日本人は「不幸せ」になっている?最新調査が示すものは
3月20日、国連と米コロンビア大学などが世界幸福度レポート(World Happiness Report)2017を発表しました。
世界155か国で「幸福」について調査を行ったところ、もっとも幸福度が高い国はノルウェーであり、第2位はデンマーク、そして第3位はアイスランドでした。
気になる日本は51位で、ロシア(49位)より低く、韓国(56位)より高いとの結果。残念ながらG7(先進7か国)では最下位でした。
ただ、そう聞いても「”幸福”なんて人それぞれ。余計なお世話っていうか、どうでも良くない?」という気もしてきますよね。
そもそも、どうやって「幸せ」を測ったのでしょうか?そして、何のためにこの調査を行ったのでしょうか?
無料公開されている報告書を読んでみました。
「幸せ」をいかに測るか
どのように各国の順位を決めたのか?その方法は、意外とシンプルです。
それぞれの国のおよそ1000人に協力してもらい、ひとつの質問に答えてもらいます。
0から10まで段に番号が付いたハシゴを想像してください。一番上の段は、あなたにとって考えうる最高の生活だとします。一番下は、想像しうる上で最悪の生活です。どの段が、いまのあなたの状態を表していると思いますか?
いまの生活に満足している人(「幸せ」を感じていると思われる人)は7とか8と答えるでしょうし、そうでない人は2や3と答えるかもしれません。それを1000人に聞き、結果の平均を出します。
とはいえ1年だけの結果ですと、たまたまその国が好景気に沸いたなどの影響が現れてしまうかもしれません。そこで3年間の結果を平均した数値を出して、それが現時点の「幸福」の状態を示しているとしました。
第1位のノルウェーは、2014年~2016年の平均が7.537でした。それに対し日本は、5.920です。なお最下位は政情が不安定な状態が続く中央アフリカ共和国で、2.693でした。
日本の順位に近い国を見てみると、ロシア、ベリーズ、リトアニア、アルジェリアとなっています。必ずしも経済的に発展している国ばかりではありません。人が「幸せか、そうでないか」を決める要因となるのは、経済状態だけではないようです。
「幸福」は何が決めるのか?
では、「幸福」はどんな要因によってきまるのでしょうか?
報告書を作成した調査チームによると、国ごとの結果の違いの4分の3は、次の6つの要因によって説明できるのだそうです。
1)経済的豊かさ(一人当たりのGDP)
2)健康状態(健康寿命の長さ)
3)社会的なサポート(困った時に頼れる人がいるか)
4)人生の選択の自由(職業・結婚などの選択を自由にできるか)
5)寛容さ(他者にどのくらい寄付をしたか)
6)腐敗の認識(政府や企業が腐敗していると思われているか)
それぞれの項目について、日本についてのデータを見てみると、実は「経済的な豊かさ」や「健康状態」、「社会的サポート」などの項目については、トップの国々と比べてもそん色のない値になっています。
(「寛容さ」の項目は低くなっていますが、これは日本に寄付の文化がそれほど根付いていないことと関連しているように思いました。)
例えば上記6項目を合計したポイントは、11位のイスラエルや12位のコスタリカより高くなっています。
にも関わらず日本の順位がそれほど高くないのはなぜでしょうか?他の国の人々は、上の6つの項目では説明できない部分で「幸せ」を感じている割合が大きいのかもしれません。
日本人は「不幸せ」になっている?
実は日本の「幸福」の順位は、報告書が発表されるようになった2012年の40位から43位→46位→53位→51位と低下している傾向があります。
下のグラフは、およそ10年前と比べて、各国の「幸福度」がどう変化したかを見たものです。日本と、その近くの順位の国を抜粋しています。
データがある122か国のうち、70か国は10年前とくらべて「幸福度」が上昇していました。一方で日本は0.447ポイント低下していました。
2008年のリーマンショックや、その後の東日本大震災などが影響しているのかもしれませんが、諸外国と比べて日本では「不幸せ」な人が増えていると考えられるデータですので、気にかかります。
「幸せ」を感じる人がひとりでも多くなるように、できることはないのでしょうか?
報告書では、日本に関して特に言及はしていません。ただ、同様にこの10年で「幸福」が低下したアメリカ(ー0.372ポイント)について詳細に検討しています。
それによると、10年前と比べアメリカでは「経済的な豊かさ」「健康」が上昇し、わずかに幸福を高める方に作用していました。
ところが、その他の4要因(社会的サポート、人生の選択の自由など)が下がり、経済や健康の上昇効果を打ち消して、「幸福度」の大幅な低下につながっていたということです。
報告書では、対策として社会資本(ソーシャル・キャピタル)の整備を挙げています。具体的にはセーフティーネットの拡充や富裕層への増税、そして医療や教育に公的資金をより多く投じることで「格差」を減らすことなどを提言しています。
特に、若い世代に向けた「教育」の質や平等なアクセスが保障されることが重要だと指摘しています。
なぜ「幸福」を調べるのか?
「世界幸福度調査」が初めて発表されたのは、2012年。わずか5年前のことです。
報告書が発行されるようになった背景にあるのは、これまで「経済成長」に重きを置いてきた国家戦略への反省が、全世界的に広がっていることがあります。
報告書によると2016年、OECD(経済協力開発機構)は「『人々が安心して健康で生きられること』が各国政府の主要な課題になるよう、”成長物語”を再定義する」と宣言しました。
UNDP(国連開発計画)のへレン・クラーク総裁は最近のスピーチのなかで、経済成長だけに目を奪われるのではなく、成長の「質」が大事だとして次のように述べているということです。
「経済が成長すれば(お金持ちになれば)幸せになれる。」私自身、知らず知らずのうちに、そう思っていた部分があります。
もちろん、それは一面では正しいことなのですが、最近の研究では、ヒトが「幸福」を感じるかどうかは様々な要因によって決まり、経済的な豊かさはその一部にすぎないことが分かってきました。
今後、『国民はいま、どのくらい「幸せ」を感じているのか?』を指標とし、それを高めることを目的とした政策・施策のあり方を探らなければならないのではないか?というのが、この報告書の大きなメッセージです。
「日本が何位?」というところに一喜一憂するのではなく、私たちが何を幸せと感じ、それを高めるためにはどんなことをすべきなのか。改めて見直すきっかけとして、参考になる内容だと感じました。
執筆:市川衛ツイッターやってます。良かったらフォローくださいませ