喫煙率が減ってるのに「タバコの不始末」による「火災の割合」はなぜ減らないのか
3月1日から1週間、春の火災予防運動が始まる。全火災の出火原因でみると、タバコによるものが件数でも割合(構成比)でもずっと1位だ。喫煙率が減っているのに、なぜタバコ原因が1位を続けているのだろうか。
放火が減り続けている理由
総務省消防庁の消防統計によれば、件数でも割合(構成比)でも出火原因の1位はタバコ(火の不始末)によるものだ。ここ10年をみても同じ結果になっている。
ただ下のグラフをみる通り、放火、放火の疑いを合わせると、こちらのほうが件数でも割合(構成比)でも1位になる。つまり、はっきりと原因がわかっているものではタバコが1位というわけだ。
ところが、疑いを含む放火は件数も割合(構成比)も年々、下がり続けている。タバコも件数は減ってきているが、全体的な割合(構成比)としては横ばいで変わらない。
つまり、疑いを含む放火の件数が下がっているため、喫煙率が下がっても出火原因でみるタバコの割合(構成比)は横ばいとなるわけだ。
では、なぜ放火や放火の疑いが減り続けているのだろうか。
東京理科大学の小林恭一氏が消防関係の専門雑誌に寄稿した論考によれば、放火は高度成長期の社会の歪みの中で増え続けていたが、2000年代に入る頃から減少に転じた。その原因の一つにあげられるのが、街中に設置された防犯カメラが増えたため、それが抑止力になったのではないかというものだ(※)。
また、放火されやすいのは、住宅の周囲に本来ならそこにはないであろう、枯れ草や屑類、衣類などの燃えやすいものを放置しておくと危険性が増すと述べている。放火されやすい割合でみると、階段室、屋内駐車場などのリスクの高さをあげ、さらに病室も放火されやすいことを指摘している。
寝タバコは絶対にダメ
一方、タバコによる火災では死者数も多い。紙巻きタバコの場合、燃焼部の温度は摂氏800度を超え、見た目はそう熱そうにみえなくてもかなりの高温になっている。
灰皿に積み上がったタバコの吸い殻も、完全に消火していないと火が他の吸い殻に燃え移って高温になって火災の原因になる。また、完全に消火していない吸い殻をゴミとしてゴミ箱へ捨てたり、ゴミ回収所へ出したりすると、これもまた火災の原因になる。
灰皿は水をかけるなどし、タバコの火がしっかり消えたのを確認したい。言うまでもないが、路上喫煙や吸い殻のポイ捨ては火災防止の観点からはもちろん、受動喫煙や環境への悪影響からもやめるべきだ。
寝タバコが布団に落ちると、灰皿と同様に布団の綿、畳などにタバコの火が燃え移り、見た目には炎が上がっていなくても、布団や畳の内部で火が燃え広がっているような状態になる。
こうなると一酸化炭素中毒の危険もあり、意識を失って逃げ遅れることにつながりかねない。寝タバコによる火災で死者が多いのはこのためだ。
人気テレビドラマでも指摘されたが、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器の病気で酸素吸入ボンベを使用している人がいる近くでタバコを吸うと、酸素に引火して火災が起きる危険性が高い。酸素ボンベの周囲では、くれぐれもタバコを吸わないように注意したい。
※:小林恭一、「放火火災(1)放火火災の実態」、月刊フェスク、2023年