なぜ「挨拶」できる人ほど在宅勤務でも仕事がはかどるのか?
■在宅勤務で明らかになる「格差」
「社員の在宅勤務がつづいていて、個人の生産性に大きなバラつきが出ている」
と、連絡を受けた。新型コロナウイルスの影響で、ほぼ全社員を在宅勤務にした会社の社長からだった。
「仕事ができる人と、できない人との差が顕著に出ている」
と言うので、「そりゃあ、そうでしょう」と答えた。ふだんから仕事ができる人が在宅勤務になると、ますます生産性は上がり、反対に、仕事ができない人が在宅勤務になると、ますます生産性が悪くなる。
社長は電話口でため息をついた。大いに心当たりがあるようだ。
「どこで見分けますか?」
そう社長に聞かれたので、私は即答した。ズバリ「挨拶です」と。
「ふだんから挨拶できる人は、在宅勤務でも大丈夫です。挨拶が物足りない人は、心配ですね」
そう言うと、電話口から聞こえる社長のため息は、さらに大きくなった。
■仕事ができる人、仕事ができない人の「型」とは?
それでは、なぜ「挨拶」できる人のほうが、在宅勤務でも仕事がはかどるのだろうか? おそらく、何となくわかるようで、わからない人が多いことだろう。
そこで、まず、仕事ができる人は「設定型」。仕事ができない人は「発生型」、と覚えておこう。
みずから仕事を設定している人は、当人の「スケジュール」を見れば一目瞭然だ。
今日、何をするのか。今週、何をするのか。
組織から求められる役割を十分に理解し、目標を設定し、目標から逆算してタスク分解して、その内容をスケジュールに書き込んでいるから明瞭だ。
自分で考え、キチンと設定する習慣が身についている。
いっぽう、仕事ができない人は常に受け身だ。何かが発生するごとに仕事をする。なので、行き当たりばったり。スケジュールもザックリとしか書けない。書いていても、予定外のことばかりしている。
個人目標があっても、人に振り回されてばかりだ。計画通りに物事が進まないから、当然目標も達成しない。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。「発生型」の人を、いかにして「設定型」にするか。いつもクライアント企業で試行錯誤を繰り返している。
■顔を見ると用事を思いつく?
「ヒトは、顔を見ると用事を思いつく」という法則がある。
自分で仕事を設定できない人も、オフィスにいると仕事が自然と発生する。なぜなら、上司や先輩に顔を見られることで、彼ら彼女らが何か仕事を思いついてくれるからだ。
「あ、そうだ。もし時間があったら、顧客データベースを整理してもらえないかな」
「ちょうどいい。もし時間があるなら、午後から企画部との会議に出てくれないかな」
と声をかけられる。
当然「設定型」の、仕事のできる人は、「もし時間があったら」と上司に言われても「すでに予定が入っているので」と断る。
それでも上司が「いや、できれば時間を作ってほしいんだけど」と言ってくれば再考するが、ほとんどのケースで、
「じゃあ、いいよ。もし時間があったら、と思っただけだから」
と言われるから、丁寧に断れば何も問題は起こらない。
しかし「発生型」のできない人は、自分の予定に仕事を設定していないので、「大丈夫です」「時間、空けます」などと言って、上司の言いなりだ。結果的に、やらなくていい仕事に付き合わされることになる。
それにしても組織というのは、不思議な場所だ。
そこに人がいるだけで、なぜか仕事が自然と「発生」してしまう。そして、その発生した仕事をアテにして、日々オフィスで過ごしている人も存在する。だからなのだ。在宅勤務になった途端に困るのは。このような発生型の人は、一気に「社内失業者」へと転落する可能性がある。
みずから仕事を設定することができないので、自宅で「指示待ち」をすることになる。これでは「在宅勤務」とは名ばかりの、事実上の「自宅待機」である。
それどころか、家族に顔を見られることで、奥様や子どもが用事を思いつくことも頻繁にあるだろう。
「あ、ちょうどいい。今から郵便局いくから、洗濯物とっておいてくれない?」
などと”仕事”を依頼される。
「おい、俺は在宅勤務の身だぞ。仕事中なんだよ」
と言っても相手にされない。
「いいじゃない。5分ぐらいで終わるんだから。あと、子どものオムツもお願いね」
■挨拶は戦略的に!「あえて確認」
冒頭、「挨拶できる人は、在宅勤務でも大丈夫」と書いた。なぜか?
設定型の人は、毎日、誰に挨拶をしたほうがいいのか、在宅勤務のときであろうと自分自身で設定している。
「上司であるA課長には毎朝電話して、挨拶ぐらいはしよう」
「B先輩にはプロジェクトの件でお世話になっているから、3日に1回ぐらいは電話で挨拶してみよう」
「C社の部長さんは、一か月に1回は電話で挨拶しよう」
このように。
いっぽう、仕事ができない人は、必ず「発生型」で挨拶している。オフィスで上司に顔を合わせたら、挨拶する。お客様から問合せがあったら、挨拶にいく。すべて「たられば」だ。
いつもこのような感じで挨拶をしているので、在宅勤務になったら、挨拶する機会がなかなか発生しない。だから、毎日誰とも挨拶せず、一日が過ぎていくことになっていく。
オフィスで顔を合わせたら、元気よく挨拶する人が「挨拶できる人」とは言わない。
円滑なコミュニケーションがとれるよう、ふだんから信頼関係を構築しておいたほうがいい相手と戦略的に挨拶できて、はじめて「挨拶ができる人」と呼ぶのだ。
さて最後に、在宅勤務時の挨拶のコツをお伝えしよう。コツは「あえて確認」を心がけることだ。
たまたま顔を合わせれば自然と挨拶できるが、在宅勤務であれば、そのようなチャンスが発生しない。なので、もしはっきりとした用事がなければ、わかっていることを「あえて確認」してみるのだ。
「課長、おはようございます。先週のWEB会議の議事録、私から部長へ送ればいいですよね」
「Cさん、お疲れ様です。ひとつ確認ですが、こちらの請求書ってコピーデータを社内フォルダに入れておけばいいですよね」
と、こんな感じでいい。ふだんから良好な関係ができていれば、「そんなこといちいち確認するために電話してこなくてもいいよ」なんて言われない。
デール・カーネギーの、
「人に好感を持たれたければ、誰に対しても挨拶をすることだ。挨拶ほど簡単でたやすいコミュニケーション方法はない」
という名言を参考に、なんだかんだ理由をつけて、姿が見えない人にも積極的に挨拶するようにしよう。そうして社内の人、お客様たちと信頼資産を積み上げていくのだ。そうでないと、これからの「テレワーク時代」を生き延びていくことは難しい。