都会生活と仕事に疲れたヒロインが初めての長期休暇で水辺の街へ。「同世代の女性の心が晴れてくれたら」
東京生まれ東京育ちの絵里は、なにかとプレッシャーとストレスのかかる都会での生活にちょっとげんなり。疲れた心と体のリセットとリフレッシュを兼ねて「休暇=ヴァカンス」をとった彼女は、のどかな水辺の街にある、いまはもうなくなった祖母の懐かしい家へ――こんな心のオアシスを求めて地方の街にやってきた都会の女の子のひとときの休息を描いたのが永岡俊幸監督の劇場デビュー作「クレマチスの窓辺」だ。
はじめてのヴァカンスにちょっと心をときめかせながらも、戸惑いもちょっと……。なんだか心をざわつかせる事態にも直面してしまう。そんなヒロイン・絵里を等身大で演じているのが、瀬戸かほ。
モデルとして活躍するとともに「愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1」などで女優としても頭角を現しつつある彼女に訊く。
ヴァカンスは、いつか実現できたら嬉しいひとつの憧れでした
はじめに本作は「日本発のヴァカンス映画」と銘打っている。訊くと瀬戸はヴァカンスに憧れがあったそうだ。
「自分の中でヴァカンスにすごく憧れがあったんです。
というのも、わたし自身、長期の休みをとってどこか遠くに出かけることをほとんどしたことがなくて(苦笑)。もともと家で過ごすことが好きで、漫画を読んだり刺繍をしていたら、いつの間にか夜になっていることも多々あります。
ひとりでショッピングに行ったり、カフェで友だちとお茶したりすることもあるのですが、どこか遠くでヴァカンスをするとなると、行きたい気持ちはあってもお休みをとって旅に出る勇気が出なくて、なかなか一歩を踏み出せていませんでした。
そんなわたしにとってヴァカンスは、いつか実現できたら嬉しいひとつの憧れでした」
そういう思いもあって、今回の「クレマチスの窓辺」の脚本を読んだときは、心がときめいたという。
「最初に読んだときに、絵里と一緒に憧れだったヴァカンスを過ごせたらどんなに楽しいだろうと思いました。
それと同時にこのヴァカンスは絵里の人生の中で大切な思い出となることは間違いなくて、その大切なひとときを彼女と一緒に過ごすことができるのは光栄なことで、彼女と一緒に旅をできることが楽しみでしょうがなかったです」
絵里のまじめゆえにはっちゃけきれない性格も伝えられたら
その中で、絵里という人物をこうとらえたという。
「わたしと同じように、絵里もどこか遠くへいって休暇を過ごすようなタイプではないんだろうなと感じました。
おそらく今回が彼女にとって最初のヴァカンスじゃないかなと。
特に台本に書かれているわけではないですけど、おそらく今回のヴァカンスに至るまでに、仕事でいろいろな辛いことがあったり、うまくいかないことがあったりして、心身ともに疲れ、『有給とって1週間休むぞ』と一大決心して都会を飛び出たのだと思います。
なので、まずは彼女が非日常に飛び出した気持ちを大切に演じるよう心がけました。
その一方で、絵里はすごくまじめな性格なので、休暇モードになかなか切り替えられない面もあります。
映画で描かれていますが、(休暇中なのに)仕事の電話にはきちんと対応する。出会った人に名刺を出して挨拶をするところに、彼女のまじめさが窺えます。
そのきまじめさは、わたしもわかるところがあって。実は、いまこうして話をしていますが、伝えたいことをきちんと言葉に出せるかわからなかったので、あらかじめメモしてきたんです(笑)。この絵里のまじめゆえにはっちゃけきれない性格も伝えられたらなと思いました」
いまの自分を自然と絵里に投影させられたら
等身大で演じられる役だったという。
「絵里の設定された年齢と当時のわたしは同い年で、等身大で演じられる役だと思いました。
作品の中で完全に語られているわけではないのですが、絵里は仕事の壁にぶつかって、ちょっと疲弊気味になっている。
それなりにキャリアを積んで責任ある仕事も任されているけど、モチベーションを感じながらも嫌気もちょっとさしている。
心の休憩が必要な時期に入ってきたところ。その感覚はわたしもわからないことはない。
なので、いい意味で、あまり考えこまないで、いまの自分を自然と絵里に投影させられたらと思いました」
さきほど話に出てきたように絵里は、心身ともに疲れ果て休暇に出たところがある。同じような経験はあるだろうか?
「わたしはないです。
ただ、今回のコロナ禍では、仕事が全部ストップした時期がありました。このときは、絵里のように改めて仕事のことだったり、ふだんの生活だったりを見つめ直す時間になりました」
共演者のみなさんに多くを学び、すごく助けられた
ヴァカンスで訪れた水辺の街で絵里は、建築家の従兄、大学生の従妹、靴職人、古墳研究者、バックパッカーなど、ちょっと癖のある個性的な人々と出会い、ひととき交流をもつことになる。
その人々に扮するのは、1970年代の日活映画で活躍し、本作が約45年ぶりの復帰作となった女優の小川節子ら個性豊かな俳優たち。この共演を瀬戸はこう振り返る。
「これだけ多くの共演者の方と一対一でお芝居をする経験はこれまでなかったので、最初は不安がありました。
でも、現場に入ったら、みなさんがこの水辺の街で暮らす人として絵里を迎えてくださったので、わたしは絵里として相手の方と向き合うことに専念しました。
過去にご一緒したことのある役者さんもいたのですが、みなさんそれぞれに独自の表現方法をもっていらっしゃる。
それに触れることや知ることができただけでもわたしにとっては大きな財産で得られることの多い現場でした。
共演者のみなさんに多くを学び、すごく助けられた現場になりました」
いま演じた絵里についてこんなことを感じているという。
「劇中で絵里のセリフに『この1週間、こんなに長く感じたのは初めてかも』というのがある のですが、その言葉にわたしはずっと引っかかっていました。
はじめは1週間って、楽しかったらあっという間に過ぎるのではないかと思っていたんです。
でも、絵里のこの1週間はさまざまなことが起きて、おそらく初日のことが遠い昔に感じるぐらい濃い時間だったんだと撮影していく中で気づき、演じ終えたいまも印象に残っているセリフです」
絵里と同世代の女性の方々の心が晴れてくれたら嬉しい
その上で、こう言葉を寄せる。
「会社と自宅の往復で、仕事に行き、帰宅して眠るだけの毎日。
数年間会社で働いていたことのあるわたしは、生活に疲れてしまった絵里の気持ちに共感しました。
多くの方に観ていただきたいのはもちろんですが、絵里と同世代の女性の方々が
映画の中で、絵里と一緒にひとときのヴァカンスをして、少しでも心が晴れてくれたら大変嬉しいです」
今回のロケ地は、一部が島根県出雲市だが、ほとんどが松江市で行われた。
話は最初に戻るが、憧れのヴァカンスを過ごせただろうか?
「とっておきのヴァカンスを過ごせました。ほんとうに素敵な旅でした。
はじめにお話しした通り、旅行らしい旅行をほとんどしたことがないので、素晴らしい体験として記憶に刻み込まれています。
また行きたいです。わたしの中でいちばんに旅行にいきたい場所ができました」
今後、さらなる飛躍が期待される彼女。現在、モデルとしても活躍するが、演技の道を目指したきっかけをこう明かす。
「学生時代にモデルをはじめて、大学三年生のとき、就職か芸能の道に進むのか、選ばなければいけない時期を迎えました。
そのとき、就職したい会社がひとつだけあったのですが、会社説明会に行ったときに眠ってしまって。その瞬間、自分がほんとうに興味があるのは芸能のお仕事ではないかと思って、こちらの道に進むことを決めました。
実際にお仕事をさせていただく中で、辛いと感じることもあるのですが、いつもそれを超える楽しさがあって。俳優のお仕事で言えば、『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景 vol.1』の経験が大きかったです。
難しい役で俳優としてプレッシャーを感じたところもありましたが、やり遂げたときに『これからもこの俳優のお仕事をもっと続けていきたい』と心から思いました。
あの作品にはとても感謝しています」
いまはあまり先のことは考えずに、とにかくすべてに全力で挑みたいという。
「モデルのお仕事も、俳優のお仕事も、任せていただいた役に全力で取り組んでいきます。
まだまだ駆け出しなので、ひとつひとつの役を大切に演じることをこころがけて頑張っていきたいです」
「クレマチスの窓辺」
監督・編集:永岡俊幸
脚本:永岡俊幸、木島悠翔
出演:瀬戸かほ
里内伽奈 福場俊策 小山梨奈 ミネオショウ 星能豊 サトウヒロキ
牛丸亮 宇乃うめの しじみ 西條裕美 小川節子
4月8日(金)〜4月14日(木)ヒューマントラストシネマ渋谷にて1週間限定上映
場面写真およびポスタービジュアルは(C)Route 9
<舞台挨拶決定!>
4月8日(金)18:35~
瀬戸かほ、里内伽奈、小山梨奈、ミネオショウ、永岡俊幸監督
4月9日(土)20:50~
瀬戸かほ、福場俊策、サトウヒロキ、小川節子、永岡俊幸監督