台風が通り過ぎた後の喘息発作に注意 知られざる雷雨喘息とは
雷雨喘息とは
台風が過ぎた後や豪雨後、喘息患者さんが軽度の増悪を起こして来院することが増えます。翌日や翌々日の晴れた日に来院されることが多いです。
天気と喘息の関連は長らく研究されていますが、喘息患者さんに多大な影響を与えているのは気温や湿度などの環境変化だと考えられています。
喘息は、アレルゲンなどの刺激によって気管支がキュッと閉じてしまい、ぜえぜえやヒューヒューと息がしんどくなる病気です。アレルゲンの代表的なものが花粉です。そのため、春のスギやヒノキの花粉症の時期には喘息発作を起こす患者さんがとても多くなります。しかし、秋でも豪雨や台風の後にハウスダストやイネ科雑草・キク科の花粉による喘息悪化を診ることがあります。
秋は夏場に死んだダニの死骸を含むハウスダストが増えます。イネ科の雑草には、カモガヤ、ネズミホソムギ、オニウシノケグサ、ハルガヤ、オオアワガエリなどが含まれます。もともと牧草として輸入されていましたが、繁殖力の高さゆえ、いわゆる「雑草」として日本全国に広がっています。キク科の雑草には、ブタクサ、ヨモギなどが含まれます。
実は、台風や豪雨と気温変化・湿度変化・アレルゲン曝露が重なると、喘息発作が重症化する現象が起こります。これを「雷雨喘息(Thunderstorm asthma)」と呼びます。
10月1日に関東に台風16号が接近しましたが、アストラゼネカ社の「ぜんそく天気予報」(URL:https://www.naruhodo-zensoku.com/forecast/)によると、2日後から東京都の喘息指数は「スーパー警戒」になっています(図1)。
当時ニュースになったので覚えていらっしゃる人もいるかもしれませんが、5年前にオーストラリアで雷雨喘息のアウトブレイクが発生し、午後6時から深夜までに予想の2.5倍の救急要請を受け、院外心停止例も増加したと報告されました(図2)。
雷雨により花粉が破裂する
花粉は通常粒子径がとても大きいので、気道の奥の方に到達することはありません。しかし、雷雨によって湿度が上昇し、花粉が膨張すると、破裂して粒子径が細かくなってしまいます(2)。30~40µmの大きさだった花粉が、10分の1である3~4µmくらいに細粒化されてしまいます(3)。このくらいの大きさになると、終末細気管支という小さな気管支にまで花粉が到達します。この「マイクロ花粉」とも言うべきアレルゲンが、強風とともに遠く離れた地域へ漂着し、その地域の住民の気道の奥に入ってしまうことがあります(図3)。
黄砂も花粉の破裂を惹起することがよく知られています。黄砂にはカルシウムイオンが多く含まれていて、このイオンによって花粉は破裂しやすくなります。また、大気中の物質が直接接触したり衝突したりすると、これも花粉が破裂する原因になります。これにより、喘息の悪化を招くことがあるのです(4)。
この他、カビやハウスダストなどのアレルゲン量の飛散も増えると考えられています。
雷雨喘息の発作が起こりやすい人とは
アレルゲンが気道の奥にまで入り込んでしまうと、これまで喘息もちではなかったのに、しんどい発作が出てしまうことがあります。雷雨喘息で救急受診する人の3~5割程度は、これまでに喘息と診断されていない人です(5-8)。
オーストラリアのアウトブレイクでもそうだったのですが、喘息もちの人が雷雨喘息を起こすと、かなりキツイ発作になります。特に最近調子がよかったので吸入薬をあまり吸っていかった人は、重症の発作になりやすいです。喘息の吸入薬を使うほどではないものの、アレルギー性鼻炎を持っている人は、雷雨喘息のリスクが高いです(9)。
雷雨喘息の対策
そのため、こうしたタイミングでは喘息発作が起きやすいという認識を持って生活することが重要です。私の外来患者さんで、9~10月の気温が低下する台風の時期に吸入薬の量を増やし、それ以外の時期は吸入薬の量を減らすという手法でコントロールしている人もいます。
台風や豪雨の3日後くらいまでは、喘息の悪化に警戒する必要があります。特に、豪雨直後や台風一過でカラっと晴れて気温が高めになる日は外出する際、注意が必要です。
先ほどご紹介した、アストラゼネカ社が「ぜんそく天気予報」(URL:https://www.naruhodo-zensoku.com/forecast/)などのツールを使うのがよいと思います。
(参考)
(1) Andrew E, et al. BMJ. 2017;359:j5636.
(2) Taylor PE, et al. Curr Allergy Asthma Rep. 2004;4(5):409-13.
(3) Suphioglu C, et al. Lancet. 1992;339(8793):569-72
(4) Nakamura T, et al. Environ Health Prev Med. 2020;25(1):8.
(5) Thien F, et al. Lancet Planet Health. 2018;2(6):e255–63.
(6) Forouzan A, et al. J Environ Public Health. 2014;2014:1–4.
(7) Girgis ST, et al. Eur Respir J. 2000;16(1):3–8.
(8) Davidson AC, et al. Br Med J. 1996;312(7031):601–604.
(9) Price D, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021;9(4):1510-1515.