大企業なのに中小企業的でアングラなサッカーにキャラを変えた浦和レッズが気になる
欧州のクラブサッカーを見ていればよく分かると思うが、成績は概ね財力に比例する。資金潤沢なチームほど、好選手を揃えることができるからだ。よって、チャンピオンズリーグの優勝候補は、予算規模の大きなビッグクラブに限られている。
AとBが対戦するとき、どちらが勝利することが順当か、試合を予想するときに着目したいのは、両者の予算規模の関係だ。日本でJリーグを見ていると、忘れがちな視点になる。Jリーグのクラブ間には欧州ほどの開きがない。欧州のようなビッグクラブがそもそも存在しない。弱小クラブがビッグクラブを倒す喜びも、ビッグクラブが弱小クラブに敗れる格好悪さも、広く浸透しているとは言い難い。日本ではA対Bを、対等な戦いに見てしまう傾向がある。
たとえば、日本対オマーン戦。人口500万人のオマーンに、日本がホームで敗れることは、番狂わせというより事件。恥じるべき出来事だ。そうした問題意識がどこまであるか。日本に不足している感覚だと思う。
Jリーグにも多少の大小関係は存在する。各チームがまったくフラットな関係で並んでいるわけではない。予算規模には優劣がある。長年に渡りリードしてきたのは浦和レッズだ。近年、ヴィッセル神戸が台頭するまで、年間予算(前年の営業収支)で、常に首位を走り続けてきた。ちなみに2020年の収支報告によれば、1位は横浜F・マリノスで、2位が浦和となる。
スタジアムの1試合平均の観客数でも、2019年のデータによれば、浦和(34184人)はFC東京(31540人)を抑え、首位の座に就いている。一方で浦和は、Jリーグ28年史の中で年間王座に輝いたことは2006年の1度しかない。各チームの優勝回数は以下の通りだが、これもちょっとした事件に値する。
鹿島アントラーズ(8回)、横浜FM(4回)、ジュビロ磐田、サンフレッチェ広島、川崎フロンターレ(各3回)、東京ヴェルディ、ガンバ大阪(各2回)、浦和、名古屋グランパス、柏レイソル(各1回)
浦和は、費用対効果の悪いクラブ、金満色の強いクラブと言われても仕方がない緩さを発露していた。サッカーそのものも画期的ではなかった。昨今の横浜FMや川崎のサッカーと比較すると、その中身で劣っていた。
近年は、選手の顔ぶれも地味になっている。かつてに比べ、値段の高そうな選手が激減。代表チームの常連は今夏、マルセイユから帰国した酒井宏樹に限られる。江坂任がそれに準ずる選手となるが、もっとわかりやすいのは外国人選手だ。試合に出場できるその数が5人に拡大しているにもかかわらず、抱えている選手は3人。コンスタントに出場しているのは、アレクサンダー・ショルツとキャスパー・ユンカーという、値段のけっして高そうではないデンマーク人選手2人のみだ。
浦和が先週の土曜日、アウェーで対戦したFC東京は、4人の外国人選手が出場した。レアンドロが出場停止処分中だったので5人枠をフルに満たしたわけではないが、浦和にはないスケール感を備えていた。予算規模が大きいのはどちらか。浦和はパッと見で劣って見えた。しかし浦和は、試合には2-1で逆転勝利を収めた。よいサッカーをしていたのも浦和だった。
浦和はビッグクラブと言うより好チームに見えた。2019年、2020年の予算規模で言うならば、2位(浦和)対8位(FC東京)の関係になる。浦和の勝利は順当勝ちに見えたが、実際に現場で見た印象はその逆だった。番狂わせの主役を演じたのは浦和に見えた。
浦和はキャラを変えたという印象だ。好チーム度が増している。金満チームなのに金満チームにありがちなネガティブな側面は見えてこない。少なくともピッチ上には。リカルド・ロドリゲス監督の目指すサッカーが、ストレートに反映されている。なにより江坂任と小泉佳穂で組む変則コンビが前線を張る采配に、オリジナルな主張を感じる。浦和はいわば実験的と言いたくなるサッカーを展開しながら、現在Jリーグで5位につけているのだ。
とは言っても、予算規模で2位を行くJリーグにあってはビッグクラブだ。そうした現実的な視点に立つと、5位という成績は物足りなさを覚える。川崎、横浜FMに競り掛けるくらいでないと辻褄は合わない。立ち位置が見えにくくなっていることも事実なのだ。
ロドリゲス監督は、優勝を狙う監督というより、優勝候補ではないチームをよいサッカーで好チーム化を図り、上位に押し上げることを得意にしている監督だと思われる。言うならば、番狂わせを起こす側の監督だ。W杯本大会に臨む日本代表監督に適した人材だと考える。
一方、ビッグクラブなのに、よくも悪くも中小企業のようなサッカーを展開している浦和。クラブの首脳がこのタイミングで、コンセプトを明確に打ち出せば、ファンの溜飲は下がるはずだ。同じ5位でもよりよいものに見えると思う。