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「視聴率史上最低」は朝ドラだけではない

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像:「いらすとや」のイラストを筆者が構成

朝ドラは直近3作がワースト3位までを占めている

先週、朝ドラ「ちむどんどん」の平均視聴率が15.8%だったことが発表され、「2010年以降最低記録」としてこぞって報じられた。「反省会」ハッシュタグが盛り上がり、連日ネットニュースに批判記事が出たことと絡めて、ドラマとして良くなかったから最低視聴率だったような書き方の記事ばかりで、筆者は違和感を持った。逆にあれだけコテンパンに言われたのにさほど視聴率が下がらなかったのが不思議、というのが筆者の感想だったからだ。

この差は、「最低記録」と書いたメディアが他の番組の視聴率も含めて全体的に今、史上稀に見る下がり方であることに気づいていないからではないかと思う。

朝ドラだけをとっても、平均世帯視聴率を見ると「なつぞら=21.0%」「スカーレット=19.4%」「エール=20.1%」「おちょやん=17.4%」「おかえりモネ=16.3%」「カムカムエヴリバディ=17.1%」と来て「ちむどんどん=15.8%」だった。

「10年以降最低」と言うなら「おかえりモネ」が先だったし、大評判だった「カムカム」も「10年以降ワースト2(「純と愛」に並んで)」だった。朝ドラで見ると、それまでは20%以上が普通だったのが、2020年後半から急激にダウンしている。そっちの方がよほど重大事だと思うのだが。

他の番組の視聴率も急減している

朝ドラに限ったことではなく今、テレビ放送全体の視聴率が大きく下がっている。そのことをはっきりさせるために、データをグラフ化してみた。

ビデオリサーチ社は「過去の視聴率」のページにこれまでのデータをていねいに整理して掲載している。毎週の主要番組も視聴率が高いものをジャンルごとに10番組ずつ載せている。そこで筆者は、2019年以降で番組ごとの視聴率の推移をまとめてみた。今年の直近の数値と比べるために、各年の8〜9月の世帯視聴率の平均を計算してみた。2019年から今年までを比較できるように、できるだけコンスタントにデータが掲載されている番組を選んだ。

その結果がこれだ。

グラフ:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成
グラフ:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成

数値を計算したのは「ポツンと一軒家」「サンデーモーニング」「報道ステーション」「刑事7人」「サザエさん」の5番組。それぞれ各ジャンルで世帯視聴率が高い番組だ。ドラマは企画によって大きくぶれるので、長く続いている「刑事7人」を選んでいる。

結果、2019年から2022年の間にどの番組もはっきり視聴率が下がっていた。傾向としては「報道ステーション」「サンデーモーニング」は2019年より2020年が少し上がっている。コロナの情報を得ようと、この時期は報道・情報番組が伸びたと推測できる。だがその後「サンモニ」は下がっていき、「報ステ」も2021年までは保っていた数字が2022年には下がっている。

「刑事7人」「サザエさん」は2021年までは保てていた数字が2022年にぐんと下がった。「ポツンと一軒家」は一時期は「イッテQ」を越えたと話題になった番組だが、2020年、2021年とグンと下がっている。2022年も引き続き下がった。

テレビ離れは若者だけとは言えない?

2019年と2022年の数字だけを抜き出して表にしてみた。

表:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成
表:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成

どの番組もびっくりするくらい下がっている。そして「サザエさん」のようなファミリーが中心と言われる番組だけでなく、「サンデーモーニング」や「ポツンと一軒家」のような高齢層が中心だった番組まで下がっているのが衝撃だ。もっと別のデータを集めないと厳密には言えないが、「テレビ離れ」がもはや若者だけの話ではないと言えそうだ。

「ちむどんどん」の話に戻ると、朝ドラもこうした大きな視聴率低下傾向の中にあるのだ。

グラフ:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成
グラフ:ビデオリサーチ社の「過去の視聴率」ページのデータより筆者が作成

先ほどの5つの番組の視聴率の変化と、数字の水準は違うが同じような傾向だとわかるだろう。「ちむどんどん」が朝ドラとして「10年以降最低」だと言うなら、おそらくだが「サザエさん」も「サンデーモーニング」も「10年以降最低」なのだ。

個別の視聴率を語る意味はもうない

夏ドラマについても「今季の夏ドラマは全部ダメ!」のような記事を目にした。世帯視聴率の平均が2桁を超えたものが1つしかないとして、その原因を分析していたが、テレビ全体が見られなくなっているだけだ。ドラマの視聴率は2桁台で合格、というのは2010年代後半の捉え方に過ぎない。その基準ではもう視聴率の良し悪しを判断できない状況になった。

このように、テレビ放送は大きな転換期をひそかに迎えている。テレビについて書く側もその前提で、個別の視聴率だけを見て記事にすると「木を見て森を見ない」ことになるので十分に注意すべきだと思う。視聴率を元にどのドラマが良いの悪いの言える状況ではもうないのだ。テレビ全体のことを考察すべき、大きなターニングポイントを迎えている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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