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大阪ならでは?地下鉄の駅や車内で見かける独特のモノ

伊原薫鉄道ライター
85年間、大阪を支えてきた市営地下鉄。いよいよ民営化の時を迎える(筆者撮影)

 1933(昭和8)年に産声を上げた、大阪市営地下鉄。日本初の公営地下鉄として、梅田(当初は仮駅)~心斎橋間の約3kmが開業した。それから85年間、大阪の経済発展や人々の生活を支えてきたが、いよいよこの4月には大阪市が100%出資する「大阪市高速電気軌道株式会社」へと移管。大阪市民や利用者だけでなく、鉄道ファンの間で話題になることも多くなってきた。

 ところで、大阪市営地下鉄には他の鉄道では見られない独特の“モノ”があることをご存知だろうか。ここでは、筆者が特に珍しいと感じた4つを紹介したい。

○車内に掲示された「マナー広告」

地下鉄車両に掲示されたマナー啓発広告。他の鉄道会社とは少し雰囲気が異なる(写真は全て筆者撮影)
地下鉄車両に掲示されたマナー啓発広告。他の鉄道会社とは少し雰囲気が異なる(写真は全て筆者撮影)

 大阪市営地下鉄の車両には、運転席の後ろや連結部の近くに「マナー広告」が掲示されている。マナー向上を訴える広告物は、JRや他の民鉄で見かけることも多く、それほど珍しいものではない。ただ、それらのマナー広告は携帯電話やスマートフォンの利用に対する注意や、整列乗車を促したりといったものがほとんど。イラストや写真とともに「整列乗車にご協力ください」といったお願いの文言が書かれている。

車内には他にもマナー広告が。七五調の標語になっている
車内には他にもマナー広告が。七五調の標語になっている

 これに対し、大阪市営地下鉄の広告物は少し雰囲気が違う。「プラットホームの端を歩かない/無理な乗車をしない/車外に物を捨てない・・・」などの文字だけが並び、イラストや写真は一切なし。一見ちょっと無機質な、どことなく「お役所的」な印象がする。大阪で生まれ育った筆者は子供の頃から見慣れているため、特に気を留めることもなかったが、先日この掲示を初めて見た東京在住の友人は、大阪独特だと感じたようだ。確かに、ここまでダイレクトな言い方は他の鉄道では見ない。歯に衣着せぬ物言いをすることも多い大阪人、マナー啓発の広告もオブラートに包まずダイレクトに・・・と、いう意図があったのだろうか。

 この広告物がいつ、どんな経緯で掲示されるようになったのか。残念ながら、大阪市交通局にも詳しい記録は残っていない。少なくとも30年以上前から掲出されているそうで、文面もその頃から変わっていない。民営化後にどうなるか、少し気になるところだ。

○姿を消し始めた「マルコマーク」と「みおつくし」

長年親しまれた「マルコマーク」残念ながら民営化と共に姿を消すことになった
長年親しまれた「マルコマーク」残念ながら民営化と共に姿を消すことになった
こんな所にもマルコマークが。駅構内を見て回ると、宝探しのようで楽しくもある
こんな所にもマルコマークが。駅構内を見て回ると、宝探しのようで楽しくもある

 一方、民営化によって姿を消すことが決まっているものもある。「マルコマーク」と呼ばれている、○とカタカナの「コ」を組み合わせたマークもその一つ。「コ」は、大阪市交通局の内部で地下鉄のことを表した「高速軌道」の頭文字である。地下鉄を示すロゴとして、駅や車両などさまざまなところで見かけるマルコマークだが、民営化後は新会社のロゴであるOとMを組み合わせたものに置き換わる予定だ。すでに、今年製造された一部の車両はマルコマークの表示がなく、また駅の看板などもマークのないものが増加。かつて国鉄が分割民営化された際、一斉にJRマークが貼られたように、4月1日にはマルコマークの上に新会社のロゴが貼られるのかもしれない。

市営バスの前面に取り付けられた「みおつくしマーク」既に一部の車両は撤去されているほか、現在は万博招致の垂れ幕に隠されており、見ることは困難だ
市営バスの前面に取り付けられた「みおつくしマーク」既に一部の車両は撤去されているほか、現在は万博招致の垂れ幕に隠されており、見ることは困難だ

 さらに、大阪市営バスの前面には「みおつくし」と呼ばれる大阪市の市章が取り付けられているが、こちらはすでに撤去が進行。最近導入された一部の車両は、撤去を見越してこれまでの金属製のものではなく、シールで表現されていた。長年にわたり、地下鉄やバスのシンボルとして親しまれたマークは、まもなくその役目を終える予定だ。

○かつて大切な役割を担っていた「百葉箱」

駅のホームにある百葉箱。現在は役目を終え撤去の噂も流れているが、いまだ残ったままだ
駅のホームにある百葉箱。現在は役目を終え撤去の噂も流れているが、いまだ残ったままだ

 さて、大阪市営地下鉄の一部の駅には、昔懐かしい“アレ”が設置されている。アレとは、子供の頃に小学校の校庭などで見かけた、百葉箱。これまた、毎日その横を通っている利用者は気にも留めないが、確かに他の鉄道ではほとんど見かけない。たまたま目にした観光客が、珍しそうに写真を撮っている姿を見ることもある。

 この百葉箱、かつては大切な役割を担っていた。地下鉄は車両から出る熱がトンネル内にこもるため、その影響を調べるのが目的。記録では、地下鉄が初めて開業した翌年の1934年に、淀屋橋駅へ設置されたのが最初とされている。地下鉄の駅ホームは列車の進入時に強風が吹くことから、その影響を避けるため百葉箱が必要だったようで、その後も梅田や西梅田、天満橋など主要駅に登場。駅や車両に冷房装置を導入する際、この観測データが参考にされるなど、快適な鉄道づくりに貢献してきた。

 現在は計測技術も進歩したことから不要となり、何度か撤去が噂されたものの、現在も10数駅に残されている。地下鉄の歴史を感じさせる一品、記録はお早めに。

○スムーズな旅客案内に欠かせない「副示灯」

地下鉄なんば駅の「副示灯」この改札口は御堂筋線と千日前線に通じているため、両線の状況が分かるよう副示灯も2種類ある。それぞれ、両隣の桜川駅と日本橋駅、心斎橋駅と大国町駅の状況を示す
地下鉄なんば駅の「副示灯」この改札口は御堂筋線と千日前線に通じているため、両線の状況が分かるよう副示灯も2種類ある。それぞれ、両隣の桜川駅と日本橋駅、心斎橋駅と大国町駅の状況を示す
駅改札口の近くにある「副示灯」これを見れば、列車の接近状況が分かる
駅改札口の近くにある「副示灯」これを見れば、列車の接近状況が分かる

 もう一つ、大阪市営地下鉄ならではのものを紹介しよう。各駅の改札口付近をよく見ると、駅員が立つブースから見える場所の天井に、小さな“箱”が取り付けられている。箱は田の字型になっていて、時々「○○着」「○○出」(○○は駅名の略称)という表示が点灯する。

 実はこれ、列車の接近を駅員に知らせるためのもの。「副示灯」という名称で、設置された駅の両隣に列車が到着した/出発したことを示している。たとえば、淀屋橋駅の改札口付近にある副示灯は、両隣となる梅田駅と本町駅の状況が、それぞれ「梅田着」「梅田出」「本町着」「本町出」というランプが点灯することで表示されるのだ。本来は業務用で、例えば利用者から運行状況(「次の電車もう来る?」などの問い合わせ)を聞かれた際にすぐ答えられるよう、あるいは車いす利用者の手伝いや忘れ物の捜索をする際など、列車の接近を知らせてくれるツールとして、40年以上前から設置。駅員には欠かせないものだという。

 そしてこの副示灯、実は利用者にとってもちょっとした目安になる。つまり、改札を通る際にこれを確認して、「○○着」が点灯していたら普通に歩いても間に合う、「○○出」が点灯していたら少し早足で・・・といった具合だ。ちなみに、両方とも消灯している=まだ隣の駅にも到着していないか、既にこの駅に列車が到着しているという意味。後者の場合は急いでも間に合わないし、危険なので次の列車を待つようにしよう。

 民営化で消えるもの、まだまだ残るもの、そして新しく生まれるもの。市営地下鉄から株式会社になって、こうした「大阪らしさ」を感じさせるモノがどうなるのか、少し気になるところだ。伝統を受け継ぎながら、さらに便利に進化することを願う。

1903年、路面電車の開業と共にスタートした市営交通事業。まもなく115年の歴史に幕を下ろす
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鉄道ライター

大阪府生まれ。京都大学大学院都市交通政策技術者。鉄道雑誌やwebメディアでの執筆を中心に、テレビやトークショーの出演・監修、グッズ制作やイベント企画、都市交通政策のアドバイザーなど幅広く活躍する。乗り鉄・撮り鉄・収集鉄・呑み鉄。好きなものは103系、キハ30、北千住駅の発車メロディ。トランペット吹き。著書に「関西人はなぜ阪急を別格だと思うのか」「街まで変える 鉄道のデザイン」「そうだったのか!Osaka Metro」「国鉄・私鉄・JR 廃止駅の不思議と謎」(共著)など。

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