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「墜落死」、「腕切断」も頻発 技能実習生の労災死傷は「2倍」!

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:Mono_tadanoe/イメージマート)

 4月末、厚労省が2020年の「労働災害発生状況」を公表した。この内容について、筆者は記事にしたばかりだ。

参考:2020年は「13万人」が死傷 違法性の高い労災でも「自己責任」の現実

 じつは、先日の記事では触れられなかった重要な問題がある。外国人労働者の労災だ。国内全体の労災の死傷者数が減少する一方で、日本で働く外国人労働者の増加に伴い、労災の数も急増している。2020年の外国人労働者の死傷者数は4682人、死者数が30人だ。それぞれ2019年の3928人、21人からかなり増加している。

 外国人労働者が弱い立場にあるために、労災が起きやすくなっていると考えられるが、問題はそれにとどまらない。事故にあった当事者の外国人労働者だけでは、労災被害の適切な補償を求めることも難しいため、労災が隠されてしまうことも多いのだ。そのため、多発する外国人労働者の労災に対する権利支援の取り組みは、いっそう必要性を増している。

 そこで本記事では、外国人労働者の労災の実態を、統計による数字と事例から浮き彫りにしつつ、彼らの「権利行使」の実態について考えていきたい。

外国人技能実習生の労災事故は、日本の労働者の2倍の割合

 まずは、公開されたばかりの2020年の「労働災害発生状況」に加えて、毎年10月に公表される「「外国人雇用状況」の届出状況まとめ」の2020年の数字も参照しながら、外国人の労働災害の輪郭をつかんでいこう。

どこの国籍の労働者の労災が多いのか

 はじめに、国籍別の統計を見てみよう。外国人労働者の死傷者数のうち、国籍ごとの割合を上位5国で見てみると、ベトナム 1245(925)人 、中国(香港等を含む) 707(599)人、フィリピン 682(579)人、ブラジル 624(683)人、インドネシア 220(197)人となる(括弧内は2019年の人数)。ベトナム人の死傷者数が突出しており、この1年で300人も増加しているのが特徴的だ。

 それぞれの国籍の労働者のうちの死傷者の割合を見ても、日本で働くベトナム人労働者の総数は44万3998人のうち、0.28%の割合だ。中国国籍の労働者の総数は41万9431人のうち、0.16%と、やはりベトナム人労働者の労災の割合が高い。

 これは、後述するように労災死傷者の人数・割合の多い技能実習生のうち、ベトナム人が約50%を占め、総数も膨大に増えている(2019年から2020年にかけて、ベトナム人技能実習生は約2万5000人も増加している)ことが影響していると推測される。

日本人労働者と外国人労働者の労災の割合

 続けて、日本人労働者と外国人労働者の労災で死傷する割合を比べてみよう。2020年の外国人労働者の死傷者数は4682人、外国人労働者の総数172万4328人であるため、外国人労働者のうち、労災事故で死傷する割合は0.27%となる。

 一方、日本国内全体の労災事故の死傷者数は13万1156人で、労働者数は2020年末時点で6666万人(労働力調査より)であるから、労災の割合は約0.2%。外国人労働者の方が1.4倍ほど高いことになる。

在留資格ごとの労災の割合

 外国人と一概に言っても、さまざまな在留資格があるが、在留資格ごとの死傷者数もみてみよう。一番死傷者の人数が多いのは、「地位又は身分に基づく在留資格」(具体的には「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」)の2035人(労働者の総数は54万6469人)、次が技能実習生の1625人(労働者の総数は40万2356人)だ。ただ、「地位又は身分に基づく在留資格」が多いのは、日本にいる労働者の総数自体の多さが影響していると考えられる。

 在留資格ごとの労働者の総数に占める、労災事故の被害者数の割合を調べてみよう。すると、「地位又は身分に基づく在留資格」よりも、技能実習生のほうが割合は高く、およそ0.4%だ。

 前述のように日本国内全体の労働者のうち、労災事故の死傷者の割合は0.2%だから、技能実習生の労災死傷者数の割合は、その「2倍」に及んでいる

転落、挟まれ・巻き込まれ…外国人労働者の労災事例

 では、実際にどのような労災事故が起きているのだろうか。近年の具体的な外国人労働者の労災事故の実例を見てみたい。断片的な情報しかないが、近年に公表、報道された外国人の労災事故のうち、死傷者数の多い1位の製造業(2273人)、2位の建設業(797人)の事例を見ると、次のようなものがある。

 

ベトナム人労働者(特定活動)が民家の屋根から転落死

 民家の屋根の補修作業をしていた22歳のベトナム人男性が、転落して亡くなった。この労働者は2017年に技能実習生の在留資格で来日したが、新型コロナウイルスの感染拡大のために帰国できなくなり、「特定活動」の在留資格を得て勤務しているところだった。

 囲いの設置などの転落防止措置を講じなかったとして、労働安全衛生法違反の疑いで、屋根工事会社と専務が書類送検されている。

技能実習生が10階建てマンションから墜落死

 10階建てマンションの外壁改修工事で、21際のベトナム人技能実習生が約22メートル下の2階部分に転落して亡くなった。墜落制止用器具を装着していたが、親綱と呼ばれるロープに掛け渡されていなかったという。

 足場の組み立て作業の主任者に、墜落制止用器具の使用状況を監視させなかったとして、労働安全衛生法違反の疑いで、建設会社と社長が書類送検された。

技能実習生が工場で死亡

 インドネシア人技能実習生が工場のプレス機に挟まれて頭を挟まれて亡くなった。機械は壊れておらず、事故の経緯は不明のままだ。

 労働者にプレス機を操作させる際に必要な特別教育を実施しなかったとして、労働安全衛生法違反の疑いで、自動車用金属部品製造会社と代表取締役が書類送検された。

技能実習生が指を切断

 26歳のベトナム人技能実習生が工場で使用済みの砂をベルトコンベヤーに載せる作業中、ベルト上の砂を手で払おうとして右腕をローラーに巻き込まれ、右腕を肩から切断する重傷を負った。

 機械の周りに囲いを設けるといった危険防止措置を講じなかったとして、労働安全衛生法違反の疑いで、製造会社と副社長が書類送検された。

 このように、会社側の明確な労働安全衛生法違反を背景として、外国人労働者が死傷する事故が全国で多発している。いずれも、高所での囲いの設置、墜落制止用器具の適切な使用確認、機械操作の特別教育、機械の囲い設置など、経営者が法律を守った安全対策をしていれば、防げた可能性の高いとみられる労災事故ばかりだ。

製造業・建設業で、外国人労働者の労災は約2倍の割合

 上で紹介した事例の製造業と建設業は、日本人の労働者であっても、特に労災が起きやすい業界である。外国人技能実習生は、特にそれらの業界で働いている割合が半分以上に上るため、在留資格の中でも労災の割合が高いといえそうだ。

 しかし、「外国人でも日本人でも、製造業と建設業は同様に危険」であるかは注意が必要だ。じつは、製造業と建設業では、外国人労働者の場合、日本国内全体の労働者と比べて、労災の割合がさらに高いという事実がある。

 日本全体の製造業に従事する労働者のうち、労災の死傷者数の割合は、1054万人のうちの2万5675人で0.24%だ。一方、製造業に従事する外国人労働者のうち、労災の死傷者数の割合は、48万2002人のうち、2273人で0.47%だ。製造業に絞ってみても、外国人労働者が日本人労働者の「約2倍」の割合で、労災に遭っている

 次に、建設業を比較してみよう。日本全体で建設業に従事する労働者の総数のうち、労災の死傷者数の割合は、497万人のうちの1万4977人で、0.30%。これは他の業界に比べても高い割合だ。一方、建設業に従事する外国人労働者のうち、労災の死傷者数の割合は、11万898人のうち797人で、0.71%だ。これは外国人労働者の他の業種の中でも、やはり非常に高い数字である。そして、建設業においては、外国人労働者が日本人労働者の「2倍以上」の割合で労災にあっていると言える。

 このように、外国人労働者は、ただでさえ労災の割合の高い製造業、建設業の両方において、日本人の実に「2倍」もの割合で、上記の例のような労災の被害に遭っているのである。背景として、外国人がより危険な業務をされていること、日本語だけの説明など、不十分な安全対策しか講じられていないことが推測される。いずれも、日本人に比べて、外国人が差別的な環境で働かされていることを表しているといえるだろう。

外国人の労災被害に対して、どのような支援ができるのか

 こうした、多すぎる外国人労災に対して、一体どのような支援が必要なのだろうか?

 まずは、労災申請の支援である。労災事故が起きても、経営者が労災として申請せずに隠蔽する「労災かくし」は日本人労働者ですら後を絶たないが、外国人の被害も相次いでいる。

 この1年だけでも、中国人技能実習生が工場で指の爪を失ったにもかかわらず休ませず、労災ではなく健康保険しか使わせなかった事件や、インドネシア人派遣労働者が骨折して3ヶ月近く休んだにもかかわらず、労災の休業補償を使わせず、本人が領事館に相談して労災が発覚した事件など、事例に事欠かない。

 会社の協力がない場合でも、協力が得られないことを説明できれば、本人が労基署で労災申請を行うことは制度上可能だが、外国人の当事者本人だけでその手続きを行うことは容易ではない。支援者の存在が重要になる。

 次に、経営者に対する労災の責任追及だ。国の労災保険の補償は、治療費や休業補償の一部、後遺症が残った場合の障害補償給付などは払われるが、慰謝料、全ての休業補償、そして本来今後稼ぐことができたはずの逸失利益は払われない。こうした損害賠償は経営者に請求できるものだ。特に上記の事例で紹介したように、明確な労働安全衛生法違反がある場合は、経営者の注意義務違反や安全配慮義務違反を問うことで、これらの賠償を払わせやすい。

 しかし、個人で請求しても経営者は無視したり、非常に少額の金額を提示するだけだろう。弁護士による裁判や、個人で加入できる労働組合による団体交渉で要求していくことが不可欠だ。

 また、こうした労災申請や賠償請求を通じて、企業が嫌でも労災の再発防止策をとる圧力になるだろう。こうした権利行使が労災の数を減らしていくことにもつながるのだ。

 実際、国籍を問わず労働災害の事件に取り組んでいる労災ユニオンでは、ある工場で起きた外国人労働者の労災の責任を追及する中で、工場内の注意喚起の文章が日本語のものしかなく、また注意喚起の呼びかけも日本人労働者の出勤時間に合わせてしか行われていなかったことが判明し、改善を実現したケースもある。

 労災でまわりに困っている外国人労働者がいたら、ぜひ一緒に専門家に相談してみてほしい。

 労災ユニオンでは、労災相談ホットラインを5/22(土)、5/23(日)に実施する予定だ(日本人労働者も対象)。自分や周りの人が労災被害にあっており、会社に責任を取らせたいという人は相談してみてほしい。

【ホットライン概要】

日時:5/22(土)、5/23(日)の13時~17時

主催:労災ユニオン

番号:0120-987-215(相談無料・通話無料・秘密厳守)

 また、NPO法人POSSEでは、労災に限らず、外国人労働者の労働問題を常に受け付けている。さらに外国人の労働問題の支援運動に参加したい人に向けて、ボランティア募集も行っているので、ぜひ連絡してみてもらいたい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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