ワクチンと経済協力によって北京五輪開会式に引き寄せられた強権指導者
北京冬季五輪の開会式(4日)には、中国からの招待に応じた国家元首らがスタンドに姿を現した。米国、英国、カナダなどが政府使節団を派遣しない「外交ボイコット」を打ち出すなか、開会式に現れたのは、やはり長期政権の指導者だった。
◇ワクチン5000万回分提供
開会式のあった北京・国家体育場(通称「鳥の巣」)では午後7時15分(現地時間)に、各国の首脳や王族、国際機関のトップが到着した。
中国中央テレビ(CCTV)によると、各国からの来賓は約70人。CCTVが名前を紹介した首脳級は、ロシアのプーチン大統領を筆頭に、カザフスタン▽キルギス▽タジキスタン▽トルクメニスタン――などの大統領ら。多くが長期政権、強権体制を維持している。CCTVが名前を読み上げたのは、政府首脳、王室関係者、国際機関トップを含め29人だった。
北京夏季五輪(2008年)の際にはチベット自治区での抗議行動を中国当局が鎮圧したことに批判が集まっていたが、当時の福田康夫首相やブッシュ米大統領、サルコジ仏大統領ら計68カ国の最高首脳が開会式に出席し、胡錦濤国家主席(当時)は活発な首脳外交を繰り広げていた。
今回は主要7カ国(G7)のなかで最高指導者が参加する国はなく、20カ国・地域(G20)に広げても、開催国・中国のほか、ロシアやサウジアラビア、アルゼンチンの3カ国にとどまっている。
首脳級を送った国も、必ずしも中国の立場に賛同したというわけではない。米ブルームバーグ通信によると、アルゼンチンのフェルナンデス大統領は北京滞在中に2カ国間の通貨スワップ協定延長を中国側に要請。中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)も中国政府による5億ドルの支援と新型コロナウイルスワクチン5000万回分の提供を受けるという約束のもと、出席を確定させた。
世界の主要国が一斉に抜けたことで、開会式では発展途上国が目立つようになった。同通信は、世界銀行のデータに基づく集計として、首脳を派遣した国の国内総生産(GDP)を合わせても世界全体の6%に過ぎないと報じている。
◇「中国台北」
開会式では、習近平国家主席の隣に、中国共産党政治局常務委員と王岐山副主席が序列順に立った。
大会組織委員会の会長で、中国共産党北京市委員会の蔡奇書記はスピーチの際、「尊敬する習近平主席、彭麗媛夫人、バッハ会長……」と切り出し、次のように誇示した。
「14年前、ここで北京五輪の聖火をともし、中華民族100年の夢を実現した。きょう、われわれはここで、北京が世界で初めて夏・冬二つの五輪を開く都市となり、中国が五輪ムーブメントのために新たな伝説を書き続けるのを目の当たりにしている」
「習主席自ら推進し、中国政府の強力なリーダーシップの下で、われわれはグリーン、共有、オープン、クリーンな五輪という理念に沿い、IOCと協力し、新型コロナウイルスの影響を乗り越えてきた」
中国が国際社会を先導していることを強調したのだ。
一方、開会式での代表団入場の際、台湾の呼称をめぐる見解の違いが明らかになった。会場のアナウンスは従来通り「チャイニーズ・タイペイ(中華台北)」だったのに、CCTVアナウンサーは「中国台北」と呼んだ。
日本での放送では、台湾代表団が入場した際には代表団を映していたが、CCTVは貴賓席から見守る習主席の映像に切り替えていた。香港代表団の際には「ホンコン・チャイナ(中国香港)」で、その際には日本での放送も習主席の姿を放映していた。
中国宣伝当局は、国内向けに「一つの中国」原則に基づき、台湾も中国の一部であることを強調した形だ。
台湾代表団の呼称をめぐり、中国側が先月の記者会見で「『中国台北』の選手団」という呼称を使っていたため、台湾側は「中国側が開会式でも『中国台北』と呼ぶのではないか」との警戒感が広がり、一時は開閉会式への不参加を表明していた。