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自分で自分の生きる場所を選べる 「ワーケーション」が提示する人生の多様な選択肢とは

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
定額制多拠点居住サービス『HafH』共同代表、大瀬良亮さん(写真提供/大瀬良亮)

 テレワークが推進される中、新しい働き方、暮らし方を選び得る時代になった。

 2019年4月から、定額制多拠点居住サービスを開始した『HafH(ハフ)』共同代表、大瀬良亮さん。地元長崎をうまく宣伝したい、を志望動機に電通入社。地方活性化の活動などに関わった後、内閣官房・内閣広報室での仕事を開始。のべ70カ国、地球15周分、移動する働き方を経験した。起業後も、自らワーケーションを続けながら、利用者、提供側の宿泊施設とコミュニケーションを取る。

 今、どんな働き方をし、どんな宿が求められているのか。彼がテーマに掲げる「世界が広がる、働き方を。」とはどういうものなのか。

 誰もが模索するこの先の生き方において、多様な選択肢について、話を聞いてみた。

新しい働き方、暮らし方について、のオピニオンリーダーでもある大瀬良さん。若い世代にも憧れられる存在。(写真提供/大瀬良亮)
新しい働き方、暮らし方について、のオピニオンリーダーでもある大瀬良さん。若い世代にも憧れられる存在。(写真提供/大瀬良亮)

向かい風が、急に追い風になることもある

―― 起業して2年。コロナ前とコロナ後と、大激動だったんじゃないですか。

大瀬良 まだ予断を許さないですが、一つの大きな未来、新しい暮らし方に向けて船出したら、嵐にいきなり遭ったような。嵐というのは風向きでその都度変わって、向かい風で倒れそうなときもあれば、急に追い風になることもあって。

―― 向かい風というのは、コロナ禍で宿泊業が大打撃になる中で、今度はテレワークが推進されて、会社に来なくていいよという話になった。その前から、『どこでも働ける』世界が広がる働き方を提案するサービスをされていたわけじゃないですか。だから、これは本当に追い風じゃないですか。

大瀬良 そうですね。自分たちが目指している世界観に、世の中が加速化して走り始めたという所感ではあるんですけれども。一方で、一気に動き始めたので、僕たちだけの特異なサービスではなくて、近しいものも増えてきてはいるので、追い風からまた向かい風になり得ることでもあると思うんです。

―― 競合が多くなっているということですよね。それくらい時代的にニーズがあると。

大瀬良 そうです。このコロナ禍において、あらためて注目をいただいたなと思います。

2020年、東洋経済の「すごいベンチャー100」にも選ばれて

―― 現在、拠点数はどれくらいになっているんですか。

大瀬良 今は735拠点の登録をいただいていて、世界の36の国と地域、都市数は509都市です。月の予約数は3,000泊くらいですね。

―― 2020年の東洋経済の『すごいベンチャー100』にも選ばれて、すごい勢いがありますが、この加速度は予定どおりですか。

大瀬良 予定と違う方向に少し進み始めているなという感覚はありつつも。僕たちはテレワークやワーケーションそのものを広めたいわけではないんです。その先にある、一人一人がどこで誰とどういうふうに暮らしたいかということをテーマにしたいんです。

―― ワーケーションを推進したいわけではないんですね。人それぞれの生き方や暮らし方がある。一つの選択肢を勧めているわけじゃないと。

大瀬良 今まではこれが正解だからこう生きなさいと、出る杭をいかに平らにしていくかみたいな社会的な同調圧力が強いこの日本という国で、これからは、こういう生き方もある、というのを受け入れていく国にしていくのがとても大事。世界中の人と多様な生き方、働き方を、みんなで認め合う社会基盤が必要だよねということを広げるのが僕らのミッションで、20年後、50年後、自分たちが目指す世界がある覚悟でこのサービスを始めているんです。

自らもワーケーションしながら、その体験を活かしている(写真提供/大瀬良亮)
自らもワーケーションしながら、その体験を活かしている(写真提供/大瀬良亮)

小さい頃から二拠点生活をしていた

―― そういう考えになった根底には、どういうことが影響していると思いますか。

大瀬良 僕は長崎市の出島に生まれ育って、父親が五島列島の出身で、2歳から12歳は、ずっと夏は2カ月間、おばあちゃんと一緒に一人で過ごす日々で、二拠点居住していました。出島は長崎の中心地、五島列島では限界集落に住んでいたんです。

―― それぞれ地域が違う場所で暮らしたその経験が今、活かされているわけですね。

大瀬良 はい。電通時代は、港区に住み、港区で遊び、港区で働くみたいな、ほぼ港区から出ない日々で、それはそれで楽しかったんですけれども、やっぱり子どもの頃の思いというのは忘れられなくて。

―― 長崎といえば、新しいものを受け入れる土壌というか、早くから外国の方を受け入れた、そういう遺伝子が何かあるんですか。

大瀬良 めちゃくちゃあると思います。幼なじみがハーフで、外国が近しい感覚だったし、その幼なじみのお母さんが英語ペラペラで話しているのが格好良くて、いつかは自分も英語で外国人と話したいというのは、小さい頃からのミッションでした。長崎は自分たちで何かを起こすんじゃなくて、江戸から、海外から、いろんな風を受け取って、ちゃんぽんにして遊べる。それが長崎人だなと気付いて。なので、僕ができることは、東京から長崎に風を送ることだと思ったわけです。

明るくフレンドリーな大瀬良さんは、誰とでもすぐに打ち解ける(撮影/佐藤智子)
明るくフレンドリーな大瀬良さんは、誰とでもすぐに打ち解ける(撮影/佐藤智子)

―― 小さい時から国際化というのが当たり前だったし、長崎の中心地から、五島列島に行けば、自然がいっぱいで馴染んでいたわけですね。

大瀬良 馴染んではいなかったですね。五島に行くと、都会の子が来たみたいな扱いになるんです。一緒に遊ぶんだけれども、彼らのサバイバルなスキルには付いていけなくて。早く追い付きたいと思っていました。

―― 電通でお仕事をされている時は、完全なる都会人みたいな感じだったんですよね。

大瀬良 どうなんでしょう。僕はどこに行っても、その地に生まれた人には追い付けないコンプレックスを常に感じるんだけれども、それが前に進む成長の糧になって、まさに多様な生き方を知るためにないものねだりをあちこちで今もやっていて。

―― すぐに馴染みやすいのかと思いました。

大瀬良 もちろん馴染むんです。でも、言葉一つでも、それこそ2週間いたところで、東京の人が九州の方言をすぐ話すことはできないじゃないですか。そういうことがあるので、最終的には一緒にはなれないんです。

「世界中を移動して働く」生活を続けた末に

―― このサービスをやるきっかけとなったのは、電通でのお仕事なんですよね。

大瀬良 そうですね。あるとき、高知県の仕事に関わらせていただいて。高知は、他人との距離がすごく近いので、「高知県は、ひとつの大家族やき。」というキャッチコピーで、高知家というのをやったんですけれども。要は家族の在り方、地縁とか血縁ではなくて、いきなり東京や海外から来ても、「おかえり」と言ってくれるみたいな。心でつながり合う家族関係、第二のふるさとをつくろうというコンセプトが、今のHafH(home away from home第二のふるさとという意味)に受け継がれています。

―― すべてつながっているんですね。

大瀬良 はい。その後、県のことをやっていたら、お前は国のことをやれそうだから、応募してみたら? と紹介されたのが、内閣官房・内閣広報室での仕事だったんです。

世界中を飛び回っていた頃。のべ70カ国を回って、充実した日々(写真提供/大瀬良亮)
世界中を飛び回っていた頃。のべ70カ国を回って、充実した日々(写真提供/大瀬良亮)

―― その仕事を通して、いろんな国に行かれていたんですよね。

大瀬良 のべ70カ国、地球15周分は、移動していたようです。

―― すごいですね。移動、移動の生活で、何か気付いたことがあったんですか。

大瀬良 強制的にリモートワークをせざるを得ない環境に陥ったんですけれど、非常に過密スケジュールだったので、食事もろくに取れない日もあって、そういう時はカバンに栄養補助食品と水をいっぱい忍び込ませておいて。時差ボケなどもあるんですが、目が覚めると今自分がどこの国の景色を見ているのか把握するのに時間がかかる日もありました。

リモートワークスキルを上げたら

―― オフィスで仕事するのではなくて、常に移動しながら、いろんな国に行って、しかも環境がそれぞれ違う。

大瀬良 そうです。すごくきついし、帰りの飛行機で気を失うように寝るんですけれども。それでもやっぱり行った街々で、せっかくだから何か学びたいという、前向きな思いが出てきて。ケニアだろうが、ブラジルだろうが、イギリスだろうが、どこの景色であってもやる仕事は一緒というところまで、自分のリモートワークスキルを上げました。

―― それはどういうふうにしたんですか。

大瀬良 パソコンと携帯とインターネットさえあれば、自分でどこでも仕事できるように。行った先で景色の動画は仕事でも必要なので撮るんですけれども、例えば、6時起きの予定なら、早めに4時に起きて、少しでも近くを散歩してみるとか、自分の時間を作ることがモチベーションになっていたんです。

―― それは港区に住んでいる頃からですか。

大瀬良 いいえ。その頃は10時の出社に合わせて、9時55分に汐留に到着する電車に乗るべく、ギリギリ何時まで寝られるかと逆算する日々を送っていて、ほとんどが会社でしたけど、仕事上に刺激があったので、その生き方に対して全然不満はなかったんです。

―― 仕事がすべてという生活ですね。

大瀬良 毎日が文化祭の前日みたいな感じで、すごく楽しかったので、自分のライフスタイルとして、少し早く起きて何かをやろうみたいな気にはならなかったんです。

―― 港区で完結していた生活から、例えば、せっかくロンドンにいるんだから街を少しでも見てみたい、そこの空気を吸いたいというようなことだったんですね。

大瀬良 そうです。街の人たちと話してみたいとか。そこから、どこでも働ける時代に、僕自身、世界を移動して働き続けたいと思ったし、新たな生き方として、誰でも選べる時代が来るのではないかと。

忙しかったけれど、「有意義な時間だった」と電通時代を振り返る(写真提供/大瀬良亮)
忙しかったけれど、「有意義な時間だった」と電通時代を振り返る(写真提供/大瀬良亮)

家を持たない、アドレスホッパーな暮らしもアリ

―― それで、『HafH』というサービスを思い付くんですね。今はどんな人たちがユーザーとして多いですか。

大瀬良 事業を立ち上げた当時、アドレスホッパーという言葉がすごく話題になっていて、HafHは、もう家は要らないんじゃない、みたいな人たちに向けてのサービスと理解されていて、会社員よりフリーランスの人たちが多かったんです。現在は、リモートワークとワーケーションの普及によって、会員の半分以上が会社員というところにまでなりました。

―― 利用者の年代としては?

大瀬良 30代以下の方が74%です。

―― 家を持たない、アドレスホッパーの方もおられますか。

大瀬良 おられます。荷物を最小限にして、実家や貸倉庫に保管しながら、あちこちに移動されていますが、ほとんどの皆さんが家をお持ちです。東京にお住まいがあって、近くの箱根、熱海、鎌倉の宿泊施設を使っていらっしゃる人たちなど。

―― 例えば、どういうふうに利用されているのでしょうか。

大瀬良 短期、中期、長期とそれぞれあって、本当にバラバラなんで、こういうやり方が一番多いみたいなことは言いづらいんです。ただ、実際には、近場でリフレッシュ派というか、東京の自宅近くに気分転換でテレワーク、ホテルステイケーションされていますね。

環境を変えれば、仕事がはかどる?

―― ずっと家で仕事していると息が詰まるので、環境を変えるということですか。

大瀬良 そうです。月に2~3日ですかね。平日利用が65%です。

―― そういう人たちは、リフレッシュをすることで仕事ははかどっているんですか。

大瀬良 そういうふうに言ってくださっています。あとは、コロナで、多拠点居住に関心を持たれた方がお試し移住という形で、移住先や移住の準備を始められたり。

―― 会社に行かなくてもいいとなった時に、東京にいる必要はないと、地方に行ってみたら、なんて自然が素敵なんだと、ここに移住しようと決める方もいるわけですね。

大瀬良 そうです。その場所が気に入って、住民票を移している人もいます。

―― お気に入りの宿泊施設があって、二拠点生活をしている人もいるんですか。

大瀬良 はい、おられますね。例えば、東京と倉敷に拠点を持っているという人もいます。

移動が多い生活で、マストな持ち物は、「梅干し、ふりかけ、海パン、ゴーグル、洗剤、腹筋ローラー、アロマオイル」という(撮影/佐藤智子)
移動が多い生活で、マストな持ち物は、「梅干し、ふりかけ、海パン、ゴーグル、洗剤、腹筋ローラー、アロマオイル」という(撮影/佐藤智子)

普段出会いようもない人と出会える

―― ワーケーションに向いている人というのはどんな人ですか。

大瀬良 旅が好きな人、いろんな景色を見たり、いろんな人と話して、自分にとっての学びや何か得るものを探している人とか。前向きな思いがある人は、その思いが相手にも通じるんで、行った先でもきっと楽しめるんじゃないですかね。

―― 自然も見たいし、体験したいし、出会いが欲しいというわけですね。

大瀬良 そうです。新しい出会いを探す派の方もいます。やっぱり普段出会うことのない人たちから刺激を受けたいと。

―― 出会いようもない業種や職業の人とも話ができるということですね。

大瀬良 それもその人次第だと思っています。

直接出向いて、会って、話を聞いて、思いを感じたい

―― ちなみに大瀬良さんは、今はどこにおられるんですか。

大瀬良 僕は今、石川県小松市のTAKIGAHARA CRAFT&STAY という所にいます。その前は、網走から10日間、道東を回って、今は、石川と岐阜を行き来しています。

―― 代表自らがワーケーションしているわけですね。それは、自らが率先してやる意義があるということなんですか。

大瀬良 東京の人の多さを見て、今はいる気になれないというのもありますが、少なくとも僕に来てくださいと言ってくださる地域に対して、実際にお邪魔をして、僕自身が今、感じるべきことを感じたい。抗体検査を受けるなど事前にしっかり対策を講じた上で、インプットをいろいろとしたいなと思っているので。

その地に行ってみないとわからないこともある。「自ら体験し、インプットしたい」と(写真提供/大瀬良亮)
その地に行ってみないとわからないこともある。「自ら体験し、インプットしたい」と(写真提供/大瀬良亮)

―― 自分から出向いて体験していくと。

大瀬良 いろんな拠点の方とお会いして、どういった思いを持たれているのかを感じたい。

―― 宿泊施設の方に直接会ってということですね。宿泊業の方たちは今、全体的な印象としてどうですか。

大瀬良 これも悲喜こもごもで。この時期、むしろチャンスに捉えて、前に進んでいる人たちもいれば、閉業、休業となっていく所も少なからずあります。

―― そういう宿や地域を活性化させたいという思いもあるんですよね。

大瀬良 そこまで背負えないというのは正直あって。僕が何かをするのではなくて、できることは、情報をシェアしたり、人をつなげたりということだけだなと思っていて。

―― きっかけを作る、パイプを作るということですか。

大瀬良 そうです。この2人が話したら面白いことになるんじゃないかとか。海外ではこういう事例があってと話すだけで、だったらそれをやってみようということもあるので。

利用者、宿側のそれぞれのニーズとは

―― 利用者のニーズを踏まえて、大瀬良さんとしては、どんな宿と提携を結びたいですか。

大瀬良 働く環境として、Wi-Fiや電源、オンライン会議ができる環境がある。女性にとっても清潔で安心で安全な場所。周囲に大自然がある、都会的な便利さがあるとか。ですが、一番大切なのは、今風に言うと、バイブスが合うオーナーさんのところですね。想像する未来が同じかどうかは、直接お話をして、素敵だなと共有できるとご一緒したいと強く思います。

―― 逆に宿側のニーズはありますか。こんな人に利用されたいとか。誰でもOKなのか。

大瀬良 当初、どんな客が来るのか不安に思う施設の声もあったんですよ。でも、皆さんマナーも良くて、常識もあって、すごく明るくて、コミュニケーション上手で、今はすごく受け入れていただいているんです。平日の稼働を上げる、連泊だとリネン交換もしなくていいことも多いので、手離れのいいお客さんというか。

居心地のいい環境を自ら選ぶ働き方もできる。HafH Nagasaki Garden(長崎)にて(写真提供/KabuK Style)
居心地のいい環境を自ら選ぶ働き方もできる。HafH Nagasaki Garden(長崎)にて(写真提供/KabuK Style)

―― いつお客が来るか分からない不安がある中、連泊しますと言ってくれたらありがたいですよね。どういう宿が人気ありますか。

大瀬良 まずは都会の便利な宿ですね。気分転換ができる所。スタッフさんがすごくコミュニケーション力が高い所。「おかりなさい」「またいらっしゃってください」みたいに感じのいい挨拶や言葉がけをしてくれる所。あとは温泉があるとか、海が近いとか、自然のある所です。

―― 施設の環境だけでなく、スタッフの言葉や心遣いで居心地のよさは変わりますよね。

大瀬良 本当にそうです。

―― オフィスに通わなくなったことで、自由度は増したけれど、孤立化する人もいますよね。この1週間誰ともしゃべっていないみたいな。そんなとき、「おかえりなさい」と言ってくれる場所があると、うれしいし、安心できますよね。

大瀬良 海外のデジタルノマド(旅をしながら暮らす人たちの総称:Digital Nomads )の世界では、社会的孤独が一番大きな問題にはなっているので、人と関われるという意味で役に立てるといいなと思います。

―― HafH社員の方たちも、ワーケーションされているんですか。

大瀬良 全員ではないです。ご家庭をお持ちの方、お子さんを学校に通わせている方、それこそ共同代表はずっと東京に住んでいて、時々出張するくらいです。一方で、いろんな拠点の方とお話をするスタッフたちはアドレスホッパーで、活動しています。

多様な価値観を、多様なまま許容する社会になれば

―― 大瀬良さんは、働き方ということで、将来こうなればいいなというのはありますか。

大瀬良 多様な価値観を多様なまま許容する社会。国籍、民族、性別、教育環境、障害、LGBT、すべての多様性を受け入れられるサービスプラットフォームを作るというのが目標です。今は宿泊の提供だけですが、今後は、鉄道、航空会社を含めて、移動までを含めたサービスをしていきたいし、仕事の紹介やその先にある定住だったりも提案したいです。

―― 多様な価値観を認める。今は時代が激動過ぎるから、さらに必要ですよね。

大瀬良 そうですね。例えば、テレワーク続きで気持ちがふさいで、環境を変えようと海の近くに移って、朝は6時半に起きてサーフィンして、9時から仕事して、夕方は釣りして。横の釣り人にも魚のお裾分けをもらって、家族みんなでご飯を食べるみたいな人がいたり。

―― そういう方たちは、何が良かったと言われますか。

大瀬良 一番は、自分で自分の生きる場所を選べたということ。今までは、東京に仕事があるから、東京に住んでいる。その中でしか選べなかったけれども、全く環境を変えることも含めて、選択肢が広がったこと。あえて今までに行ったことがない所を選んで行くこともできる。ただ、自分で選んだからには自分の人生を背負うじゃないですか。

―― 自分の人生に責任を持つようになる。

大瀬良 どう幸せな自分らしい生き方を見つけていくか。能動的に自分の人生をデザインするようになっていくのが魅力だと思うんです。

―― 旅をする人もいていいし、二拠点生活をする人もいていい。一つの宿に対して、いろんな価値観の人が来て、仕事をする人もいれば、家のように住む人もいる。利用者としても、多様性を受け入れていく必要がありますね。同じ空間にいると影響し合いますから。

大瀬良 海外のコミュニティーで多拠点生活している人の様子を見ると、自分に合う、合わないは自然に気付くんで、仮に合わないと多分もうそこには行かないんです。全部が快適であることはなくて、僕自身もいろいろと行ってみて、また来たいと思う所と来ない所はやっぱりあります。その街自体が何か悪いわけではなくて。ただ相性の問題なんです。

―― 自分の肌感覚で。

大瀬良 はい。それは人生のスパイスだと思っていただいて。たまには刺激的な、自分と全く違う価値観の人と話すことも成長の大事なプロセスだと思うので。でも、無理して無理な人たちと話をするのは定着しない。コミュニティーというのは、水と一緒でそうやって自浄作用がある、ろ過していくと思います。

1万円のランチの価値を知るのは

―― 今まで、会社というのは、社風があるように、似たような意識の持ち方、仕事の仕方というのがあったじゃないですか。それが、オフィスではなくて、宿だと、すごく集中して仕事をしたい人もいれば、ゆっくりとあまり仕事はしたくない人、全く仕事を持ち込みたくない人もいる。いろんな人がいることで、価値観の交流ができるということですね。

大瀬良 まさに。いろんな価値観を知ると、自分の振れ幅はかなり大きくなると思います。

自分と違う価値観の人たちとの出会いは人生に彩りを与えることに。HafH Goto The Pier(長崎)にて(写真提供/KabuK Style)
自分と違う価値観の人たちとの出会いは人生に彩りを与えることに。HafH Goto The Pier(長崎)にて(写真提供/KabuK Style)

―― 今までは同じ業種で同じようなことを考えていた人が、ワーケーションすることによって、違う業種の人たちと出会って、そういう考えもあるんだ、という新しい発想が生まれますよね。

大瀬良 地域側も、地域の中だけで考えただけじゃ思いつかないこともある。例えば、1万円のランチなんてあり得ないと思うけれども、東京だったら1万円のランチでも払う人がいっぱいいる。それは、そういう人たちに会わないとわからないし、どういう思いで払っているのかと知ったときにその価値の作り方を初めて前向きに思考し始めると思うんです。

―― 地域によっては、素晴らしい自然があるのに、「ここにはなんにもないよ」と嘆いてしまう所がありますよね。その手つかずの自然がいいという人たちがたくさんいるのに。

大瀬良 そうです、まさに分かりやすいです。

―― いろんな人と会ってみないと、その価値が分からないですよね。業種や地域だけでなく、年代も。利用者の方が20、30代が多いと言われましたが、ファミリー層、シルバー層、小さな子どもと話したり、幅広い世代と交流できたら、また価値観が広がりますね。

大瀬良 今の日本は、全員に平等的なルールが敷かれ過ぎて、本当はこうやりたいんだけれどもなかなかできないというのが、あらゆるフィールドで起きているのがすごく悔しいんです。自分らしい生き方、一人一人がワクワクし始めることが大事で。地域が元気になるには、地域の一人一人が楽しんでいることが一番。ワクワクする生き方をしていると、面白そうだから行ってみたいと思うんです。東京の人もいろんな生き方を知ってほしいし、地域の人たちも自分の生き方を自分で探す、探していいんだと気付いてほしいという。

「僕は、その土地にいい風を届ける人でいたい」

―― 大瀬良さんはご自身をどういう役割だと思われていますか。

大瀬良 僕自身は風土コーディネーターで、僕は風の人と自分を置いているんですけれども。ある農学者の方が、世の中には土の人と風の人の二つがいて、土の人は、その地に根ざして、種を芽吹かせて、花を咲かせる人で、風の人は、その土に対していい風を届けていく人で、いい土といい風が混ざって、いい風土ができている話をされているのを知って、ビビッと来たんです。

―― 素敵な話ですね。

大瀬良 東京に一極集中だったのが、リモートワークのような働き方によって、地域に風を送り得る仕掛けになると思っていて。土と風をきちんと混ぜるためには、コーディネーションをする人が必要で、冗談半分に風土コーディネーターと呼ばせてもらっています。

―― 風のように、移動して旅をしている人と、土のように、その地に根ざしている人をうまくつないでいくということですね。時代的にも、リモートワークが進んで、自由に移動して、どこでも働けるという風潮になった。それは肌で感じますか。

大瀬良 感じます。本当に僕らが言っていたとおりに進んでいるなという感じだし。多くの地域で成功されている事業者の皆さんが言っていることとも変わらないというか。

「レンタカーで移動する時は、車がクローゼットですね」と笑う大瀬良さん。訪れた先で、そこでしかできない体験をする一方で、神社、道の駅、サウナに行くことは習慣に(撮影/佐藤智子)
「レンタカーで移動する時は、車がクローゼットですね」と笑う大瀬良さん。訪れた先で、そこでしかできない体験をする一方で、神社、道の駅、サウナに行くことは習慣に(撮影/佐藤智子)

―― 大瀬良さん自身は、どういう暮らし方や働き方が、自分に合っていると思いますか。

大瀬良 自分のライフステージで変わっていくと思っているんです。ダボス会議でグレート・リセットという言葉がテーマになっている今年において、お金持ちもお金を持っていない人も、都会に住んでいる人も地方に住んでいる人もみんな、スタート地点が一緒になったタイミングで、世の中がどう進んでいくかを知るための一番の方法は、やっぱりいろんな価値観を持った人たちと会うこと、そこに訪れて会いに行くことだと思っています。40歳まであと3年は走り続ける、旅をし続けます。その先は決めていませんが、ただ、どこかに2年間ぐらい定住しようとは思っています。

―― どういう場所がいいですか。

大瀬良 しっかり住まないと学べない場所。海が好きなので、海が目の前という所に住んで、漁師さんに学んだり。その夢を40歳から探し始めるかどうかはまだ決まっていません。言語ももう一回学びたいので、台湾かベトナムに行きたいとも思います。

―― いずれはまた世界に行く人も増えていくと思うし。これからは、世の中の流れはこうです、みたいにひとくくりにできないですよね。人それぞれ過ぎてまとまらない。

大瀬良 そうなんです。自分なりの価値観は人それぞれですから。

―― つまりは、自分の働き方も暮らし方も生き方も場所も時期も全部選べるということですね。同じ場所に滞在していても、毎日出会う人が替わることもあるし。それこそ、一期一会で。自分のお気に入りの場所を見つけて、それも変わっていくかもしれないし。

大瀬良 まさにそうです。

選べる自由があるということは、自分で選ばなきゃいけないということ

―― これからの働き方はどういうふうになっていったらいいと思いますか。

大瀬良 今まではオフィスで働く場合、平日は8時間労働、5日で40時間、4週で160時間が固定だったわけです。それが今は解放されつつある。その時間をどう使うか。取りあえず家で仕事するという使い方を変えるだけで、人生が大きく変わり始める。まずは場所を変えてみるのが最速、最短で一番簡単にスタートするチャレンジなんじゃないですかね。

―― 会社に行かなきゃいけない、9時に出社しなきゃいけない、電車に乗らなきゃいけないという縛りが外れたときに、ある程度の縛りがないと生きていけない人もいるかもしれない。自由というのは、自分で決めて自分でやるということで難しいでしょう?

大瀬良 なので、選べる選択肢の可能性が広がるということは、裏返すと自分で選ばなきゃいけないという過酷な現実があって。

―― ワーケーションするというのは、常に自分の居場所を見つけなきゃいけないから、情報もキャッチしないといけないし、移動すれば、体力も必要だし。誰かが「次はここに行って」と指示してくれるわけじゃないですしね。

大瀬良 だから、疲れそうと言われるんですが、別に、家を捨ててあちこちに移動しなさいというわけじゃないと明確に伝えたくて。ご自身の疲れないペースで選んで少しずつ住んでみるとか。今までと違う働き方だから何かが変わるというところを、まずは一歩一歩体験してほしい。0か100かというのではなくて。

ロケハン、アポ、オンライン会議に、イベントに、社内打ち合わせ。夜は、執筆、クラブハウスでモデレーターも。多くの仕事をこなす毎日(写真提供/大瀬良亮)
ロケハン、アポ、オンライン会議に、イベントに、社内打ち合わせ。夜は、執筆、クラブハウスでモデレーターも。多くの仕事をこなす毎日(写真提供/大瀬良亮)

誰かが正解を与えてくれる時代ではない

―― 極端にとらえずに。ワーケーションとひとくちに言っても、バランスが難しいと言いますよね。ワークばかりになったり、バケーションばかりになったり。

大瀬良 それもある種、ワーケーション偏差値みたいなのによると思うんですけれども、平日に仕事をしている時間をリモートワークで自分の一番居心地がいいと思う所でして、少し早めに起きて自然の中を散歩するとか、それで効率が上がるかもしれない。

―― やり方次第ということですね。自宅にいたくなくて、どこかに移動して、ずっと仕事だけをして、外に一歩も出ずに働くという人もいる。海があるのに海も見ずに、というのはもったいないですか。

大瀬良 そうですね。なので、ちゃんとセルフマネジメントができればとは思っています。

―― 試行錯誤しながら、自分らしい働き方を見つけていけばいいということですね。

大瀬良 はい。誰かが正解を与えてくれる時代ではないので。選択肢が広がる=自分で選ばなきゃいけない、は実は表裏一体なので、自分で選びたいチャレンジやライフスタイルの理想を想像して選んでいく力を全員が持たなければいけないスキルだと思うし、そのファーストステップとして、働き方を選ぶということにつながればいいなと思います。

プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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