです。それは、自分のその時の心情とものすごく近くて」
―― なるほど。そうだったんですね。
「慣行農法を非難するんじゃなくて、農薬も除草剤もいらない世界があるよ、こっちに来ませんか〜という、『北風』じゃなくて『太陽』作戦なんですね」
正しいかもしれないけど、できない環境も知っている。その罪滅ぼしとして
―― 正義を振りかざすのではなくてね。
「だからよく言うのは、『罪滅ぼし』というか。やっぱり30代、40代はそんなに自分が本来やるべきことができなかったし、ちょっと悪い世の中を作ってしまったということがあって。人生の残り時間が少なくなってきたので、子どもたちに本当に自分が伝えたいことを映像で残したいなと。死ぬ前の罪滅ぼしとしてやっているんですよ。だから、正論がぐいぐい来ないんじゃないのかな」
―― ある種の謙虚さというか。
「いえ、謙虚というか、フリーになって映画が作れるからって、急に、昔から清く正しく生きてきたみたいな顔で物を言わないでよ、というのが自分の中にもすごくあるんですよね」
―― でも、やっぱりキャリアがおありだから伝えるということに関してはプロ中のプロ。
「技術は持っているんです。広告のスキルって高度だから」
―― そうですよね。短い時間に訴えて印象付けるスキル。それをやっぱり世の中のために。
「いやいや、世の中のためというのではなくて。自分が一番伝えたい情報だから」
―― でも、支援の方が実際に集まって。びっくりしたのが、制作費がクラウドファンディングで200万円到達したけれども、それを、自分の制作費じゃなくて、CGアニメーション代にするという。それは、自分ができないこと、専門家に頼むというお金なんですか。
「そう。だから結局、普通で言うと、監督がいて、カメラマンを雇って、音声さんを雇って、編集も雇うわけですよ。そうすると、4人分の人件費がかかるわけですよね」
―― そうですよね。
「でも僕の場合、そこは1人で全部やるから、クラウドファンディングする必要がなくて、監督費用、撮影・編集費用は、『いただきます』1作目の上映費で賄っているわけですよ。だから、クラウドファンディング分は全額自分ができないアニメーションだったり、ナレーションだったり、音楽制作に使っているわけですよね。クラウドで集めたお金は使い道をすべて公開することが必要だと思うんです」
―― それもちゃんとクラウドファンディングで報告されていて、そして、本当に素晴らしいアニメーションでした。ドキュメンタリーって、普通、映像だけなのを、腸内細菌の名前を『菌ちゃん』として、その菌ちゃんが体の周りを光って守ってくれているという。あのイメージだとわかりやすいですよね。
「アニメーションの作家さんには『もっとアートっぽく』と何度もお願いしました」
「私は子どもに手抜きをしていた」母親の自責の声を聞いて
―― 周辺取材で、「いただきます応援団」の方にも取材させてもらうと、出来上がった試作品の上映会をして、「何か気がついたことがあったら言ってほしい」と言われたそうですね。
「はい。1作目の『いただきます』の時もしました。何人かの人に試写を見てもらったうちの1人がマスコミ業界のお母さんで、ものすごく忙しくて見終わった時の第一声が『とにかく途中からつらくて見ていられませんでした』と」
―― それはどういうことで。
「『私はあまりにも子どもに手抜きをしていて。やっぱり保育園のあの素晴らしい食事を見ていると、子どもにやってあげられていないという自分を責めて責めて、もう途中で本当につらくてしょうがないんですよ』という話を受けて。ああ、それは確かにそういうふうに思われるかもしれないし、それは最も意図しないことだから。なので、1作目は、保育園のこだわりの部分の描写を半分ぐらい削って、代わりに、和食という、味噌を入れてかつお節を入れて、お湯をかけるだけという簡単な作り方を、その人の意見であえて作ったんです。とにかくお母さんを応援したい、元気にしたい映画だったので」
―― なるほど。見た方のお話を聞いて、作り変えて。
「はい」
―― 今回の、2作目も変えられた部分はあるんですか。
「その時の経験もあったので、今回はそういう意味では気をつけて作っているので」
―― 前作が初めての作品なんですね。
「そうです。コマーシャルって15秒で超短距離ランナーなんです。映画は超マラソンランナー。だから同じ映像でも一番対照的なんですけれども、独学でものすごい量の映画を見ているんですよね」
―― 何本ぐらい?
「見てる映画の本数も多いですけれども、日本で出版されている映画関係の本はほぼ読んでいるぐらい映画理論には詳しいつもりです」
―― 広告代理店にはどれくらい勤務されていたんですか。
「17年でしたね」
―― その時から映画はやりたいということで。
「いや、思っていなかったですね」
―― 準備をされていたわけではなくて。
「はい。会社を辞めた時はまさか映画が作れるとは全く思っていなくて」
―― 今回、ナレーションが小雪さん。
「小雪さんは、『いただきます』1作目を見ていただいたら、『映像美も素敵だったし、内容も私が育児をしながら伝えたいと思っていたこと。こういう仕事ができるといいな、と思わせる映画でした』と言っていただいて、すぐに2作目のナレーションをやっていただけることになったんですね」
―― 小雪さんはご自身もご家族もオーガニック食にされて、気を遣われていますよね。「毎年、ご自身で味噌もつくるし、食養生の知識も豊富。3人のお子さんの育児に、日々実践されている点が素晴らしいです」
―― だからか、分かって実践されている方がナレーションしているから言わされている感が全然ない。それに、安藤桃子さんだったり、坂本美雨さんだったり、有名人の方だけでなく、協力者の人脈もすごいなと。今回は、保育園の園長先生だけでなく、オーガニックの農家の方が出られていますよね。あれはご自分でお声がけをして。
「全てね。だから特に農家の方は3人に絞るのが大変で」
―― そうですよね。
「相当の数を取材したんですね。たくさん本を読んでチョイスをして、でも実際会わないと分からないので10人ぐらいの方に会って3人に絞るのが大変だったんですね。魅力的な人がすごく多いから」
―― 本というのはご自身が腸活をしている時にいろいろ資料を読まれたものも含めてですか。
「そうですね。はい」
―― 農家の皆さん、それぞれ魅力的だった中で、この方にというのは何が決め手だったんですか。
「最終的には『発酵』というキーワードにしたんで、農業をしている土地が発酵しているということが明快に言える方に限ったんです。皆さん全員、口々に自分の畑や田んぼは発酵しているということを言うわけですよね」
―― すごく説得力がありますし、絵面的にもインパクトが大きかったですよね。
「吉田さんは、『オーガニックは重労働』という常識を破っている新時代のファーマーです。これから有機農業をしたい若者は、吉田さんの『菌ちゃんふぁーむ』に行くといいんじゃないかな。きっと、喜んでいろいろ教えてもらえますよ」
「どんな農業も優劣つけない」『奇跡のリンゴ』の木村親子の言葉がしみる
―― 私が結構印象に残っているのは、『奇跡のリンゴ』の木村秋則さんの話で大泣きしちゃったんですけれども。娘さんの言葉も素晴らしい。「有機農家だけがいいわけじゃないよ」というシーン。「どの農家さんも等しい苦労と想いがある。営みを大切に、単純な優劣をつけない」という言葉に感動してしまって。
「あれは本当にあえて入れた重要なシーンで。やっぱりオーガニックというと、『VS農薬』みたいな構図にどうしてもなりがちなんですけれども。対立構造を作ってもしょうがないんですよね」
―― しかたなく農薬を使わざるを得ない場合もあるかも。そういう農家の人すべてを否定しちゃうことになるから。
「そうそう。エンドロールに『土を耕す全ての人に感謝を込めて』と入れています。できれば、オーガニックが当然いいけれども、日本ではなかなか手に入らないし。一般のスーパーに並んでいる野菜を僕も買っているし、それを使って生活しているわけだから。やっぱり今、この国で農業をやっていただけるだけですごくありがたい」
―― そうですよね。それで木村さんの娘の江利さんが「優劣をつけない。みんな、営みの中でやっている」と言われたのが素敵だなあと。それで私は、監督は偏った見方をしていない人だなあと思った。絶対、オーガニックじゃないと駄目と言われたら、それこそ、それ以外は食べちゃいけないぐらいになっちゃうからそれは否定しない。でも、世の中の流れがオーガニックになったらいいなということですよね。
「はい、こどもたちこそ、もっと良い食を、ね」
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