もっと注目されてよかった「全国都道府県対抗 e スポーツ選手権」 その成果と課題とは?
12月20~27日にかけて「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA」が開催された。
本大会は、昨年に「いきいき茨城ゆめ国体」の文化プログラムとして開催された「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」に続く、第2回目となるeスポーツ選手権。本来は「燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会」の文化プログラムとして開催される予定だったが、コロナ禍で国体が延期(※文化プログラムは中止)になったことを受けて、同実行委員会が独自に動き、eスポーツ単独でのオンライン開催を実現させた。
大会は3日間に分けて行われ、初日の20日(日)には「eBASEBALL パワフルプロ野球 2020」の競技が、26日(土)と27日(日)には「eFootball ウイニングイレブン」「グランツーリスモSPORT」「パズル&ドラゴンズ」「ぷよぷよ e スポーツ」の各競技が開催された。各出場選手は自宅などからオンラインで、「eBASEBALLパワフルプロ野球2020」の鹿児島県代表選手は、鹿児島市の天文館の会場からオンライン参加する形で競技を行った。
急きょ形を変え、オンライン開催となった2度目の「国体eスポーツ」は、はたしてどのような大会となったのか? 筆者が全競技を視聴したうえで気付いた、面白かった点や課題などをまとめさせていただいた。
素晴らしかった点
前回よりもタイトル数、参加者を増やすことに成功
コロナ禍により、本大会を開催するだけでも困難だったと思われるが、前回よりも2タイトル多い5タイトルを使用し、開催規模を拡大することに成功した。JeSU(日本eスポーツ連合)の発表によると、予選も含めた参加者は前回の1万5千人を大きく上回る、8万3千人もの参加者が集まったので、eスポーツ裾野を広げる大きなきっかけとなったことだろう。主催者、メーカーの尽力ぶりには本当に頭が下がる。
(※本大会で初開催となったのは「eBASEBALL パワフルプロ野球 2020」「パズドラ」の2タイトル)
どのタイトルも競技レベルは非常に高く、実況・解説者のコメントもとてもわかりやすかった。たいへんな状況のなか日々研鑽を積んできた各選手、スタッフの健闘も大いに称えたい。
各地の代表選手・チームをきちんと紹介
JeSU(日本eスポーツ連合)、および各タイトルの公式サイトを見ると、都道府県別の代表選手の名前、プロフィールが顔写真付きで見られるページがきちんと用意されていた。また試合の前後には、時折インタビューを挟むことで選手たちの生の声や、表情を見られるようにしたのも好感が持てた。
JeSUのYouTube公式チャンネルでも、26日の配信が開始された直後に全代表選手を1人ずつ紹介していたのも素晴らしかった。本大会は、地元のMBC(南日本放送)公式チャンネルなどでも同時配信され、同局のアナウンサー、タレントが方言を交えながら番組を進行し、地域色を出していたのも好印象。また競技の合い間には、数名の都道府県知事が地元の選手たちに応援メッセージを送る様子も流され、「都道府県対抗らしさ」を演出していたのも面白い試みだったように思う。
ただ欲を言えば、普段ゲームに関心がない人の興味も引き、地元の代表選手を応援したくなる仕掛けがもっとあってもよかったかもしれない。例えば1回戦の開催直前に、学生部門の選手を応援する保護者や母校のクラスメイト、あるいは担任、部活の顧問の先生の応援メッセージを映像付きで紹介すれば、各選手の地元がさらに盛り上がっただろう。
(参考リンク)
・「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA」(JeSUのサイト)
気になった点
ライブ配信されなかった開会式と「パワプロ」
20日に開催された開会式、および「eBASEBALL パワフルプロ野球 2020」(以下、「パワプロ」)の試合はライブ中継されず、27日の午前中からダイジェストでの公開となり、1試合を通じて配信されたのは決勝戦のみだった。しかも残念なことに、「パワプロ」は本作の公式サイトでも映像がアーカイブされていないため、全試合を見ることができない。
なぜライブ配信をしなかったのか? 筆者がJeSUに問い合わせたら、「イベントが26、27日と分かれていてわかりにくい点があり、20日の開催分についてはまとめて情報を発信したほうが、一般の方々に一体感を持って大会を楽しんでいただけるのではないかという判断もあり、当初からライブ配信はしない方針でした」とのだった。
急ごしらえで実施した大会ではあるが、「スポーツ」でありながらライブ感が欠如した配信は、こと興行という観点からは大きなマイナスだったように思う。これでは、せっかく出場した選手も、地元の代表を応援したいと思った人も興ざめだろう。学生、一般の部ともに決勝戦は素晴らしい試合だっただけに、本当に残念だった。
とりわけ学生の部の決勝戦では、優勝した京都府代表の大西佑貴選手が、1996年夏の甲子園大会で松山商業の矢野勝嗣選手が披露した「奇跡のバックホーム」をほうふつとさせるスーパープレイを、タイブレークの7回裏ノーアウト満塁という絶体絶命の場面で演じたときは本当にシビレた。大西選手は別のイニングでも再三にわたり好捕を連発しており、見ていて本当に楽しかった。
このシーンがもしライブで見られたならば、家族や学校、地元で応援する皆さんはもちろん、一般の視聴者にも大きな感動を与えたことだろう。せっかく初めて競技の対象となったのに、ライブで見られなかったのはあまりにも惜しい。
(参考リンク)
・「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA:Day1」(※JeSUのYouTubeチャンネル)
採点・配点の基準がわからない
都道府県別の順位を決めるにあたり、タイトルごとに出場者の成績に応じたポイントを加算するルールになっていたが、タイトルによって同じ順位でも得点が異なる理由がわからなかった。
個人戦の「パズドラ」では、優勝した選手の都道府県には200点が入るのに対し、2人または3人のチームで試合を行う「ウイニングイレブン」は優勝しても110点しか入らないのはいったいなぜか? 配信中にもその説明が一切されておらず、競技の公平性の観点から考えても問題があるように思う。
配信プログラム、スケジュールがわかりにくい
「パワプロ」を除く、各タイトルの公式サイトではすべての試合を見ることができた。だが、総合チャンネルとして全タイトルを配信した、JeSUやMBCのYouTubeチャンネルでは、いつ、どのゲームの、誰の試合が見られるのかがわかりにくく、複数の競技が同時進行で進んでいるのが傍目にはわからないのも気になった。
せめて上記チャンネルのページ内に、各タイトルの公式配信チャンネルのリンクを貼っておいてほしかった。
事前のプロモーションは十分にできたのか
昨年に掲載した拙稿「国体で初開催となったeスポーツ 奇跡の偉業を、なぜ茨城県は実現できたのか?」では、「いきいき茨城ゆめ国体」の担当者がeスポーツを実施しようと思ったきっかけのひとつが、国体の認知度の低さだったことを紹介した。
前回の教訓が、はたして十分に生かされたのだろうか? 今年は国体そのものが中止となったこともあり、多くの視聴者を集めるには昨年以上にプロモーションが必要だったように思われるが、鹿児島県以外の地域にも本大会は十分に認知されていただろうか?
26日の配信では、「ぷよぷよeスポーツ」のチャンネルでは常時1,500人ぐらいが視聴していた一方、JeSUのYouTubeチャンネルでは15~20人程度しかいなかったのは、事前のプロモーション不足にも原因があったように思われる。
筆者が見た限りでは、大会が終わった後もマスコミでの報道は皆無で、eスポーツに注力すると標榜したゲームメディアですら、経過や結果を報じる記事が載っていないサイトもあった。8万3千人も参加した大会でありながら、この現実はあまりにも寂しい。
来年10月には、三重県で「全国都道府県対抗 e スポーツ選手権 2021 MIE」が開催されることが早くも決定している。願わくば今回の教訓を十分に生かし、今後も少しでも多くの人に競技に参加、または地元の選手を応援する楽しさを広めるeスポーツ大会として定着することを願ってやまない。
なお本大会の動画は、現在でもJeSUの公式YouTubeチャンネルなどで視聴できるので、興味を持たれた方はJeSU、または各ゲームメーカーの公式チャンネルなどからご覧になっていただきたい。前述した「パワプロ」のバックホームをはじめ、どのタイトルも見どころ満載だ。
(参考リンク)
・「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA:Day2 決勝戦」(※JeSUのYouTubeチャンネル)
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