学生たちの調査で「若者のホームレス」急増が判明 実態と背景とは?
7月19日、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEの学生スタッフ等は、厚労省で記者会見を行い、2023年度の生活相談記録の集計・分析から、若者の「見えないホームレス化」が広がっているのではないかという問題提起と、国や自治体への政策提言を行った。
去る4月26日、厚労省は今年1月時点の全国のホームレスの人数が2820人で過去最小となったと発表した。初回調査の2万5296人から大幅に減少しており、行政のホームレス対策が功を奏したように見える。
しかし、2023年度にPOSSEの生活相談窓口に寄せられた若者(10代〜30代)の相談304件のうち、139件(45.7%)が「ホームレス」状態であった。若者の多くはネットカフェや友人宅に滞在していたり、実家にはいるものの家族からの虐待などにより、安心して家にいることができない状況に置かれていた。
本記事では、記者会見の内容をもとに、若者の「見えないホームレス化」について詳述していく。
若者からの相談件数の急増
まず、POSSEでは若者からの相談が全体として急増している。2021年度には総計267件中78件だったのが、2023年度には総計589件中304件となっている。全体も増加しているが、それ以上に若者の相談の増加率が高い。
その背景には、2021年度の途中からLINE相談窓口を設置し、TikTokやX(旧Twitter)などのSNSでの周知を強化したという技術的な面が挙げられる。それと同時に、「ホームレス化」してしまうような、仕事や家族に頼れない若者にとっての数少ない受け皿になっているという側面が重要だと思われる。
90年代以降の「フリーター・ニート」から始まる若者問題に対し、当初から問題提起してきた宮本みち子氏は、近年の若者たちは低賃金で親からの独立や家族形成が困難であり、「アンダークラス化」していると指摘する。しかし、そうした若者の多くは親と同居しているため、貧困が不可視化されているという。
確かに、低賃金で不安定な就労に従事する若者の多くは家族に頼らざるを得ないだろう。だが、そうであれば、家族に頼れなくなった途端に、「眼に見える貧困」に陥るはずである。
ところが、現状ではむしろ、家族に頼れないより深刻な貧困状態にある若者の方がより「眼に見えない(不可視化)」された状態にある。その理由は、若者サポートステーション事業などの若者支援策が、家族の扶養を暗黙の前提にしたうえで支援サービスを提供するというスタンスに終始してからだ。
そもそも、家族から支援を得られていない若者は、家族を介して行政の支援に結び付く回路さえも奪われている。そのため、POSSEの生活相談は、「家族に頼れなくなった若者」の受け皿となっており、相談の急増につながっていると考えることができる。
若者の約半数が「ホームレス」
次に、POSSEに寄せられた若者の相談304件のうち、45.7%に当たる139件が「ホームレス」状態にあった。若者の間では、ホームレス問題も深刻化しているのだ。だが、国の調査ではホームレスは劇的に減少しているとされており、現状と著しく食い違っている。その要因は、国のホームレスの「定義」が現実を無視しているからだ。
国の「ホームレス」の定義は2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に定められた、「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」というものだ。これは「ホームレス=路上生活者」と定義していると言えよう。
しかし、住居を喪失している人たちは路上だけにいるわけではない。24時間営業のネットカフェ、ファストフード店、ビデオルームなどで寝泊まりする「ネットカフェ難民」や、友人宅に居候している人も少なくない。特に、若者や女性ではこの傾向が強く、「住居喪失者」の実態をより見えにくくしている。こうした人たちは国の調査の対象外なのである。
実際に、2018年に東京都が公表した調査によれば、「ネットカフェ難民」(「インターネットカフェ等をオールナイト利用する住居喪失者」)は1日あたり約4000人いるという。この数字だけで国の統計上のホームレス数を超えている。
こうした実態を踏まえ、POSSEの相談集計では、「ホームレス」に以下のような状況の人たちを含めている。
- 路上生活をしている者
- 友人宅に居候している者
- ネットカフェ等商業施設に滞在している者
- 家賃滞納のため退去を求められている者
- 無料低額宿泊所等の施設に滞在している者
- 住居に住んでいるが、同居人からの暴力等で安心して暮らせない者
この定義を踏まえた「現在の住居の状況」を集計した結果は以下の通りである。
特に多いのは「住居に住んでいるが、同居人からの暴力等で安心して暮らせない」ケースである。これは、実家に住んでいるものの、親などからの虐待で安心して暮らせず、出ていきたいというものや、パートナーと一緒に住んでいるが、パートナーからの暴力に晒されている、などといったものが多い。
若者の「ホームレス化」の背景
さらに、若者が「ホームレス化」した要因について分かるケースを集計したところ、下記の通りとなっている。
ホームレス化の原因は、親からの虐待が圧倒的に多く、低賃金や失業といった労働問題も少なくない。具体的な実例を見てみよう。
相談事例(1)三重県30代女性
父が毒親で実家にいられない。しかし、市立図書館職員(非正規のフルタイム)の仕事の手取りは平均月11万円前半で、6万円まで下がる時期がある。そのため、実家を抜け出すことができない。
相談事例(2)宮城県20代女性
家族から殺されると思うほどの暴力を受け、所持金も全て奪われ、友人宅に匿ってもらった。住居を確保するために工場の社員寮に入るも、うつ病の悪化によって働けなくなり、自殺未遂も繰り返した。さらにパートナーからのDVで警察に保護され、実家に戻らざるを得なくなった。うつ病で働くことが困難だが、毎月10万家に入れるようにと家族から言われている。そのため、病院に行くことができず薬も飲めていないため、うつ症状が悪化している。今の家族と離れて暮らしたいと考えているが、お金がなく逃げ出すことすらできない。
相談事例(3)神奈川県20代男性
父親がアルコール依存症、母親がヒステリーで、幼少期から暴力を受けているため実家を出たい。高校卒業後、「家に5万円くらい入れろ」と親に言われていたため飲食店でアルバイトをしていたが、私物を盗られる、蹴られる、無視され仕事を教えてもらえない、などのいじめに職場で遭い、さらに交通事故によって仕事を覚えることが難しくなり解雇された。実家にいても食事は出されないため自分で買って食べているが、収入がなく困窮している。両親からは「家を出ていけ」と言われた。
これらの事例でわかるように、第一に、雇用の劣化により経済的に自立できず、実家を出ていくことができない。非正規雇用は最低賃金ギリギリであり、事例(1)のように月収11万円では一人暮らしは難しいだろう。
やや古い調査にはなるが、2014年にビッグイシュー基金が行った調査によれば、首都圏・関西圏に住む20~39歳、未婚の年収200万円未満の対象者のうち、親同居の割合は77.4%に及ぶ。親と別居している場合でも、住居費負担率が30%を超える者が57.4%、50%を超える者が30.1%と、異様に重い住居費負担を強いられている。
第二に、実家が安心していられる場所ではなくなっている。公的統計でも、児童虐待相談対応件数は統計開始の1990年から2022年(最新)にかけて約200倍増え21万9170件、DV相談件数も2002年から2022年にかけて3倍以上増え、12万2211件となっている。
背景には、おそらく家族が経済的に余裕もなく、まして成人した子どもを扶養し続けられないということがあるだろう。かつては、終身雇用・年功賃金が保障された日本型雇用の夫と専業主婦あるいはパートに従事する妻、そして子ども、という組み合わせが標準的な家族の形だとされてきたが、現在では日本型雇用が崩れ、正社員の賃金も低下する中で、妻や子どもの収入も家族にとって不可欠となる「多就業型」へと変化している。
そうすると、事例(3)のように自身の収入も家族全体の家計を担うものと期待される。しかし、労働問題などにより就労が困難になると、家族にとって支出だけが増える「負債」とみなされ、実家から追い出されることになるのだろう。
生活保護窓口での違法行為
こうして「ホームレス化」した若者が使える制度は、事実上、生活保護しかない。相談を寄せた若者の多くも生活保護の利用を検討しているか、すでに利用していた。しかし、生活保護の窓口で虚偽の情報を教えたり、申請させないなどの違法行為を経験している者が多いこともわかっている。
相談者の中で、福祉事務所に一度でも行ったことのある者108人のうち、一つでも違法行為を経験したのは81人(75%)であった。受給前に関しては、虐待家庭の親に「扶養照会」をしようとしたり、そもそも保護開始をしないといった悪質な行為も目立つが、なかでも申請しようとする人を追い返す「水際作戦」が20件(18.5%)と最多であった。
ただし、2000年代以降問題になっている「水際作戦」は近年変化しており、「施設収容の強制」(これも違法行為である)という形をとることが多い。ここでも具体的な事例を見てみよう。
相談事例(4)東京都20代男性
幼少期に両親に養育を放棄され、児童養護施設に入所した。施設内で上級生から性的虐待を受け、うつ病・PTSDを発症。その後、交通事故に遭い、就労が困難に。生活保護の申請の2週間前には居候していた知人宅も追い出され、公園のトイレに籠り、缶コーヒー1本で1日をしのぐような路上生活をしている。生活保護の申請に行ったものの、住所不定(ホームレス)の場合、無料低額宿泊所への入所が受給の条件であると説明をされた。過去の虐待により集団生活を送ることが困難な当人はその旨を話すと、「それだったら受けられない、ここ以外で受けろ」などと言われ、申請を諦めざるを得なかった。
相談事例(5)埼玉県30代
埼玉県内の無料低額宿泊所に住んでいるが、空調設備がなく夏は室温が40度を超えることがある。また、管理者に通帳と印鑑を奪われており、保護費は2万円のみが管理者から渡される。部屋の窓が当初から壊れており、野良猫が入ってきて室内で繁殖している。猫が死ぬと管理者に暴言を吐かれるため、エサ代等を少ない保護費のなかから自腹で支払っている。食費は月3万9000円であるが、毎日揚げ物が出てくるうえに、値段に見合わない質素な内容である。
相談事例(6)東京都20代男性
親からの暴言等で家にいられず、家から逃げ出し都内で生活保護の申請をした。しかし、申請地から程遠い茨城県の障がい者施設に入所させられた。管理者に通帳を奪われており、保護費は月初めに1万円のみ渡される。また、空調設備は設置されているがリモコンが部屋になく使うことができない。食費も580円徴収されているが、カップ麺のみの日もある。
事例(4)のように、ホームレスの若者が生活保護を申請しようとすると、無料低額宿泊所などの施設への入所が申請や受給の条件であるかのような説明を受けるケースが数多く寄せられている。しかし、生活保護の申請には条件をつけてはならず、施設入所は強制できない。
実際に施設に入所してしまうと、事例(5)(6)のように劣悪な環境であることが少なくない。無料低額宿泊所などの環境が悪いという情報をネット上などで得られるため、あらかじめ施設入所はしたくないという若者は多い。そのため窓口で施設入所を断ると、行政は申請を受け付けないのである。
かつて「水際作戦」の常套句としては、「若いから働ける」「親に養ってもらえ」「住所がないとダメ」だった。こうした「水際作戦」は、全国の支援者が窓口に同行することで実行困難になってきた。しかし、上記のようにホームレスに対して施設入所を申請・受給の条件にするという「新しい水際作戦」とも言える手法が広がっているのだ。
終わりに
若者の貧困は早期に対応すれば、多くの場合生活を立て直すことができる。対応の拡充は「待ったなし」のはずだ。だが、ここまで述べてきたような実態に対し、学術的な調査も、行政による実態把握も現状では極めて不十分であり、早急の対策が求められている。
そうした中で、今回の相談集計・分析結果は、現状では不可視化されている「若者ホームレス」を可視化し、それに対する行政の対応の問題点を指摘し、対策を促す狙いを持っている。
そもそも、貧困をはじめ社会問題は、告発や提起を通じて初めて認識され、社会的対策が講じられるものであった。資本主義社会における貧困は、元来個人の道徳的問題とみなされてきた。そのため、イギリスの救貧法において、働ける貧民はワークハウスに収容されて過酷な労働を強制され、働けない貧民も劣悪な救貧院に収容された。
それに対し、ブースやラウントリーの社会調査により、イギリスに膨大な貧困層が存在し、その背景に不安定就労や低賃金の問題があることが明らかにされた。こうして貧困は社会問題として認識され、イギリス福祉国家の起点となる20世紀初頭の「リベラル・リフォーム」と呼ばれる一連の社会立法(老齢年金や失業保険など)にもつながった。
私たちも、学生ボランティア等と日常的に一件一件の相談を対応しながら、その傾向を分析し、問題を可視化するとともに、必要な対策を提起することを常に問題意識に置いて相談活動を行ってきた。今回の結果はその産物の一つである。
今後も相談活動を継続していくとともに、具体的な被害の告発を通じて、行政の運用を是正する動きを作りたいと考えている。そのために、夏休み期間中に学生を中心に、各福祉事務所前で生活保護を利用している人たちへのアウトリーチ活動などを展開していく予定だ。
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*筆者が代表を務めるNPO法人です。社会福祉士資格を持つスタッフを中心に、生活困窮相談に対応しています。各種福祉制度の活用方法などを支援します。
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