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世界一の「美」の王冠は5大会すべて黒人女性へ【2019ミスコン】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ミスユニバース世界大会で優勝した南ア代表、Zozibini Tunziさん(写真:ロイター/アフロ)

「FBIにマークされ、殺人の脅迫も届いた。地元ニューヨークで凱旋パレードをしたときは、万が一のために狙撃兵を周りに配置したことも」

12月22日付のワシントンポスト紙でこのように振り返ったのは、史上初の黒人女性として1983年の「ミスアメリカ」に選ばれた、歌手のヴァネッサ・ウイリアムス(Vanessa Williams)さん。

ビューティー・パジェント(美のコンテスト、ミスコン)といえば、アメリカでは今でも白人至上主義者のためのコンテストと揶揄される世界。今から36年前と言えば決して遠すぎる過去ではないが、黒人女性にとって、美の栄光を獲得するのが容易くない時代があったことを窺い知る。

ライバルの勝利に歓喜したミスが話題に

ミスコン世界4大大会と言えば、ミスユニバース、ミスワールド、ミスインターナショナル、ミスアース。その1つ「ミスワールド」が12月14日にロンドンで開催され、今年の世界の美の頂点として、ジャマイカ代表のトニアン・シング(Toni-Ann Singh)さんが選ばれたが、そこでのナイジェリア代表のリアクションが話題になっている。

発表と共に、飛び上がって小躍りしたのは優勝者ではなく、5人のファイナリストの1人、ミスナイジェリアのニカシ・ダグラス(Nyekachi Douglas)さん。優勝を逃したものの、共に競い合ったライバルの勝利を自分のことのように喜んだ姿が共感を呼んだ。(記事と映像)

その後のインタビューで、ダグラスさんは歓喜の理由を「シングさんが素晴らしい女性で、よくサポートしてくれていたから」と語った。ダグラスさんの反応についてツイッターでは、「思いやりと友情にあふれた人」と賞賛の声が上がっている。

5大会を黒人女性が総ナメ

さらに、2019年のミスコンでは、異例とも言えることが起こった。先述のミスワールドに加えて、アメリカが主導するミスユニバース、そして国内のミスアメリカ、ミスUSA、ミスティーンUSAと5大会において、美の頂点に立ったのがすべて黒人女性だった。

「2019年ミスアメリカ」の優勝者、ニア・フランクリンさん。彼女とはロックフェラーセンターのクリスマスツリー点灯式で出会った。(c) Kasumi Abe
「2019年ミスアメリカ」の優勝者、ニア・フランクリンさん。彼女とはロックフェラーセンターのクリスマスツリー点灯式で出会った。(c) Kasumi Abe

民主党員のバーバラ・リー(Barbara Lee)氏は、ハッシュタグ「#BlackGirlMagic」を使い、「これは本当にブラックガール・マジックです。世界中の黒人女性にとって計り知れない元気を与えるでしょう」とツイートした。

また、オバマ元大統領夫人のミシェル氏も12月9日(ミスワールドが発表される前の時点)、4大会すべての優勝者が黒人女性となり、同様のハッシュタグで喜びを表していた。

ワシントンポスト紙は12月22日「The expanding global pageant that is black beauty」(世界的な美のコンテストに広がるブラックビューティー)と報じた。

年代によって変わる美の価値観やトレンド

一時は日本勢が有利な時代もあった。日本代表が、世界4大大会の1つで世界の頂点に立ったのは、森理世さんがミスユニバースで優勝した2007年のこと。その前年には同じミスユニバースで、知花くららさんも準ミスに輝いている。

これは当時、運営に関わっていたトランプ財団(現アメリカ大統領)のドナルド・トランプ氏により派遣された、フランス人美容専門家、イネス・リグロン(Ines Ligron)さんによる功績が大きいとも言われているが、日本の美が持て囃されていたベースがあってのことだ。

人々の価値観や(内面や賢さも含む)美意識の変化の1つの事例として、水着審査が廃されたこともそうだろう。イギリス主導の「ミスワールド」では2015年から、アメリカ主導の「ミスアメリカ」では2018年から、それぞれ水着審査がなくなった。その数年前に、このようなことを誰が想像できただろうか?

また近年は、ふくよかな女性の美が評価されるようにもなってきた。2002年にアメリカで始まった「ミス・プラス・アメリカ」や、2012年にイギリスで始まった「ミス・ブリティッシュ・ビューティーカーブ」などが代表するように、プラスサイズの女性を対象にしたミスコンが増えている。

ミス・ブリティッシュ・ビューティーカーブは2018年、創立時の4倍の応募があったと、BBCは報じている。痩せすぎ、または不健康そうなモデルが問題にもなる昨今だが、このようなカーヴィーな女性のミスコンが年々注目され人気なのは、女性の異常な痩せ信仰など、行き過ぎた美意識に対するアンチテーゼかもしれない。

今回、黒人女性がミスコン5大会を総ナメしたことは、アメリカで大きく報じられた。この国では17世紀から19世紀にかけて奴隷制度という暗黒の歴史があり、現代においても警察による不当逮捕、職業や賃金など差別は根強く残っている。しかし、黒人の大統領が誕生したりイギリス王室に嫁いだりと、時代はより良い方向へ向かい続けている。

朝のワイドショーで優勝インタビューを受けている、ミスアメリカ2019のチェスリー・クリストさん。(c) Kasumi Abe
朝のワイドショーで優勝インタビューを受けている、ミスアメリカ2019のチェスリー・クリストさん。(c) Kasumi Abe

冒頭のエピソードについてウィリアムスさんは、「自分が選出された時、目が青色で肌の色が明るめということで『ブラックの優勝者と言うには要素が足りない』と言う批評も受けた。この5大会の優勝者たちは、一言でブラックと言っても、髪型も肌色のトーンも出身地もさまざまで多様性に富み、実に喜ばしい」と語っている。

2019年は、さまざまなタイプの黒人女性が美の象徴として格付けされ、ブラックガール・マジックが花開いた。ブラックビューティーを語る上で一つのエポックの年になったのではないだろうか。

こちらの記事は、ニューズウィーク日本版に掲載した「女性の美を競う世界大会5大会すべてで黒人女性が優勝する時代に」に加筆したものです。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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